第9話 小春は構ってほしいようです

「――という感じです」


 俺は綾香との話し合いの内容を全て話した。

 当り前ではあるが、香澄先輩は俺の話した内容のすべてを信じているというわけではなさそうだ。


「なるほど。教えていただき、ありがとうございました。完全に信じることは、今の私には難しいので、私のほうで色々と確認してみようと思います」

「はい。それで構わないです」

「それではまた学校で会いましょう」

「はい。また学校で」


 この先は自ら確認するらしい。

 あの優秀な香澄先輩ならすぐにこの件が事実だということを知ることだろう。

 だから、これ以上は無理に手伝おうとする必要は無さそうだ。


「帰ろうか」

「うんっ!」


 香澄先輩との話を終え、俺と小春は再び帰路についた。


 ♢


 帰宅し、自室のベッドの上で横になっていると、何故か小春も俺の隣で横になった。一人用サイズのベッドだから互いの肩がくっ付く。

 何も言わずにただ俺の隣にいる。


 そして、俺のことを見つめている。

 何かしてほしかったりするのだろうか。俺に人の心を読む能力は備わっていないから言ってくれないと分からないのだが。


「どうしたんだ? 何かしてほしいのか?」

「……構ってほしい」


 そういうことだったか。

 今日は綾香との壮絶な話し合いに始まり、香澄先輩にも浮気の件を伝えるということがあり、その間、あまり小春を構ってやれていなかったな。

 ここは兄として小春の気が済むまで構ってやることにしよう。


「いいよ。小春の望みを言ってごらん」

「なんでもいいの……?」

「俺の叶えられる範囲の望みで頼む」

「それじゃ、まずは~……頭なでなでしてっ!」

「そんなんでいいのか?」

「うんっ!」


 とんでもないお願いをされるのではないかと身構えていたのだが、実際には予想に反して簡単なお願いだった。

 まあ、まだ一つ目の願いだからな。この先にとんでもないお願いが待っているのかもしれない。


 俺は起き上がり、優しく小春の頭を撫でる。


「これでいい……?」

「うんっ、続けて~」


 髪がとてもサラサラで触り心地がとても良い。本当に同じシャンプーとリンスを使っているのだろうか。

 もしかしたら、高級なやつを隠し持っていたりするのではないだろうか。


 そんなことを考えながら、小春の頭を撫で続ける。


「髪、サラサラだな」

「ふふんっ、そうでしょ♪ 毎日ちゃんとケアしてるからねっ」

「そっか。やっぱり、女子って大変そうだよな」


 女子は毎日、自身をきれいに保つために相当な努力をしてるよな。

 俺も自分磨きの為に色々やってきたからこそ分かるが、女子は本当に凄いと思うし、尊敬している。


「そう? 綺麗になりたいと思ってる人なら当たり前じゃないかな?」

「そうかもしれないけど、大変なことに変わりはないよ。いつもお疲れ様」

「ふふっ、ありがとっ。お兄ちゃんの自慢の妹で居続けるためにこれからも頑張るっ!」

「無理はし過ぎないようにな」


 小春にとっては、髪をケアしたりすることは当たり前のことらしい。

 やっぱり凄いや。


「頭なでなではもう満足したからいいよ~」

「お、そうか」

「次はね、ハグ!」

「な……っ!?」


 たしかに叶えられないほどのお願いではないけど、さすがにハグは緊張するな。

 いくら相手が妹とはいえ、高校生の男女なのだ。これに関しては、緊張しない方がおかしいだろう。


 心臓の鼓動が早く、うるさく鳴っているのを感じる。

 今の俺はきっと耳まで赤くなっているはずだ。


(覚悟を決めよう)


 一度、深呼吸をして心を落ち着かせる。


「心の準備は出来た?」


 どうやら小春には俺が何を考えているのか見透かされているようだ。

 よし、恥ずかしいけど妹のお願いなんだ。叶えてやるのが兄としての務め。


 俺は腕を大きく広げ、目をつむる。

 目を瞑る必要がないのは分かっているが、さすがに恥ずかしいからこれくらいは許してほしい。


「ぎゅ~っ♡」

「ちょ、そんな強く抱きつかないでも……」

「お兄ちゃんが他の女子に目移りしないように、もう離さないっ」


 結構強めの力で小春が抱きついてきた。

 俺が他の女子に目移りしないように、か。綾香の件があったから、こういう考えになっているのだろう。

 かなり心配してくれているみたいだ。


 裏切られて傷心中の身だし、すぐに好きな人が出来たりすることもないとは思うけど。それに、綾香の様な女子が俺に近づいてきたら、小春が追い払ってくれそうだ。


「俺はどこにもいかないから安心して」

「私のことだけ見てればいいから」

「なんか彼女みたいな発言だな」

「ふふっ、たしかにそうかも」


 小春は幸せそうな顔で俺のことを抱きしめている。

 喜んでくれているようで何よりだ。


 そろそろ、ハグを終わりにしようかと思った瞬間だった。

 ガチャリ、と部屋のドアが開いた。


「おぉ? いつから二人はそんな仲良くなってたんだ?」

「父さん……」「あ、お父さん」


 ドアの開いた先に立っていたのは、父さんだった。

 俺たちは慌てて離れた。


 だが、父さんはニヤニヤしながら俺たち二人を交互に見ている。

 これ、絶対に茶化してくるやつだ。

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幼馴染な彼女に浮気されてから俺のことを嫌っていたはずの義妹がヤンデレになって迫ってくるようになったんだが、どうすればいい? 夜兎ましろ @rei_kimura

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