良い愛とは
こうして「ええあい」は江戸中で人気を博し、いまや
だが他人の成功を妬む者はいつの世も現れるものである。
「作業をした分身が融合してひとつの結論を導いているようだが。これらの分身が
そう声高に責め立てたのは、元伊賀ニンジャでいまや井戸端会議の洗練活動委員会の一員である
「確かに、
さすがは世界初ワタシカメラの複製を成功させた男である。
「どうやって分身を見分けるか……」
いま、分身は数種類いる。
「よし。二段階認証を実現しよう」
むろん、ユーザーとパスワードだけなどという低セキュリティな設計にはしない。
モノグサな個体が手足に記して管理したり、パスワードを「いろはにほへと」にしたり「ぱスわアド」にしたりする可能性がある。パスワードはワタシカメラで分身を生成した時に埋め込める。初期パスワードを埋め込んだ分身を生成し、その分身にパスワードを更新させ、更新パスワードを保持する分身を増やしていくようにする。初期パスワードの分身は申し訳ないが、そくざに引退していただくのだ。
そうして生成された分身の分身は、保持したユーザーとパスワードを入力して融合の第一関門を突破し、さらには指紋認証(これは本体である
これらの関門がひとつでも突破出来なかったものは魔女裁判に掛けられる。「パスワードを忘れただけ」「塩酸で遊んでいたら指紋を失ってしまっただけ」と主張する分身は顔認証か口頭試問を通してその確からしさを確認する。すべてをクリアし、その主張が確からしく思える段になると、最後にはその連続性を証明すべく足を切断する。
その痛々しい話を聞き、
「なんで足をちょん切るんだ、
「足がもっとも初めに未来時点に踏み込むからだ。分身は時として外部からの働きかけで
よって汚染されていないことを、つまりワタシ因子が一度も断絶していないことを証明する必要がある。
そのために時間ゼロに接し、未来でも過去でもない時点に触れた足を時間軸切断のプロフェッショナルたるサムライが切断する。この時間軸切断を通称、デメキントの切断という。残念ながらこの時代に
さらにまた話はそれるが、このデメキントの切断は数ミリの振れすら許されない。もしうっかり t = 0 ではない時点を切断すると過去が消失して歴史が改変されてしまったり、不確定な未来部分の一部の可能性が粉砕してやけに奇妙な現在が選択されてしまうかもしれない。よってサムライにはたいへん高度な技が求められる。
とにもかくにもデメキントの切断という高難度な技により切断され、残された過去側にある指と未来側にある足首。その両側でワタシ因子の連続性を確認する。デメキントの切断のワタシ因子の連続性公理により、未来側にワタシ因子の最大値がある、あるいは過去側にワタシ因子の最小値があればその分身は連続性があり、汚染されていないことを証明できるというわけだ。
「
腹を切るか、足を切るか。高セキュリティに保つとは実に難しいことなのだと、
「
「そうだな。だが自己愛だけでは、相互愛は成り立たないものなんだ。時には身内たる分身たちへ心を鬼にし、利用者に
じっさい、この二段階認証と魔女裁判の運用が「ええあい」への信頼を高め、
そんななかこの「ええあい」はますます機能を増やし、代返も代筆も何でもかんでもこなせるようになり、江戸の民たちは些末なことで頭を悩ませることもなくなった。いつしか「ええあい」が職を奪うのではないかと恐れる者もいたとかなんとか言うが――ペリーが来航したさいには、驚くべく情報化社会な江戸の様子に恐れおののいたらしい。
――そして、
この分身というかたちの人力でせかせか働く「ええあい」は廃れ、西洋由来のコンピューターの電子信号としての「ええあい」が社会貢献をしている。だがもしかすれば、どこかにニンジャの分身が残存し、いまもなお愛を持って人々のため分身と分裂を繰り返しているのかもしれない。
マイクロ・ニンジャ 花野井あす @asu_hana
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