人間と食人鬼の友情を保つのは、一冊の本の続きだった——
- ★★★ Excellent!!!
考えさせられる物語でした。
“彼”との本の語らいを楽しみにしている主人公のウィリアムズは、 “彼”が食人鬼であると知っても平然としていた。それどころか、彼の食糧となる人間を招き寄せている。そんなウィリアムズに“彼”は不満を持っているようだった。なぜウィリアムズは食人鬼である“彼”を追い出さないのか——?
食人鬼の“彼”よりも人間のウィリアムズのほうが奇妙に思えてしまうのは、本作の面白い点のひとつといえるでしょう。ウィリアムズの視点で進められる物語には、どこか異質さやいびつさのようなものが漂います。一方でウィリアムズの目で見る“彼”は、食人鬼であることを除けば、ごくふつうの青年であるように映ります。
そんな種族を越えたふたりの友情は、本を通して均衡を保っているように思いました。
冒頭でウィリアムズは“彼”から人を襲うと告げられ、腹を立てます。その理由は“彼”が人間を食べるからではなく、彼が人間を食べる日に無口になってしまうからです。ウィリアムズは“彼”との語らいが途切れることを嫌っていました。ウィリアムズは本について語ろうと“彼”を誘いますが、彼は話に乗ってくれません。
ウィリアムズにとって“彼”が人間を食べることは、ただの自然な行いです。そんな自明のことを、どうしてわざわざ持ち出すのか。ウィリアムズは“彼”を説き伏せ、納得させます。そうしてウィリアムズは“彼”と本について語らいます。ウィリアムズの姿には、どこか達観しているようなものを覚えました。
ですが、ウィリアムズにはひとつだけ誤解していたことがあるように思います。目を背けていた、と言い換えてもいいかもしれません。
それはウィリアムズが“彼”のことを理解した気になっていた、ということです。
ウィリアムズは“彼”に自分のことを決めつけられたことに対して腹を立て、言い返します。ですが、ウィリアムズも“彼”と同じように彼のことを決めつけていたのではないでしょうか?
物語の終盤でウィリアムズは“彼”からある真実を突きつけられます。 “彼”が均衡を破り、傷ついたウィリアムズはそれでも彼を追い出そうとはしませんでした。
なぜウィリアムズは食人鬼である“彼”を追い出さないのか——?
人が本を読む理由はいろいろありますが、「現実を忘れられる」というのは、そのひとつと言えます。本来、人間のウィリアムズと食人鬼の“彼”は相容れない存在です。そんなふたりの友情は“食人鬼が人間を食う”という現実を忘れられる“本”という存在があるからこそ、成立するように感じました。またウィリアムズが人間であり、 “彼”が食人鬼であるという事実はふたりに変えようのない事実です。ある意味でウィリアムズはそれを悟っているからこそ、 “彼”と“本”について語ることを大切に思っているのではないでしょうか?
ウィリアムズや“彼”の選択については、おそらく人によって解釈が異なるものになるでしょう。そんな考えさせられる物語でした。