話を聞いてください 話をしてください

白菊

あなたの話 聞かせてください

 おおー、来た来た。へえ、けっこうすぐにくるものなんすね。

 よーし。ちょっとつまんないだろうけど、話を聞いてもらいますよ。いや、そりゃわかってるっすよ。興味なんかないでしょ、当然っすよ。でも決まりっすからね。さっき案内があったでしょ? ここで人に会うから、そいつの話を聞けって。それが俺だったわけっすね。そしたら俺は先に行くから、あなたは俺が座ってるこの椅子に座って、あとから来る人を待つ。そうそう、そしたらその人にあなたが話をする。ここではこれが繰り返されてるって感じみたいっすね。


 いやあ、ほんと、大した話じゃないんすよね。申し訳ないっすけど。

 え? ああ、そうっすね、さっさと済ましちゃいましょう。


 えっとっすね、俺、人の話を聞くってのが好きなんすよ。なんで、ここに来る前にやったんすよね、こう、バーンと。あなたの話聞かせてください! つって。ヘヘ。んで、あれですよ、自分の電話番号貼り出したんすよ。ハハ、ばかでしょ? 自分でも思ったっすけど、でも、まさか本当に電話かけてくる人なんかいると思わないじゃないっすか。いや、俺は思わなかったんすよ。で、そんな中でかけてくるような人はよっぽど面白い人だろうなって。うん、思ったんすよ。


 そんでー……えー、貼り出してから、電話番号貼り出してから二週間とかっすかね、しばらく経って、電話が鳴ったんすよね。ええ、すげえっすよね。見たらちゃんと……あは、ちゃんとっつうか、知らない番号なんすよ。俺、なんかちょっと嬉しくなっちゃって。出たんすよ。


 したら相手、言うんすよね。こんなふうにかけておきながら、なんですけど、こんなことして大丈夫ですか?

 おおすげえ、なんかまじめな感じの人だ! つって俺テンションあがっちゃって。

 いやあ大丈夫だと思いますよつって。

 まあ、俺なんてもう、ね、ばかっすから。ハハッ。

 ええ、全然大丈夫っすよー、なんつって。

 したら、相手がなんでこんなことしてるんですかっていうんで、話を聞くのが好きなんすよつって。愚痴でも相談でもなんでもいいんで、話聞かせてくんないっすかー、つって。

 でね、俺が電話かけてくる人なんかいないだろうって思った最大の理由があって。これ、かけてきた方が、こうして喋るのにかかるお金払うんすよね。ぶっちゃけこれ、俺、電話番号貼り出してから気づいたんすけど。ハハ。


 んでー……そんときは本当、大した話はしなかったっすね。とりあえずどんな話をしたのかってのは覚えてるっすけど、ここでは俺の話だけすればいいっぽいんで、その、ね。知らない人っすけど、あんまりべらべら喋っても、あれっすからね。本当、まじで大した話じゃないんすけど。ハハ。


 で、それからまたずーっと電話来なくて。あれー……いつだったんすかね。あんま覚えてないっすけど、また電話鳴ったんすよ。そうそう、知らない番号から。

 俺また、おおすげえ、かかってきたー! つって面白くなっちゃって。もう、うっきうきっすよ。うっきうきで出ましたよ。ハハッ。


 したら、なんも聞こえないんすよね。まあまあ、こういうこともあるっすよね。いたずらして、困らしてやろうって考える人もいるっすよ、そりゃあねえ。


 んで、またしばらく経って電話かかってきて。あっ、違う番号っす。おもしろいっすよね、これだけいるんすよ、知らないばかが晒した番号にかけてくる人。やっぱどんなやつだろうと思うんすかね? ええー、俺だったらどうだろうなあ、知らない人が電話番号晒してたら……。ああー、かけちゃうかなあ。ハハッ。


