ぼくはあなたについていくことに決めた
- ★★★ Excellent!!!
世界を救うであろう完璧な聖女、の妹が主人公なんです。
美しく聡明で、強大な力を持つ聖女アリシア。その妹であるセレナはちょっと影が薄い。本作の主人公は光を放つ姉ではなく、その影が薄い妹の方。セレナ、すなわち「聖女の妹」です。
あまりに完璧な姉の後ろで、少しばかりの劣等感を感じつつも、姉を慕い、何よりも姉に愛され、やがて、姉のようにはなれなくても自分はこの姉を出来うる限り助けていこうと心に決める妹セレナ。
強大な力を持つ女神のごとき姉。彼女に熱い視線を送る勇者、王族、騎士たち。そこから一歩引いて立つ妹は、姉に対する憧れや嫉妬、愛情、ときに天然ぶりを発揮する姉に母性愛すら感じます。
その感情のゆらぎが一話から描かれていて読者の心を引きつけ、それはずっと続くんです。。
太陽のように輝きつづける姉と、どう頑張っても月でしかない自分。いや下手すれば月どころか小惑星にすらなれない妹。ですが、誰よりも姉を愛し、そして姉に愛されている自分。それを痛いほど分かってもいる。
本作は異世界ファンタジーになるのですが、複雑な設定はなく、ゲーム的要素も皆無です。入り込みやすい世界観の中で描かれる姉と妹の物語。
美しい姉。格好いい姉。ほんとうに頼りになる姉。そして、いつも自分を守ってくれる姉。その姉に愛され、手を引かれて冒険の旅に出発する妹。読めば読むほど、その妹と読者である自分自身が魔法のようにシンクロしていきます。読み進むほどずぶずぶとハマる流砂のよう。
コンテスト参加作品なので、読者選考期間内に最初のところだけ読んでとりあえずレビューを書こうと思っていたのですが、もう無理。途中で抜けることが出来ません。
いったいこの姉はどこまで昇り詰めるのか? 彼女をとりまく男性たちのいったい誰がこの聖女の心を射止めるのか? 姉が主人公でないので、けっこうこのあたりは気楽に楽しめます。
その一方、侵攻してくる魔王軍は強大です。容赦のない敵がもたらす戦禍は苛烈。こちらも目を離せません。なにせ、かなり早い段階で重要な人物が亡くなっているので、もうどこで誰が戦死してもおかしくない。
そして、なによりも、我らが主人公の妹はどうなる? いつまでも姉の後ろにいるの? それともどこかで前に出る? このまま君は影の存在でいいのか!? この誰も注目していない主人公がどうなるのかも、読者の期待をもりもり高めるんです。決してこの子、出来ないわけじゃない。出来ないと思ってるだけなんだよう!
でも、味方の後方を必死に駆けずり回って補助魔法を掛けまくる。これって意味あるのかな?とは、どうしても思ってしまう……。
とにかく、いっけんライトなファンタジーに思えて、底が深い。ちょっと足をすすぐつもりが、気づくとどっぷり首までつかって、もう後戻りできないところにある。足湯のつもりが、これでは雪原の露天風呂だ。
いつものぼくなら、正直30万文字もある長編を読もうとは思わないのですが、いまはすっかりその30万文字が期待の数値でしかないです。
ああ、セレナ。ぼくは最後まであなたについていくことに決めました。姉ではなく、妹のあなたに!