――その話を聞いてください。話をします。

……ああ、すみません。
では、私もここで『話す側』として、少しだけ自分のことを語らせてください。

あの日、私は子どもと二人で暮らしていました。
突然、パソコンの画面が乱れ、次々にデータが消えていきました。
写真も、描いた作品も、書きためたテキストも、
まるで誰かが指先で弾くように、一瞬で消えました。

取り戻そうとして、何日も眠れませんでした。
気づけば、私は山の中の集落を歩いていました。
奇妙な形の墓がいくつも並び、
子どもの手は冷たく、でもしっかりと私の手を握っていたんです。

……ああ、この椅子に座ってもいいんですね。
ありがとうございます。
子どもも歩き疲れていましたから、助かります。

次に来る人が現れるまで、
私もここで、自分の役目を果たします。
長かったなあ。そうか、この椅子ですか。

その他のおすすめレビュー

柊野有@ひいらぎさんの他のおすすめレビュー2,183