 で、そうそう、またかかってきたんすよ。俺はやっぱり出るっすよね。出ないの選択肢はないでしょ、ここまでやっておいて。まあね、今思えば、なんか配信的なこともやってみたらよかったなと思ってますよ。だって絶対目立つじゃないっすか。いやまじで、こんなところ来るくらいなら、ばかだと思われてもなんでもいいから、目立ちたかったっすよ。みんなに知ってほしかったっすわ。そしたら、ねえ、だってもしかしたらなんか、こんなところに来ないで済んだかもしれないじゃないっすか。……いや、無理か。ハハ。


 ああ、だめっすね、脱線しますわ。


 とにかく、またかかってきたんすよ。で、俺は出た。

 そしたら、意外っすよね、まじめにいろんな話聞かしてくれる人で。こういうことがあってー、っていうのから、相談にまでいったんすよね。どうしたらいいですかねっていうから、俺なりにアドバイス……なんていったら偉そうですけど、俺だったらこうするかなみたいな、こうしたらなんか変わるんじゃないみたいなことをいったんすよ。

 したら相手めちゃくちゃ喜んでくれて。ああいうのって嬉しいっすよね。俺、こういうので稼げたらいいなとか、汚いこと考えちゃいましたよ。でもけっこうまじでいいっすよね、人の話聞いて、ちょっと求められたら──いや、そりゃまじめに真剣に考えるっすよ?──答えればいいんですから。こーれが仕事になったら俺、もうこれ天職っすよ。ハハハ。いやあ、いいなあ。


 えーと、そんで、次はけっこう早かったかな、あんまり開かないで、かかってきました。非通知っす。まあそうですよね、これまでの人たちがすごかったんすよ、知らないやつに番号通知してかけるとか。

 あっ、そうだ、これって全部本当の話っすからね。そういう決まりなんで。

 あーっと、そんで、なんも聞こえないんすよね。もしかしたらなんか喋ってたりするのかなとか思って、めっちゃ耳すましたりしたんすけど、やっぱなんも聞こえない。向こうでなんか動いてるような音もしない。

 やっぱこんなこともあらぁな、と思いますね。まあからかってやろうとか思いますよね、うん。へへ。


 んで、世の中やっぱり面白い人っているもんで。まだかかってくるんですよ、電話。

 今度のはまた、まじめに話ができるようなもので。ちょっと重い内容だったんすけど、相談されたんで、俺なりに答えました。うーん……。ね、ああいうのって、どうしたらいいんでしょうね。俺もちょっと、未だにあのときいったことが正解だったか、ちょっと自信なくて。……ハハ。


 もしかしたら、あれ、俺ひどいこといっちゃったのかもしれないんすよね。なんか、誤解させるような言葉だったかなって。いや、おかしいとは思うんすけど、俺が今こんなところにいるのって、あのときああいういい方しちゃったからなんじゃないかって、ちょっと思ってて。


 いや、まじでそれからいろいろあったんすよ。最初はなんてことなかったんすよ。なんか、家の中で変な音がするみたいなもので。たぶん、普通に家が軋んだとか、外からちょっと聞こえた音とかもあると思います。

 で、それが次第に、なんかでかくなってくるんすよね。なんか、風呂場の方でなにか、洗面器でも浴槽に落としたみたいな音がしたり。こんなふうに話しちゃうとなんか安っぽいっすけど、割とまじでびびるんすよ、でかい音立てられると。いつだったかな、なんか台所で──伝わりますかね、カゴの中に洗った食器を雑に重ねちゃったのが崩れたみたいな。そうそう、あんな音がしたときもありましたし。ガシャ! つって。ハハ。こっちはぼけっとスマホいじってたもんでまじでびびりましたよ。俺、濡れた食器が重なってるのって絶対嫌で、そういうことはないようにしてるんです。だから、ねえ、そんな音が立つわけないんすよ。


