学園一の美少女が「恩人」と懐いてくるが、あの頃の俺はもういない
uruu
第1話 新クラス
高校二年の初日。
春休みが終わり、久しぶりに学校の門をくぐった俺は、いつものように一人で校舎へと入っていった。
周りには再会を喜ぶ生徒達が騒いでいる。見覚えがあるやつもいる。また、こいつらとクラスメイトになるのだろうか。まあ、俺にはどうでもいいことだ。
さて、自分のクラスに行くか。そう思ったところで、ふと足が止まる。
「……俺って何組だっけ」
うちの高校はネットで事前にクラスが分かる仕組みだ。名前を掲示したりすることもない。だから、何組か忘れてしまえばネットで確認するしかない。スマホを取り出し、自分が2年1組であることをようやく思い出し、俺は教室に入った。
出席番号は2番。ということで、廊下側の前から二番目の席に座ろうとする。その前の席には見知ったやつがいた。一年も同じクラスだった
「よう、お前もこのクラスかよ」
「早くも腐れ縁か」
高校一年で知り合った今泉はそのときも俺の前の席だった。俺は
「岩坂は俺のおかげで二番目なんだから感謝しろよ」
「はいはい、ありがとな」
「それにしても……よく二年になれたな。春休みは補習だらけか?」
「うるせーよ!」
「クックック……」
今泉のこの変な笑い方も久しぶりに聞くな。
それにしても教室の中は妙に騒がしい。
特に、教室の後ろの方でリア充らしきやつらが騒いでいる。前の方でぼやいている俺たちとは別世界だ。
「うるさいやつらと一緒になったようだな」
「仕方ないよ。あの
「清森円華?」
今泉が口にしたその名前には聞き覚えがなかった。
「知らんのか。1年の時も噂になってた美少女だぞ」
「へー……知らんな」
「学園1の美少女も知らないのかよ。まあ、岩坂は女子に興味ないからな」
「その言い方だと変な誤解を招くからやめろ。俺はアンチ恋愛なだけだ」
「アンチ恋愛ねえ……彼女にフラれただけだろ」
「うるせえ」
「クックック……」
こいつには昔のことを話すんじゃなかった。結局、いじられる。俺は中学の時に付き合っていた幼馴染みにフラれて以来、もう恋愛なんてするもんじゃないと決めている。
「じゃあ、なにか? 清森円華に告られたとしても付き合わないのか?」
「そんなことが起こるわけ無いだろ」
「そりゃそうだけど、仮定の話だ」
「じゃあ、仮定で話すが付き合わないね。美少女なんて言われてるやつはたいてい性格が終わってるんだ」
「そりゃ、お前の幼馴染みだけだろ」
「うるせえ」
「クックック……」
結局はアホなやりとりに終始してしまった。
やがて担任がやってきて、退屈な始業式も終わり、ホームルームになった。
「じゃあ、自己紹介してもらおうか。最初は今泉からだな」
「はい……」
やっぱり出席番号順か。今泉がいるから助かっているが、俺が2番目に自己紹介しなくてはならないことに変わりはない。いつものことながら何も考える暇が無いのだ。
あっという間に今泉の自己紹介が終わり、俺の番になった。
「
そのとき、後ろ方でガタッという音がした。なんだ?
「どうかしましたか? 清森さん」
担任が呼びかける。
「いえ、なんでもないです……」
「そうですか。岩坂君、続けてください」
「はい。趣味は……寝ること。勉強全般苦手だけど足はちょっと速いです。よろしくお願いします」
俺が座るとまばらな拍手が鳴った。
そして、俺の後ろのやつの自己紹介が始まった。
……はぁ、退屈だ。俺は片肘を突いて目を閉じ始めた。
だがしばらくすると、教室がざわつき始める。なんだ? 片目を開けて後ろを見る。自己紹介を始める女子が見えた。
――なるほどな
自己紹介を聞くまでもなく誰か分かった。今泉が言っていた学園一の美少女ってやつだろう。長い手足でモデルのようなスタイル、顔は人形のような愛らしさ。間違いない。
「……清森円華です。趣味は勉強かな。スポーツは苦手です。みんなと仲良く出来たらいいなって思ってます。よろしくお願いします」
少し高めの透き通った綺麗な声だ。長いストレートの黒髪をなびかせ、清森円華が席に座ると、盛大な拍手が響いた。
確かに人気者だな。しかし……あの声、どこかで聞いたことがあるような……でも、あんな可愛い子を忘れるとは思えないし、気のせいか。
◇◇◇
ホームルームが終わり、帰り支度をしていると、今泉が話しかけてきた。
「なんかクラスの親睦会的なことをするらしいぞ」
「へー。俺は関係無いけどな」
「そう言うと思った。俺も部活行くけどな」
「そうか。じゃあな」
そう言って分かれようとしたときだった。今泉が俺の背後を見て目を見開く。
「ん? どうした?」
「あ、あの!」
そのとき、後ろから声を掛けられた。俺は振り返る。
そこに立っていたのは清森円華がだった。
初めて近くで見るが……美少女は凶器だな。こんな近くに寄られちゃ危なくてかなわん。俺は思わず後ずさった。
「……俺に何か用か?」
「岩坂慶君……だよね?」
「そうだけど?」
「やっぱりそうだ! 髪伸びてたから全然分からなかったけど、岩坂君だ!」
そう言って清森は歓喜の表情を浮かべ、俺の手を取った。
「え!?」
「あれ? もしかしてわからない? まさか覚えてないとか?」
「……人違いじゃないか?」
「違うよ、私だよ! 覚えてないかな?」
そう言われても俺はこんな美少女に見覚えは無い。
「悪い、全然……」
「そ、そうなんだ……」
かなりショックを受けたのか、清森円華はがっくりとうなだれた。
「すまん、人違いだと思うぞ。だいたい清森なんて名字の子、知らないし」
「あ、そっか! 私、名字変わったんだった。田中だよ。田中円華!」
「田中?」
「うん! 小学校の時に一緒だった田中!」
田中ねえ……田中、田中、うーん……熊本県は田中が多い県だ。小学校でもクラスに1人や2人、必ずいた気がする。いったいどの田中だ?
だが、その瞬間、今聞いたばかりの声が記憶からよみがえってきた。確か俺は……あの声を聞いて、こう言ったはずだ。『田中、いい声してるな。声優目指せるよ』
「まさか声優目指せと言った……」
「そう! その田中! 覚えていてくれたんだ! 嬉しい!」
俺の手を取りぶんぶん振り回す田中。じゃなかった清森円華。
「いや、確かにその田中円華は覚えているが……お前、別人だろ!」
「え?」
「じゃあ、何か? あのときの田中円華が清森円華になったというのか?」
「そうだよ」
「んな、アホな!」
俺は天を仰いだ。確かに女子は数年で見違えるように変わる。いきなり可愛くなる女子もいることはいる。だけど――
「俺が知っている田中円華は背が小さくて天然パーマに眼鏡だったぞ!」
「うん、背は伸びたし、ストレートパーマだし、コンタクトだよ」
「それに……もっと顔丸かったろ!」
「そうだけど……少しやせたし……」
少しってレベルじゃねえぞ……こいつがあの地味で目立たなかった田中円華かよ。女子怖えーよ。
「でも、よかった、覚えててくれて」
清森円華は、ほっとしたように微笑んだ。
「だって……岩坂君は私の恩人だから」
「は?」
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