第11話

「登録者100万人突破記念! 第一回、湊の手料理を食べる会~!」


パチパチパチと、俺の狭いボロアパートに拍手の音が響いた。


配信中のスマホカメラに向かって、俺は少し照れくさく笑う。

今日の企画は、リスナーからのリクエストで実現した「おにぎりパーティ」だ。


しかし、問題は参加メンバーである。


「湊くん、エプロン姿も素敵。やっぱり新婚さんごっこみたいで興奮するわ」


キッチンで俺の腰に手を回そうとしているのは、銀髪の最強剣士・天宮彩音。

今日は私服のニット姿で、破壊的な可愛さを振りまいている。


「はわわ……神使様のエプロン……尊すぎて直視できません……!」


部屋の隅で拝んでいるのは、金髪の聖女・エリス。

なぜか正装のシスター服だ。


そして。


「ぬくぬく……なんだこの『KOTATSU』という魔道具は。人を堕落させる結界か?」


俺が奮発して買ったコタツに下半身を突っ込み、完全に液状化している真紅の美女。

世界ランキング1位、竜姫ドラゴニアだ。


「あの、ドラゴニアさん? 狭いんですけど」


「私の城に来いと言ったのに、頑なに拒否するからだ。仕方ないから私が来てやった」


彼女はコタツから出ようともせず、みかんを剥いている。

俺の六畳一間が、世界屈指の美女たちで埋め尽くされている。

人口密度と顔面偏差値がおかしい。


【ハーレム乙】

【俺もドラゴニア様と同じコタツに入りたい】

【湊、そこ代われ】

【幸せそうで何より】


コメント欄も祝福ムードだ。

俺は炊きたてのご飯をボウルに入れ、手に塩をつける。


「はい、おまたせ。特製おにぎりだぞ」


大皿に盛ったおにぎりをコタツの上に置く。

瞬間、三人の目の色が変わった。


「いただきまーす!」


ドラゴニアが神速で手を伸ばす。

彩音さんがそれを箸で迎撃する。

エリスがその隙に一つ確保する。


「うまい! やはりミナトの握ったライスボールは格別だ!」


「んっ……美味しい。湊くんの手の味がする」


「彩音さん、表現が怖いよ」


和やかだ。

命がけのダンジョン探索とは無縁の、温かい時間。

こんな日常が、ずっと続けばいいのに。


そう思っていた、その時だった。


ザザッ……。


俺の視界の端で、コメント欄が一瞬歪んだ気がした。


【湊くん、幸せそう】

【次の配信いつ?】

【《■■■、逃げ■》】

【おにぎりの具は何?】


……ん?

今、変な文字が見えたような。

気のせいか?


俺は目をこすり、再び空中の文字を見る。


【今日の彩音ちゃんマジ天使】

【《今日死ぬぞ》】

【ドラゴニア様かわいい】

【《あいつに見つかった》】

【エリスたんペロペロ】


いや、気のせいじゃない。

明らかに異質な、赤いノイズのような文字が混じっている。

しかも、これは未来のリスナーからの「攻略情報」とは違う。

もっと禍々しい、警告のような。


【《玄関を開けるな》】

【《来るぞ》】

【《逃げろ》】

【《■■■■■■》】


背筋がゾクリとした。

なんだこれ。

誰かが荒らしているのか?

いや、俺のスキルで見えるコメントは、確定した未来の情報のはず。

それが文字化けしているということは、未来が歪んでいる?


「湊くん? どうしたの、顔色が悪いわよ」


彩音さんが心配そうに顔を覗き込んでくる。

俺が答えようとした、その瞬間。


ピンポーン。


部屋のインターホンが鳴った。

静かな部屋に、電子音がやけに大きく響き渡る。


ビクッとして、俺は心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥った。


【《玄関を開けるな》】

【《開けるな》】

【《開けるな》】


視界の赤文字が、警告音のように点滅を繰り返す。


「宅配便かしら? 私が出るわ」


「待って彩音さん!」


立ち上がろうとした彩音さんを、俺は強い口調で止めた。

部屋の空気が凍る。

ドラゴニアもエリスも、俺の異常な様子を察知して表情を引き締めた。


「……何かいるの?」


彩音さんが声を潜め、手近にあったペティナイフを逆手に持つ。

俺は無言で頷き、壁のモニターへと近づく。


震える指で、通話ボタンを押さずに「映像」だけを表示させる。


モニターの向こうには――。


誰もいなかった。

ただ、薄暗い廊下が映っているだけ。


「……いない?」


いや、下に何かある。

カメラの死角、ドアの足元に。


「私が確認する。下がってて」


彩音さんが音もなく玄関へ移動する。

チェーンをかけたまま、ドアを数センチだけ開ける。


隙間風と共に、冷たい空気が流れ込んできた。

やはり、人影はない。

ただ、足元のコンクリートの上に、一通の「黒い封筒」が置かれていた。


彩音さんは周囲を警戒しながらそれを拾い上げ、すぐにドアをロックした。


「これだけ置いてあったわ。……湊くん宛てみたい」


真っ黒な封筒。

差出人の名前はない。

ただ、中央に白い文字で『Kamishiro Minato』とだけ書かれている。


俺はゴクリと唾を飲み込み、その封筒を受け取った。

指先から、嫌な予感が伝わってくる。


ペリ、と封を開ける。

中に入っていたのは、一枚のカードだった。


そこには、手書きでこう記されていた。


『君のスキル【未来視コメント】は素晴らしい。

 その力を、我々のために使ってくれないか?

 ――拒否権はないが』


「ッ……!?」


俺は息を呑んだ。

バレている。

俺がただコメントを見ているだけじゃなく、それが『未来視』であること。

そして、その正確なスキル名まで。


俺は今まで、このスキルの正式名称を誰にも話していない。

彩音さんにも、リスナーにも、「コメントが見える」としか言っていないはずだ。


なのに、なぜこいつは知っている?


【《見つかった》】

【《逃げ場はない》】

【《第一章、終了》】


視界のコメントが、赤黒く染まっていく。

俺の手の中にある黒いカードが、まるで死刑宣告のように重く感じられた。

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【悲報】俺のスキルが「コメント欄が見える」だけだった件。でもリスナーが神すぎて、最強ヒロインたちに養われています kuni @trainweek005050

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