双星のアルカディアー〝ラスボス〟になるはずだった双子の姉を助けたら、死ぬほど溺愛されるようになりましたー

遊川率

第1章 プロローグ

第1話 生まれつきの〝アザ〟

 その日、シルヴェリオ侯爵家に双子の女の子が生まれた。

 姉はヒルダ、妹はエミリアと名付けられた。

 二人は本当にそっくりだったが、一つだけ違うところがあった。

 それは、姉であるヒルダの顔には生まれつき大きな〝アザ〟があったことだ。

 両親はその〝アザ〟をどうにかできないかと可能な限り手を尽くした。

 しかし、どうすることもできなかった。

 大きくなっていくうちに消えてくれれば――という願いも虚しく、むしろその〝アザ〟は年齢と共に濃くなっていった。

 ヒルダはその〝アザ〟が原因で、幼少期からあまり外には出たがらなかった。いつも部屋の中にいて、本ばかりを読む子供になっていた。

 一方、妹のエミリアはとても明るくて、まるで天使のような子供に育っていった。

 エミリアは心優しく、いつも笑っていて、周りを幸せにするような女の子だった。

 魔法や勉学の才能にも恵まれ、欠点など何一つなかった。誰もがエミリアを可愛いと褒め、頭を撫でた。


 ――ヒルダには、それが憎くて憎くてしょうがなかった。


 双子なのに、同じ顔なのに、どうしてエミリアばかり贔屓されるのだろう。

 どうしてわたしにはこんなにも醜い〝アザ〟があるのに、あの子にはそれがないんだろう。

 ヒルダは小さな頃からずっと、子供ながらにそんな思いを抱いていた。

 しかもさらに気に食わないのは、エミリアが自分にも優しく、そしてあろうことか姉である自分のことを慕っていることだった。

 ヒルダはエミリアのことが大嫌いだった。

 純真無垢な笑顔を向けられるたび、本当に反吐が出そうだった。

 

 ……もしかして、エミリアは本当はわたしのことを心の中では笑っているんじゃないかしら。そうだわ。きっとそうに違いない。わたしを哀れんで、優越感に浸っているんだわ。


 いつからか、ヒルダはそんなふうに思い込むようになった。

 実際はそうではなかった。

 エミリアは本当に姉のことが好きだったし、心から慕っていた。姉に笑ってほしい一心で、一生懸命話しかけていた。本人はそれがまさかヒルダをさらに追い詰めているとは、もちろん知る由もなかった。

 そして、12歳の誕生日。

 事件は起こった。

 ヒルダが闇の力に目覚めたのだ。

 闇の力に目覚めたヒルダは〝衝動〟を抑えきることができず、エミリアを自らの手で殺そうとした。

 だが、両親がそれを庇った。

 母が身を挺してエミリアを守り、父は本気でヒルダのことを殺そうとしたのだ。

 この時、ヒルダは心の底から黒い炎が噴き出すのを自覚した。

 またエミリアか。

 どいつもこいつもエミリアばっかり。

 どうしてあいつばっかり。

 どうして、どうして、どうして、どうして――ッ!!

 〝衝動〟を抑えられず、ヒルダは両親を殺した。

 だが、ヒルダは血に濡れた自分の両手を見下ろして、ほんのわずかに正気を取り戻した。

 怖くなってその場から逃げ出した。

 あれほど吹き荒れていた憎悪の嵐がぴたりと止んでいた。今度はただ、どうしようもない焦燥感だけがあった。

 どこをどう走って来たのかも分からなかった。

 誰もいない森の中でただ途方に暮れていた。

 しばらくそうしていた。

 ……なぜ。

 ……どうして。

「……わたしは、どうしてあんなことを」

 血に濡れた手を震えながら見下ろしていると、闇の中から〝声〟がした。


 ――それは全てエミリアのせいよ。あなたは何も悪くないわ。


 ヒルダがはっと振り返ると、闇の中に自分が立っていた。

 そいつの〝声〟を聞いてはいけない。

 彼女はそう思ったが、どうしても目を離すことができなかった。

 そいつはゆっくり近づいてきて、ヒルダの顔にそっと触れた。幻覚のはずなのに、ちゃんと〝アザ〟に触れられた感触があった。

 ……これ以上はダメだ。

 いけない。

 こいつの言うことを聞いてはいけない。

 自分とまったく同じ顔をした〝怪物〟は言った。


「あなたは何も悪くない。悪いのは――全てエミリアなのよ」


 ……この瞬間から、ヒルダは完全に闇に呑まれた。

 怪物が囁く甘美な言葉は、崩壊しかけた彼女の心を救う、唯一の救済だったのだ。

 その怪物は誰の心にも棲んでいる。自分自身でさえも知らないような、深い闇の底に。

 彼女はこれから先、あらゆる手を使って妹を苦しめていくことになる。

 妹が藻掻き苦しむ様を見ることだけが人生の悦びとなり、そのためだけに生きていく。

 怪物に魅入られた彼女自身が、本当の怪物となってしまった。

 なぜならば、それが決められた〝運命シナリオ〟なのだから――

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