第5話
翌朝。
スマホのアラームで目を覚ました俺は、通知画面を見て心臓が止まりかけた。
『通知:999+件』
「……は?」
寝ぼけ眼でSNSを開くと、タイムラインがとんでもないことになっていた。
《【神業】Fランク配信者がバジリスクを目隠しで完封www》
《この剣士ちゃん可愛すぎだろ》
《指示役の男、何者? 未来予知でもしてんの?》
昨日の配信の切り抜き動画が、一晩で数百万再生されていた。
トレンドには「#目隠し討伐」「#指示厨と剣士様」の文字。
ネット掲示板も祭り状態だ。
《ヤラセに決まってんだろ。バジリスクにあんな動きできるわけない》
《いや、解析班の報告見たか? CGの痕跡なしだぞ》
《あの指示のタイミング、完全にコンマ1秒単位で合ってる。人間業じゃない》
《俺たちの彩音ちゃんが、どこの馬の骨とも知らん男に飼い慣らされてる件について》
賛否両論。
だが、間違いなく俺たちは「バズった」。
一夜にして、底辺から注目の新人へと駆け上がってしまったのだ。
「……まじかよ」
胃が痛い。
俺の実力なんて皆無なのに、ハードルだけが成層圏まで上がっている。
◇
そして昼休み。
学園での俺の平穏は、完全に破壊された。
「湊くん! お昼一緒に食べましょ!」
ガララッ!と教室のドアを開けて現れたのは、渦中の人・天宮彩音だ。
普段は孤高の美少女として誰も寄せ付けない彼女が、満面の笑みで俺の机に突撃してきた。
手には、風呂敷に包まれた巨大な重箱。
「え、天宮さん? ここ俺の教室……」
「お弁当作ってきたの。はい、あーん」
彼女は周囲の視線など微塵も気にせず、卵焼きを箸でつまんで俺の口元へ突き出す。
教室中が静まり返る。
男子生徒たちからの殺気が、背中に突き刺さるようだ。
「ちょ、天宮さん、みんな見てるから!」
「見せつければいいじゃない。湊くんは『私の』だって」
彼女の瞳が、一瞬だけ暗く濁った気がした。
独占欲。
昨日の共依存プレイで、彼女の中の何かが完全に壊れてしまったらしい。
俺は半泣きになりながら、その卵焼きを食べた。
味はめちゃくちゃ美味しかったのが、逆に怖い。
◇
放課後。
俺たちは逃げるように学園を出て、探索者協会(ギルド)へと向かった。
正式にパーティ登録をするためだ。
協会のロビーは、多くの探索者たちで賑わっていた。
俺たちが受付に向かおうとした、その時だ。
「ふざけんな! お前のせいでクエスト失敗だぞ!」
怒声が響き渡った。
ロビーの空気が凍りつく。
声の主は、いかにも強そうな鎧を着た大男たちのグループ。
彼らが囲んでいる中心には、一人の少女がうずくまっていた。
金色の髪に、透き通るような碧眼。
シスター服のようなローブを纏った、儚げな美少女だ。
「ご、ごめんなさい……! 怪我を治そうと思って……」
「治す? お前の魔法は破壊活動だろ!」
男が少女の杖を蹴り飛ばす。
「『聖女』なんて嘘っぱちだ。ヒール一発でダンジョンの壁を崩落させやがって! お前なんかクビだ、二度とツラ見せるな!」
いわゆる「追放」の現場だ。
少女は涙を浮かべて震えている。
かわいそうに。
でも、事情も知らない俺が口を出すのは……。
そう思った瞬間、俺のスキルが発動した。
【うわ、出たw 伝説の追放シーン】
【あの男たち見る目なさすぎワロタ】
【彼女こそ、後に『殲滅の聖女』と呼ばれる最強ヒーラーだぞ】
【魔力量が多すぎて制御できてないだけなんだよな】
【ここで拾っとけば、将来国を救うレベルの戦力になる】
【湊、絶対に確保しろ!】
……え?
最強ヒーラー?
あの泣いてる子が?
未来のコメントによれば、彼女の名前はエリス。
治癒魔法の威力が強すぎて、回復どころか対象を爆散させたり、地形を変えてしまう「核弾頭」らしい。
要は、出力調整ができないだけの原石だ。
「……育成法を間違ってるだけ、か」
俺には『未来視コメント』がある。
彼女の魔力制御のコツだって、未来のリスナーが教えてくれるはずだ。
これは、運命の出会いかもしれない。
俺が一歩踏み出そうとした時。
隣から、恐ろしいほどの冷気が放たれた。
「……ねえ、湊くん」
天宮彩音が、能面のような無表情で男たちを睨みつけている。
「あいつら、うるさい。湊くんとの大事な時間を邪魔してる」
彼女の手が、腰のレイピアに伸びる。
「斬ってもいい?」
「待て待て待て! 落ち着け彩音さん!」
「だって、湊くんが不快そうにしてたから」
違う、俺は不快なんじゃなくて、あの子を助けようと……あ、これ言ったら余計に拗れるやつだ。
俺が止める間もなく、彩音さんはスタスタと男たちの方へ歩み寄ってしまった。
「そこ、退いてくれる? 邪魔なんだけど」
氷の刃のような声が、ロビーに響き渡った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます