【告発】AIに文体を盗まれました(※合法です)

にとはるいち

第1話 はじめに

 まず最初に断っておきますが、これは感情的な糾弾ではありません。

 私は今、冷静に事実だけを記そうとしています。


 私の文体は、AIに盗まれました。

 ただし、違法ではありません。完全に合法です。

 この一文だけで話を終わらせても構わないのですが、それでは誰も信じないでしょうし、何より私自身が納得できません。


 私は早川といいます。四十七歳。職業は作家です。

 少なくとも、長い間そう名乗ることを許されてきました。


 二十年以上、同じ調子で文章を書き続けてきました。回りくどく、比喩が多く、売れない。

 編集者からは「癖が強すぎる」と言われ、読者からは「誰の真似でもない」と評される、そういう文体です。

 それだけが、私の拠り所でした。


 若い頃、私は何度も同じ指摘を受けました。


「意味が分かりません」

「ここ、削れませんか」

「この比喩、必要ですか」


 原稿はいつも、赤字で汚れて戻ってきました。

 特にこの一文は不要だ、と何度も線を引かれました。


 たとえば、誰も気に留めない風景を、無理に文章にする癖です。

 雨上がりの歩道に残った水たまりや、誰かが触ったあと少しだけ傾いた椅子。

 物語に関係があるわけでもないのに、私はそういうものを書きたがりました。


「話が進まない」


 編集者はいつもそう言いました。

 正しい指摘だったと思います。実際、話は進みませんでした。


 それでも、私は消せなかった。

 削れば読みやすくなることも、売れる可能性が上がることも分かっていました。

 それでも、そこを消すと、文章が他人のものになる気がしたのです。


 最初に小さな文学賞をもらったとき、選評にはこう書かれていました。


「物語よりも文体が先に立つ作家である」


 褒め言葉かどうかは分かりませんでした。

 ですが、私はその一文を切り抜いて、長い間机の引き出しに入れていました。


 物語が駄目でも、文体だけは残る。

 それが私の、唯一の言い訳でした。


 だからこそ、後になって編集者に言われた言葉が、忘れられません。


「文体なんて、結局は癖ですよ」


 悪気はなかったはずです。

 それでも私は、その言葉を否定するためだけに、二十年書いてきたのかもしれません。


 ある日、その文体が商品になっていることを知りました。

 AI企業のサイトに、何のためらいもなく並んでいたのです。

 ――「早川風・内省的純文学モデル」。


 それは、私の文章を学習したモデルでした。


 繰り返しますが、これは犯罪ではありません。

 それでも、私はここに告発として書いています。

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