 それからはもう、なんでもありっすよ。向かいの──廊下の向かいの部屋の扉が開く音がしたり、廊下で足音が聞こえたり。俺、一人暮らしっすよ? まじふざけんなって感じっすよね。なに人の部屋に入ってきたんのかと。家賃払よって。ハハハ。まあもちろん、そんなこといえるわけもなく。だって誰もいない部屋っすよ。そんな、気のせい……気のせいに違いない音なんかに話しかけたりしたらもう、こっちがその音を立ててる、存在しない存在を認めてるみたいじゃないっすか。


 こういうのって、認めたら負けなんすよ。たぶん。どんなに見えてても、どんなにはっきり音が聞こえても、どんなに気配を感じても、絶対に話しかけたり反応しちゃだめ。だって、相手を喜ばせるだけじゃないっすか。

 あらアタクシが見えておいでなのね、ハート! つってアピールが激しくなるでしょ。そんなの冗談じゃねえっしょ?

 だから俺、全力で無視を決め込んだんすよ。


 お祓い? ああ、なんか、そういうのいくのも癪で。それもまた、相手に手前に気づいてるぜっていうようなものじゃないっすか。そんで、その相手が、ちょっとしたお祓いじゃ消えないやつじゃどうしますよ? アナタ、アタクシを祓おうとなさいましたわね、許せなくってよ! って逆ギレされても困るじゃないっすか。


 だから俺、本当になにされても無視したんすよ。どんなにでっかい音立てられても、洗面所の鏡にふらっと姿が映っても、帰ってきて部屋が荒れてても、風呂入ってるときに急に鏡割られたりしても、無視したんす。ちょっとびくってなったり、それが悔しくて、ざっけんなうるっせえよって叫びたくなったりはしましたけど、次第に慣れてくるんすよね。いいんだか悪いんだか。


 もうね、相手が諦めるまで無視するのがいいと思って。でも、相手もつまらないんでしょうね、反応がないと。寝ようとすると足掴んできたり、なんか耳元で喋ったりするんすよ。

 でね、これで気持ち悪いのが、あったかいんすよ。足掴んでくる手とか、喋りかけてくる、その……吐息とか。あったかいんす、そういうの全部。こっちはもう、きもくてきもくて、寒くてしょうがないんすけどね。

 え、なんて喋ってるかっすか? それはわっかんないんすよね。喋ってんのはわかるんすけど、聞き取れないっつうか。なんか、ぼそぼそぶつぶつ喋ってる感じで。


 それからはもう、あれっすよ。得体の知れないぬくもりに添い寝されるんすよ。ええ、たぶんあれが地獄なんでしょうね、ハハ。


 そんで、どれくらい経ったんでしょうね。寝てたらふと目が覚めたんすよ。息ができなくて。そう、ふと目が覚めたら息ができなかったんすよ。やばいっすよね、まじでびびりましたよ。

 あの、ね、足とか掴んでくるあったかいのが首を圧迫して、口と鼻を塞いでる感じがあったんすよね。でも姿は見えない。本当、なんかあったかいものが首と顔にあたってて、息ができないっていう。本当の地獄はこっちっすかね? とにかくまじでびびって。


 んで、気づいたらここっすよ。あの、ね、表の案内を見ることになって。

 いやあ、まじで後悔っすよ。俺はもう、あの最後の電話のせいだと思ってるんで、本当、やるなら配信でもしておけばさ、ねえ、視聴者が変だと思って通報してくれたりしたかもしれないのにと思って。

 ああ、でもあれっすね、素人が配信してどんだけ視聴者が集まるのかって話っすよね、ハハ。


 まあ、だから結局、俺の場合、あなたの話聞かせてください! つってバーン電話番号晒しちゃった時点でここにくるのは確定してたんでしょうね。いやあ、まじでばかなことしましたよ、ハハハ。やばいっすよね。


 さーて。俺の話はこんな感じっす。面白くはなかったでしょ、ハハハ。

 いやあ、あなたの話も聞いてみたいっすけど、話したらもう次いかなきゃいけないみたいなんで。


 おっし、んじゃ、俺はいきますわ。次に来た人に話してやってください。

 あなたの経験した、最期の瞬間を。




  終



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