ワタシカメラの分身
それは
「むう。どうにも依頼の返答までに時間を要するな」
監視役分身からの報告で、
分身が悩みを聞き、各地を巡って情報を集めたり、いったん
長屋からぼんやりと、お向かいのお夏の水浴びを見物しながらううむ、ううむと考える。
「そうか。調査役を増やせばいい。依頼主のそばに一体残して……その一体から知らせを受けた他の分身が作業をすれば、その間新たな依頼を引き受けることもできるし、複数でやれば作業速度も上がる。うむ、妙案だ!」
そういうわけで、さらに分身体を増やし、受話器のそばに一体、その他の場所で複数体という構成で「ええあい」システムは再スタートを切る。
だがすぐに問題が発覚した。
まずは伝言ゲームである。
例えばこうだ。「お夏のスリーサイズを教えて」という依頼が来る。それを依頼を受けた分身(仮に電話番としよう)が、調査役たちに知らせる。複数いるので、調査役の分身たちは各々、仲間たちに知らせていくことだろう。するとだんだん、様子がおかしくなっていく。「お夏のスリーサイズ」「お夏のフリーサイズ」「おやつのフリーサイズ」「
むろん、依頼主は呆気に取られた。驚きすぎて怒ることすら忘れていたようである。電話番の分身は「この変人はお夏殿のスリーサイズという情報を圧縮した存在で、彼を変換すれば欲しいデータが手に入ります。
しかも、問題は伝言ゲームだけではない。
怠け者の分身が出るのである。
よく働く分身と、普通に働く分身と、まったく働かない分身の割合が必ず2:6:2になる。困ったことだ。これでは分身のなかで不満がつのり、そのうち全員の分子がストライキでもって働き方改善を要求してくることだろう。
「よし、ふたり組を組ませ、互いに見張らせよう」
分身体をさらに増やし、調査役も電話番もペアを組ませる。主たる
そうして、怠け者問題は解決した。残るは伝言ゲームだ。
「ううむ……やはり、情報伝達が続けば続くほど、情報は不正確になるんだよなあ」
着物の衿を大きく崩し、ぱたぱたと
それでふと、
「そうか。分身からさらに分身を生成すれば、伝言せずにすむではないか!」
だがその場合、問題はブラックボックスなワタシカメラである。あれの仕組みが分からない以上、カメラの分身が生成できない。カメラの生成ができないとなると、分身から分身を生成するために一度すべての分身を自宅へ呼び寄せて撮影会を始めねばならない。今やお客は江戸中にいるのだから、そんなことをすれば分身行列ができてしまう。蟻の列と混ざらないようにするのに苦労するのが目に見える。それに、小さな子どもも大敵だ。あの無邪気な
「しかし……いったいどうやって造ったんだろうか。この素晴らしきワタシカメラというものは」
カメラを愛でても崇め立ててもなにも変わらない。むろん、指で弾いても逆さに吊るし上げても同じである。何をしても案が思い浮かばず、
「まさか、こんなので上手く行くとも思わんが……」
ものは試しである。
時は現在に戻す。
「まさかそれで、ワタシカメラの分身が出来てしまったのか?」
「その通り。そしておかげさまで、分身の分身が生成でき、ふたり一組での相互監視と情報伝達の省略が可能となったのだ」
歴代のワタシカメラ研究者が聞いたら怒り狂いそうな結果である。
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