第4話 チート能力は最高性能でお願いします

「新しい世界で、新しい人生を始めていただきます! もちろん、お詫びとして、チート能力もお付けします!」


 チート能力!?


 本当に、ネット小説みたいな展開!?


「ちょっと待ってください。異世界って、どんな世界ですか?」


「剣と魔法のファンタジー世界です! モンスターがいて、ダンジョンがあって、冒険者がいて、魔王もいます!」


 典型的なファンタジー世界。


 うーん、それはそれで面白そうだけど……。


「あの、私、戦うの苦手なんですけど」


「大丈夫です! チート能力を3つまで差し上げますから! 最強の剣術でも、究極の魔法でも、不死身の肉体でも、何でもお選びください!」


 3つも!?

 太っ腹だな、神様。


 でも、剣術とか魔法とか、私には向いてない。

 だって、運動音痴だし、勉強も苦手だし。

 それに、私がしたいのは、戦うことじゃない。


「あの、戦闘系じゃない能力でもいいんですか?」


「え?」


 神様が目を丸くする。予想外の質問だったらしい。


「いや、だって、私がやりたいのは、冒険とか戦いとかじゃなくて、のんびり暮らすことなんです」


「のんびり……ですか」


「はい。可愛いペットと一緒に、スローライフを送りたいんです」


 神様が困った顔をする。


「でも、異世界は危険ですよ? モンスターもいますし、盗賊もいますし」


「だからこそ、安全に暮らせる能力が欲しいんです」


 その言葉に、神様はどこか合点がいったような表情を浮かべる。


「なるほど! ええ、もちろん大丈夫です! 戦闘系以外でも強力な能力はたくさんありますよ!」


 よし、食いついた!


 心の中でガッツポーズ。社会の荒波に揉まれてきた28歳の元OLの経験をなめてもらっては困る。相手が神様だろうと、交渉は有利に進めるのが鉄則だ。


「そうですよね。ところで神様、今回の件、完全にそちらの100%過失ですよね? いわば業務上の事故。労災認定ものですよ」


「うっ……は、はい! その通りでございます!」


「私の失われた28年間の人生と、これから得られたはずの生涯年収、そして精神的苦痛に対する慰謝料を考えると、チート能力3つというのは、正直、ちょっと少ないように思うのですが」


「そ、そうですか!?」


「ええ。せめて、5つくらいはいただかないと、割に合わないかと」


 ぐいっと前に出て、有無を言わせぬ圧力プレッシャーをかける。前世で営業部の部長相手に鍛えたスキルだ。


「い、いや、5つは……その、世界の因果律とか、魂の許容量とか、いろいろとシステム上の問題が……」


 神様が必死に言い訳を始める。なるほど、やっぱり無理な要求だったか。でも、最初から無理な要求を提示して、相手に「それは無理です」と言わせ、落としどころを探っていくのが交渉の基本だ。


「では、こうしましょう。能力は3つのままで結構です。その代わり、これから私がお願いする3つの能力は、一切の妥協なく、私の要望通りの最高性能フルスペックで実装してください。それで手を打ちます」


「……最高性能、ですか?」


「はい。これでご不満なら、私はここに座り込みます。日本エリア担当ということは、あなたの上司はアマテラス様あたりでしょうか? その方に、ことの顛末を全てお話しさせていただくまで」


「わ、分かりました! 分かりましたから! それで結構です! あなたの要望通り、最高の性能でお付けします!」


 神様が涙目で頷く。よし、交渉成立だ。


「……では、どんな能力をご希望ですか?」


「話が早くて助かります。では、私の理想のスローライフを実現するために必要な能力は……」


 ここは慎重に選ばないと。


「まず一つ目。異世界でもインターネットが使える能力」


「はぁ!?」


 神様の声が裏返った。


「イ、インターネットですか!? 剣術とか魔法じゃなくて!?」


「はい。特に通販サイトが使えるようにしてください」

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