その願いは静かに『未来』を変えていく

この物語の主人公は夫の純一と息子の千顕と都内で暮らす書子という人です。
結婚して十五年、幸せな日々を過ごしていた書子の元に衝撃な出来事が襲いかかります。
書子の父が登校中の小学生の列に車で突っ込むという後戻りの出来ない事故を起こしてしまうのです。薬物中毒の上に事故を起こす前に死んでいた父。
その時、書子は父から逃れ、自分の幸せを選んだことを後悔するのです。

こうなる前に、私が殺しておくべきでした。

キャッチコピーにも使われているこの言葉は書子の後悔です。
離れて暮らしていても父の血の縁は断ち切れるものではなかったのでしょう。そうして眠りに落ちた書子が次に目を覚ました時、過去に戻っていたのです。

今の自分の記憶のあるままで過去に戻る。この物語はこの点を巧みに書いていると思います。過去に戻ったから何でも解決するのか、と言われると「そうだ」とは言い難い出来事が書子がこれから重ねる年月に確かに表れていくのです。
この物語は冒頭から是非、どうなっていくのかを戸惑いながら読んで欲しい物語です。
例えばタイトルを見て察する人は察するのではないでしょうか。年号の意味に。
書子の願いは穏やかに静かに日々を積み重ねながら変わっていきます。幼いあの日であれば見えることのなかった景色が今の書子なら見えている。
過去に戻った書子が防ぎたいのは先の未来、父が起こすだろう事故なのです。
その事故を防ぐ為に選んだ選択、変えたものは少しずつ緩やかに書子だけではない周囲を巻きこみながら変化をもたらしていきます。
この先は是非、物語を読んで欲しいです。私は読みながら、出来事や人物も含めて、これは過去に戻ったことで変わったものなのか、或いは従来のものなのか、戸惑いを覚えながら拝読しました。
物語に翻弄されながら、「まさか……」と息を呑みました。
そうしてもう一度、書子さんの歩んだ年月を読み返したくなってしまうのです。
人に翻弄されながら書子の願いによって変わる『未来』を見届けて欲しい物語です。

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