妖狼妖虎狂想曲~汰偉と虎巻のラプソディー~ 【竜奇譚 外伝】

鈴懸

汰偉雷 詩の章

第1話 虎巻、ワンコを拾う



 オレの名前は虎巻(こまき)。人間との交雑のトラの妖魔だ。


 東の大陸の北の果ての枯れた大地で生まれた。

 食うものも少なく、いつも腹を空かせていた。少ない食べ物を奪い合っていた。



 そんな中で競争相手だった紀鷹(きおう)、鯰沁(ねんしん)、蛇栖(だす)と手を組んで生き延びる方法を考えた。それぞれが得意な力を活かして旅人から金品を奪った。人間の町へ潜り込んで食料を手に入れた。



 そんな時、追い剥ぎをしようとして蒼雪(そうせつ)に返り討ちにあった。

 一見、細身の優男でチョロいと手を出したら、とんでもなく強かった。


 オレたちはあっという間に叩きのめされた。

 そのまま消されると思って本気でビビッていた。

 なのに蒼雪(そうせつ)は腹を空かせたオレたちに飯を食わせてくれた。



 そしてオレたちを勝手に仕込み始めた。

 最初、オレたちは文句を言って逃げ出そうとした。

 けれど、逆にこのままでは生き延びれないと脅された。


 渋々、蒼雪(そうせつ)の言う通りに頑張ったらオレたちはどんどん強くなった。

 そして元々備わっていた妖魔の力も引き出してくれた。



 蒼雪(そうせつ)はオレたちの命の恩人になった。





 そして、オレたちは蒼雪(そうせつ)の元、賞金稼ぎを始めた。東の大陸専門のちょっと変わった賞金稼ぎだった。

 その後、もともと城の兵士だった蒼雪(そうせつ)に付いて東の王宮にやってきた。脅されて連れて来られたと言ったほうが正しいか。

 実は蒼雪(そうせつ)は竜の子の葵偉雷(きいらい)様の相手(男)だった。オレたちはとんでもないヤツに仕込まれていたと後で知った。



 軍隊なんてオレたちの性分には合わないと思っていたが、住めば都とはよく言ったものだ。気が付いたらここでの暮らしにどっぷりと浸っていた。

 とにかくメシにありつけた。ひもじい思いをしなくてすんだ。野垂れ死ぬことに怯えなくなった。

 正直、助かったと思った。有難かった。


 ま、だからと言って大人しくしているオレたちではなかった。

 規律は破るためにあるはず! オレたちは何かと問題を起こしているらしく、いつも葵偉雷(きいらい)様はキャンキャンと喚いていた。

 そもそも、葵偉雷(きいらい)様自身が蒼雪(そうせつ)とのことで問題を起こしていたらしいが……。



 東の王の石城はバカでかくて、ちょっとした町が一つすっぽり入るんじゃないかってぐらいデカかった。

 なんせ城の中にちょっとした森があるんだぜ?

 初めの頃は迷いに迷って疲れることが多かった。迷子の気持ちがちぃと分かった。

 だが、野生児のオレは森がお気に入りでよく一人でブラブラしていた。




               ◇◇◇




「そろそろ、集合時間か。最近、平和だぜ。体が鈍(なま)るってもんだ」


 虎巻(こまき)は針葉樹が立ち並ぶ森の中を訓練場へ向かって歩いていた。所々、陽の光が差し込み下藪が生繫っていた。下草を踏みしめる音が小気味よい音を立てる。


「……ん?」


 こんもりとした藪の中から小さな尻尾が出ていた。その尻尾がパタッ、パタッと左右に動いた。


「……何の動物だ?この森、動物いたっけかな?」


 虎巻(こまき)は首を傾げた。


 フワフワとした尻尾がまた左右に動いた。

 虎巻(こまき)は尻尾の先を掴んで藪から引っ張り出した。

 尻尾の持ち主は白銀の毛に覆われた小さな動物だった。


「……ワンコ? この森に犬っていたか?」


 虎巻(こまき)は子犬の首根っこを掴んで自分の顔の前に持ってきた。

 子犬は眠っているようで全身ダランと脱力している。

 虎巻(こまき)の目の前でプランプランと揺れていた。


 虎巻(こまき)がマジマジと見ていると子犬の眼が薄っすらと開いた。

 そして朱(あか)い瞳が見えた。と思った瞬間……。



「痛(い)っで――‼」


 虎巻(こまき)は子犬に鼻を嚙まれていた。



「何すんだ―⁉ このクソわんこ‼ オレさまの鼻を噛みやがって――‼」


 虎巻(こまき)が怒鳴った。が、子犬はまたクウ~と脱力して眠ってしまった。

 子犬は虎巻(こまき)の伸ばした腕の先でプランプランと揺れていた。






 森の奥から歩いてくる虎巻(こまき)を見つけて訓練場から葵偉雷(きいらい)が睨んだ。


「虎巻(こまき)! 遅いよ! 何してんの⁉」


「いや、森でこいつを拾ったら鼻を噛まれたんす」


 虎巻(こまき)が赤くなった鼻を擦(さす)りながら答えた。



「……虎巻(こまき)。その子、どうしたの?」


 虎巻(こまき)に首根っこを掴まれたままプランプラン揺れている子犬を見て葵偉雷(きいらい)が尋ねた。



「藪の中から尻尾だけ出していて、そしたらワンコだったんです。でも、ずっと寝てんですよ」


 虎巻(こまき)がボヤいた。



「虎巻(こまき)。その子、ボクにちょうだい」


「え? 葵偉(きい)さま、どうするんですか?」


 虎巻(こまき)が葵偉雷(きいらい)に子犬を手渡した。葵偉雷(きいらい)は子犬を両脇から抱えてため息をついた。



「この子、タイちゃんて言うの。子犬じゃなくてオオカミね……」


 葵偉雷(きいらい)が苦笑した。


「……? オオカミ?」


 虎巻(こまき)の動きがフリーズした。






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