タクアンヌの悲しみ

加須 千花

悲しい思い出

 タクアンヌは、あの時、まだ10歳だった。




「きゃあぁ!」


 タクアンヌは、痛みと恐怖で悲鳴をあげた。

 盗賊団につかまり、ボスの部屋につれていかれ、手下の男に両腕をつかまれ、動けない状態にされて、左腕を斬られたのだ。

 こぼれた血は、ピンクの光を発し、ちいさな宝石になり、ころん、ころん、と床に落ちた。


「やめて、痛いよぅ。助けて、助けて。」


 タクアンヌはぐずぐずと泣いた。ボスと呼ばれた男が、


「へえ、面白いな。このガキの血、本当に宝石になりやがる。」


 嬉しそうに笑った。男は、床に落ちた宝石を拾い上げ、指ではじいたり、近くで良く見たりした。

 すぱっ。

 ボスは、まったく予期させない動きで、タクアンヌの右足も斬った。


「ぎゃっ!」

「足から出る血も宝石になるな。だが小粒だな。もう少し大きい宝石が欲しい。おい、もっと深く斬るぞ。」

「ぎゃああ!」


 手下の手が離れ、タクアンヌは床に崩れ落ちた。どくどく、左足からたくさん血が流れる。


「痛い、痛いぃ……。やだ……。助けて、助けてお兄ちゃん……。死んじゃうよ。」

「はっ、これくらいの傷で死なねえよ。死なれちゃ困る。こんな特別な血のガキ、聞いたことも見たこともない。たいしたお宝だからな。

 ……なんだ、深い傷をつけても、でてくる宝石は小せぇなあ。がっかりだ。

 おい、ガキの手当をしてやれ。」

「へい。」


 タクアンヌは痛みにしくしく泣きながら、手当をしてもらった。

 ────ガチャン。

 右足に鉄の足かせをつけられた。

 足かせには、鉄の鎖がついていて、鎖の先には、おおきな、直径20cmセメルほどの鉄球がついていた。


「…………。」


 タクアンヌはすでに、奴隷の鉄の首枷をつけられている。

 今、さらに、右足に重りをつけられたのだ、とわかっても、声を出す元気もなかった。


「おまえには逃げられちゃあ困るからな。ずっとこれをつけててもらおう。

 心配するな。

 殺さねえし、食事もきちんと与えてやるし、どこにも売り飛ばさねえよ、おまえはな。

 ここでずっと、死ぬまでオレの金の卵を産む雌鳥めんどりになれ。」


(そんなの嫌だ。お兄ちゃん、助けて。)


 タクアンヌはそう思ったが、傷が痛すぎて、泣きながらうつむくしかなかった。


「あ、そうだ。おまえの血が宝石になるのは、秘密だぞ、ガキ。

 俺はワサビーン。ボスって呼べ。

 これから長いつきあいになるからな。おまえには特別に一人部屋を与えてやる。くつろげよ。」


 ははは、と笑うワサビーンは、三十代だった。

 その後、タクアンヌは一人部屋につれていかれた。

 一人部屋の扉を閉めたとたん、不細工な手下の男はいやらしく笑って、


「うへへへ、綺麗な顔のガキだ。オレはおまえみたいなガキが好みなんだよ。」


 タクアンヌを押し倒した。


「きゃー!」


 助けて、と叫ぶ前に、すぐさま部屋の扉が開き、一人の男が駆け込んできて、不細工な手下を、背中からばっさり斬った。


「ぎゃあっ、ボ、ボスッ?!」

「おまえガキの女が好きだもんな。多分こうなるんじゃないかと思ったよ。このガキ、顔は滅多にない上物だからな。」


 ワサビーンはあっさりそう言って、


「ほれっ。」


 手下の首をはねた。首を失った身体からは、血が大量にふきだした。


「ひぃっ!! きゃああああ!」


 タクアンヌは腰がぬけた。つい数日前まで、タクアンヌはただの農奴のうどだった。畑仕事をし、毎年の実りを気にかける生活だった。こんな血なまぐさい事には縁がなかった。


 返り血を浴びたワサビーンは、にっと笑って振り向いた。

 凄惨せいさんなのに、その笑顔はまるで、一日の畑仕事を終えたかのような気楽さに満ちていて、かえってタクアンヌをぞっとさせた。


「ごめんなぁ、驚かせたな。

 ガキ、安心しろ。助けてやったぞ。

 オレはお前を襲わない。生娘じゃなくなると、その血が宝石になる力も失われるかもしれないからな。

 だが、皆にはお前をオレの情婦ってことにしよう。そっちのほうが、お前を守れるからな。

 うんうん、それがいい。

 これでおまえの血の秘密は、俺だけしか知らない。

 うんうん、いい事だな。」


 ワサビーンは扉を開けた。


「おーい、誰かブサビーフの死体を始末しろ。この男、オレの女に手ぇだそうとしやがった。」


 遠くから足音が聞こえた。


「ええっ、ボス、本当ですかい。」

「あー、ブサビーフもバカだな。ボスの女に手ぇだそうとするなんて。」


 やってきた手下が、首のない死体を片付けた。

 タクアンヌが呆然としてると、ワサビーンが懐から白い布の包みをだして、タクアンヌの前に放った。


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