即死魔法を覚えた聖女。やりがい搾取な教会を破壊して自由になります
熊谷茂太
#1 聖女ですが薄給すぎます
給料明細を開いたカルナを衝撃が襲う。
「んんん~~~~~っ?」
少なすぎるのでは?
先月分の聖女としての職務の詳細が並び、最後に記された今月分のお給金の数字が。
なにかの間違いではという少なさだった。……あれえ?
「えっ、あれ……たしか先月も休日なしで、緊急救助の分とシフト外の出向が続いて……あ、ちゃんと足されてる。ということは…………っ」
合っている。問題ない。いや、問題ないのはちょっと困る。そんな数字だった。
貧相な数字を見つめていても額面は増えてくれない。気づくとカルナは教会前の石段でしゃがみ込んでいた。
「はぇー……食費削らないと……教会裏の食べられるキノコまだ残ってるかな」
驚愕のお給金からカルナがまず考えるのは、食事回りだった。
毎日休みなく働いているのだが貧乏暇なしとは言ったもので、使った記憶はないのに生活費はかつかつ。食費を切り詰めようと自生している可食キノコに詳しくなったのはごく最近のことだ。
「よしっ、今月は食べられる野草も探していこう。キノコとは違う栄養あるよね、食物繊維とか? そのへんのは摘んでも怒られないよね」
ギリギリのサバイバル生活でもしているような台詞。しかし妙に前向きだ。
そんなカルナは、聖女の務めをお仕事にしている。
この世界では、世間に普及している「一般魔法」とは異なり、
黒地のロングスカートに
カルナは過去最長の労働時間と過去最低のお給金が載った明細を見つめながら「あれ?」と目をしばたたかせる。
「先月も休みなしで現場の救助をこなしてきちんと回復魔法もかけて……なのに前よりもお給料が少なくなってるような……わたしの気のせい?」
むしろ働けば働くほど、手取りが減っている気がするのは……錯覚なのかな?
「どうやらあなたも教会のヤバさに気がついたようね、カルナ」
「──あっ、オードリー先輩!」
石段で首を傾けていたカルナに声をかけたのは、カルナの先輩聖女であるオードリーだった。
金髪をアップにまとめ、ピンヒールにスカートスーツ姿。長身でガタイもあるオードリーは、いつもの聖女姿よりも頼もしい
「わーかっこいい! 先輩どうしたんです、その恰好。お出かけですか?」
「お出かけというかお別れよ、カルナ。私は聖女を引退することにしたの」
「………………えっ⁉ えええええ!」
驚いたカルナは石段を蹴って先輩のもとに飛び込んだ。
「先輩が聖女を引退⁉ たしかにスーツはかっこいいですけど、どうしてっ」
「ありがとう。理由は──今のあなたならそろそろ想像つくんじゃない?」
「えっ……あっ、キノコと草ばかりの食生活への不安、とかです?」
「もうちょっと視野を広げてみましょうか」
オードリーは真剣な表情で迫るカルナにちょっと呆れながら答えた。
「あなたが今手にしている給料明細の内容は
「うわー、そうなんです先輩っ。最近タダだからって野生のキノコに詳しくなっちゃって」
「自生してるものをホイホイ口にするもんじゃないわよ……大丈夫なの?」
「はい大丈夫です! 塩があれば美味しくできますし、派手な色のが意外と美味しくて」
「大丈夫なのそれ。わんぱくが過ぎない……?」
元気に
「とにかくね、聖女の仕事ってのは割に合わないのよ。回復魔法は手軽で便利だって、洞窟での狩猟のたびに呼び付けるハンターなんて特にひどい……! あいつら骨が一本折れたくらいでなによ、あと二百本くらいあるくせに! 聖女を休日出勤させるなんて!」
オードリーの嘆きが徐々に荒ぶり、カルナは迫力に気圧される。
「そんな……っ、でも骨折は痛いですし、ハンターさんも
「ふんっ、ハンターはいいわよ。バケモン倒して採掘すりゃニュースでちやほやされて、ミスで怪我しても名誉の負傷扱いだもの。私たち聖女の扱いを思い出しなさい、カルナ」
「あつかい、ですか?」
「そう。つい先日も仕事中に
「おおお落ち着いてください先輩……っ」
魂を燃やすオードリーの叫びに、カルナはおののいてしまう。
──聖女なんて名称のせいか聖性を求められ、かようなクレームが教会にたびたび寄せられるのも事実だ。「聖女なんだから真面目にしろ」「俗っぽいこと言うな」「聖女なのに露店で買い食いしていたぞ」とか総じて理不尽な内容ばかり。
聖女もみなと同じ人間だ。働き過ぎれば疲弊するし欠伸もする。ご飯だって食べる。過酷な労働環境に厳しい人の目まで加わり、聖女は追い込まれる一方なのだった。
「でも先輩っ、回復魔法を使えるわたしたち聖女は使命感を持って務めるべきだって、新米だったわたしに教えてくれたのはオードリー先輩なんですよっ。わたし、本当に感銘を受けたんですから。それが間違いだったなんて、」
「かつてあなたにそう教えたのは確かよ。でも、私が完全に間違っていたわ。
本当に申し訳ない」
すごく
「そんなきっぱりと。すてきな教えなのに、根こそぎ全否定です?」
「そう言わざるを得ないのよ……! なぜなら聖女は使命感を利用され
「使い捨て……て、使ったら捨ててしまうという……あの?」
衝撃的な言葉を復唱したカルナの目がまん丸になる。
「思い出しなさい、カルナ。先月特に異常なほどの労働量だったでしょう」
「あっ、そうなんですよ、けっこう頑張って働きましたっ」
「過労で入院した聖女の代理やら緊急救助要請やらで連続勤務させられてなかった?」
「わー先輩、よくご存じで。あのときは七十時間労働で大変でした。なんやかんやで九十六日連勤になって今日の午後だけやっとお休みが──」
「働きすぎにもほどがあるわああああ!」
オードリーの驚愕が、絶叫となって響き渡った。
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