第10話

ズガァァァンッ!!


彩音さんの一撃を背中に受け、ドラゴニアが壁に叩きつけられた。

土煙が舞う。


「やったか!?」


お約束のセリフを吐いてしまったが、相手は世界最強だ。これくらいで倒れるはずが……。


「……見事だ」


煙の中から、ドラゴニアが無傷で現れた。

HPバーは1ミリも減っていない。硬すぎるだろ。


だが、彼女は両手を上げていた。


「私の負けだ。降参しよう」


「え?」


「理由は簡単だ。これ以上戦うと、口の中に残る『酸っぱいプラム』と『米』のハーモニーが消えてしまうからな」


彼女はうっとりと自分の唇を撫でた。


「この余韻に浸っていたい……。戦闘などという野蛮な行為で上書きしたくないのだ」


《ズコーッ!!》

《理由が可愛いかよw》

《おにぎりで世界最強を陥落させた男》

《伝説の配信だわ》


会場中がずっこける中、試合終了のゴングが鳴り響いた。

俺たちの勝利だ。

納得はいかないが、勝ちは勝ちだ。


   ◇


試合後、控室にて。


「ミナトオオオオオッ!!」


ドアが破壊されそうな勢いで開き、人間形態に戻ったドラゴニアが飛び込んできた。

真紅のドレス姿の美女が、俺の手をガシッと握りしめる。


「素晴らしい接待だった! あのおもてなしの心、まさに『ヤマトナデシコ』だな!」


「いや俺男だし……」


「約束通り、お前を私の夫にしてやる! さあ、今すぐ私の国へ来い! 毎日『ミソスープ』を作ってくれ!」


完全に求婚された。

しかも理由が味噌汁。昭和のプロポーズかよ。


「ちょっと待ちなさいよ、メスドラゴン」


冷え冷えとした声が割り込んだ。

彩音さんが、俺とドラゴニアの間に割って入る。


「湊くんは私のものよ。私のおもちゃ……じゃなくて、頭脳なんだから」


「おもちゃって言った?」


「あら、聞こえちゃった? とにかく、勝手に連れて行かないでくれる?」


彩音さんの瞳からハイライトが消えている。

対するドラゴニアも、王者の威圧感を放ち始める。


「ほう? 敗北者がよく吠える。力づくで奪ってもいいのだぞ?」


「上等よ。現実(リアル)で斬り合えば、どっちが上かわかるんじゃない?」


バチバチと火花が散る。

そこに、もう一人の伏兵が参戦した。


「ずーるーいーでーすーッ!」


エリスが俺の背中にしがみつく。


「神使様はみんなのものです! 独り占め禁止です! でも一番近くにいるのは私ですぅぅ!」


「離れろ聖女! 湊くんの背中の成分を吸うな!」


「嫌ですぅ! くんかくんか!」


「騒がしい奴らだな。ミナト、私の城なら広いぞ? ハーレムを作るには最適だ」


「なんでちょっと乗り気なんだよアンタは!」


右にヤンデレ剣士。

左にポンコツ竜姫。

背中に狂信者聖女。


俺は完全に包囲されていた。

逃げ場なし。


ふとスマホを見ると、画面には『チャンネル登録者数:1,000,000人突破!』の文字が輝いていた。

夢にまで見た100万人。

それがこんな、カオスな形で達成されるなんて。


「はは……これからどうなっちゃうんだ、俺の人生……」


俺の乾いた笑い声は、三人の美女たちの喧騒にかき消されていった。


   ◇


――その頃。

とある暗い部屋で、一人の人物がモニターを見つめていた。


画面に映っているのは、ドラゴニアにおにぎりを投げつける湊の姿。


「……見つけたぞ」


男の声が、闇に溶ける。


「未来の因果律を歪める『特異点(イレギュラー)』。まさか、こんな場所に隠れていたとはな」


男はニヤリと笑い、キーボードを叩いた。


「せいぜい楽しんでおけ。お前の『コメント欄』が、いつまで味方でいてくれるかな?」


エンターキーが押される音が、不気味に響いた。


(第一章 完)

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