カミルス~仁義の人~

荒川馳夫(あらかわ はせお)

第1話 人類史と戦争

 人類の歴史とは、争いの歴史である。


 人種、宗教、野心、党派対立……。


 いにしえの時代から、我々はきっかけを見つけては武器を持ち、暴力に訴え、敵対する者と戦い、互いに多くの血を流すことを、さながら大気の循環のごとく繰り返してきた。


 そしてそのたびに無用な犠牲――子どもたちや女性、それに老人といった多くの無辜むこの民の命が奪われる悲劇が、気の遠くなる年月にわたって地球上で展開されてきたのである。


 さて、その争いとは分かちがたい人類史において、燦然さんぜんと輝く一つの国が存在した。国の名はローマ。イタリア半島中部に勃興したその都市国家は、紀元前八世紀半ばの建国以来、王政、共和政、そして帝政に政体を移行させつつも約一二〇〇年の長きにわたって存続し続けたことで、古代地中海の歴史に、ひいては古代の人類史に大きな足跡を残した一大強国である。


 そして、その約一二〇〇年という長い歴史の中には当然、国土防衛や敵国への侵攻作戦といった、目的は違えども流血を避けることのできない、忌むべき戦争という大罪も幾度となく繰り広げられてきた。これは複数の史書から裏付けられているものであった。


 ただ、そのローマの歴史の中で極めて稀な出来事――他の地域においてもそうそう見られなかった、大袈裟おおげさに表現すれば「奇跡」とでもいうべき事象が、紀元前四世紀の初頭、ローマがまだ小国であった頃に実現されたことを知っている者は少ないと思われるのだ。


 これから語られるのは、その「奇跡」を実現させたことで、敵だけでなく味方からもその行いを称賛された、とあるローマの軍人の逸話である。

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