第4話 見かけなくなった、あの子
優里亜が学校に来なくなって、一週間が過ぎていた。
最初はただの体調不良だと思っていた。
ある女子が、「まあ失恋か」と言った。
噂はそれ以上広がらなかった。みんな自分のことで精一杯だ。
担任に「様子を見てきてくれないか」と言われたとき、私は少しだけ迷った。
正直、優里亜とそれほど仲が良かったわけじゃない。
同じクラスで、帰り道がほぼ同じで、たまに一緒に帰る。それくらい。
でも、だからこそ行ける気がした。
優里亜の家のインターホンを押したとき、返事はなかった。
もう一度押そうとして、やめた。
代わりにスマホで短くメッセージを送る。
「無理なら帰るし」
帰ろうとしたとき、ドアが開いた。
制服じゃない優里亜は、少しだけ小さく見えた。
ボサボサの髪は黒髪に戻っていた。
部屋に入ると、カーテンは閉まり、昼なのに夜のよう。
「学校、どうした?」
私はあえて、軽く聞いた。
「・・・・・・・・行けなくなった・・」
理由は聞かないほうがいい。
床に座って、買ってきたシュークリームを二つ並べた。
優里亜は、手を伸ばさなかった。
でも、私が食べ始めると、少し遅れて同じように食べ始めた。
「ねえ真帆」
しばらくして、優里亜が言った。
「私、自分からフッったんだよ」
私は黙って聞く。
「玲央にフラれて・・・戻りたいと思って連絡したら・・・はっきり断られた」
声は震えていないけれど、感情が削ぎ落とされすぎていて、逆に怖かった。
「私さ、何がしたかったんだろなぁ・・・」
答えは持っていなかった。
「わかんね」
正直に言った。
優里亜は最初、少し驚いた顔をして、それから、ほんの少し笑った。
「だよね」
沈黙。
私はその沈黙を壊さないように、でも放っておかないように、言葉を探した。
「優里亜ってさ」
「・・・」
「誰かに好かれてないと、ダメなタイプじゃないよな」
優里亜は顔を伏せた。
「でも今は、そう思えない」
「今は、でいいよ」
私がそう言うと、優里亜はゆっくり顔を上げた。
「今は何もできなくても、生きてるだけでいい日ってあると思う」
それは自分にも言い聞かせている言葉だった。
帰り際、玄関で優里亜が言った。
「・・・また来て」
聞き間違いかと思った。
「それマ?」
「うん」
でも翌日は行かなかった。その次の日も。
三日後、優里亜からメッセージが届いた。
「外、出てみようと思う」
駅まで一緒に歩いた。
学校には行かなかった。ただ、人が行き交うのを見て、缶コーヒーを飲んだ。
「怖い?」
「少し」
「じゃあ今日はここで」
優里亜は頷いた。
別れ際、彼女は前より少しだけ、背筋を伸ばしていた。
学校に戻る日は、まだ先かもしれない。
でも、優里亜は動き出した。
完全に止まってはいない。
それで十分だと思った。彼女に人生だから・・・
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