第5話 頼りになり過ぎる親友

 ――翌日。

 俺は初めて小春と一緒に学校までの道を歩いていた。

 兄妹仲が改善した今の俺たちはこうして一緒に登校することもできるのだ。


「お兄ちゃん、手繋いでもいい?」

「いや、流石にそれは良くないだろ。周りに変な勘違いされるぞ」

「私は別に勘違いされてもいいけど?」

「俺が良くないの」

「ふふっ、残念♪」


 俺をからかうという遊びを覚えてしまった小春の対応は少しばかり大変だが、以前のような不仲な関係よりは圧倒的に良い。二度とあんな最悪な関係には戻りたいたくないな。


 幸せな気持ちでいっぱいになるのと同時に、今日は綾香に会うことになるのだというため息が出そうな現実が迫ってくる。

 このままずっと学校に辿り着かず、今歩いてる道をループしないかなぁ、なんてファンタジーな妄想まで始めてしまいそうだ。


「もう学校着いちゃったね」


 現実とは避けられないもので、あっという間に学校に到着してしまった。

 小春とは学年が違うのでここでお別れだ。

 次に会えるのは休み時間か、放課後のどちらかだな。それまでは綾香を何とかしなくてはならない。


「また後でな」

「うん。何かあったら時間問わずに連絡してきていいからね」

「おう。分かった」


 ♢


 小春と別れ、教室に着いた。

 多くの生徒がすでに登校してきていたが、まだ綾香の姿はない。ホッとして胸をなでおろした。


「よっ! そんな暗い顔してどうしたんだ?」


 席に着くと、背後から声を掛けられた。

 振り返ると、そこには爽やかな雰囲気を醸し出す男子生徒の姿があった。

 常にサッカーのことばかり考えているサッカーバカである。


 こいつは、宮本洋介みやもとようすけ

 俺の親友だ。


 綾香の言葉よりも俺の言葉を信じてくれると確信できる数少ない生徒の一人だ。


「洋介か。昨日、色々あったんだよ。そして、これからも俺には試練が待ち構えているってわけ」

「ん? どういうことだ? ゲームの話か?」


 洋介は俺がゲームの話をしていると勘違いし始めた。

 ゲームの話だったら良かったのに、と俺も思っているよ。だけど、現実はそんな優しくないんだよね。


「ゲームの話じゃなくて、綾香の話だ」

「あー、そっちか。そういえば、一緒に帰ったり遊んだりできてないって言ってたな」

「実はな――」


 俺は周りの生徒に聞こえないように小声で洋介にも昨日何があったのか伝えた。

 洋介は「マジか……」と未確認生物でも見つけたかのような表情で俺の顔を見た。そういう反応になるのは分かる。


 綾香はクラスで……というか学校では女神かのような立ち位置だからな。

 そんな女神が浮気をしていると考える生徒は一人としていないだろう。それ程までに綾香の人望や信頼は凄まじいのだ。


「あり得ない話だけど、悠太が言うんだし、本当なんだよな」

「うん」


 洋介は俺の言葉をすぐに信じてくれた。

 こういう人が近くにいてくれる、ただそれだけ俺の心は少し楽になる。他のクラスメイトは皆、俺の言葉よりも綾香の言い訳を信じるかもしれないが、洋介がいてくれるだけで俺は何とかなるという謎の自信が湧いてくる。


「今日は悠太にとって大変な一日になるかもしれないな」

「そうなんだよ。だから、俺がヤバいときは助けてくれよな」

「うっ、責任重大だな。まあ、親友なんだから当たり前に助けるさ」

「流石、爽やかイケメン」

「それは関係ないだろ」


 洋介は本当に外見だけじゃなく、内面までイケメンなんだよな。

 俺もこういう男になりたいものだ。


 そんなことを考えていると、ガラッと教室のドアが開いた。


「……来たか」


 教室に入ってきたのは、綾香だった。

 俺がいることを確認すると、一直線に俺のほうへと向かってくる。

 周りの生徒は「すぐに彼氏のとこに行くなんて、やっぱりお似合いカップルだよね~」なんて言っているが、綾香の表情を見ればそんな言葉も言えなくなるだろう。


 いつも学校で見せている女神のような美しい笑顔ではなく、焦りと不安に満ちた表情をしている。


 俺の前で、立ち止まった。


「昨日の……どういうこと……」


 それが綾香の最初の一言だった。

「昨日の」というのは、昨日、小春が俺のスマホを使って送ったお別れメッセージと、連絡先を消した件のことだろう。


 小春に言われた通りに、出来るだけ塩対応で。


「どういうことって、綾香が一番分かってるんじゃないの?」

「……っ。もしかして、昨日……見たの……?」


 やはり、俺にバレていると勘づいてはいたのだろう。

 綾香の声が少し震えている。


 俺は何も言わずにコクリ、と頷いた。


「やっぱり、見られてたのね」

「偶然だけどな」

「今回が本当に初めてなの。もう二度としないって誓うから


 俺ではなく、俺の隣に立っている洋介が大きなため息をついた。

 眉間にしわを寄せて、明らかに不機嫌な表情をしている。自分のことではないのに、俺以上に怒っていそうだ。


「無関係な俺が割って入るのも申し訳ないと思ったんだけど、これが何回目かなんて関係ないだろ。初めてだろうと、何回目だろうと、悠太の心を傷つけたことには変わりない。それなのに、許してもらえる前提のその話し方が気に入らない」


 洋介は綾香に向かってハッキリと言った。

 綾香は、洋介のあまりの圧に気圧されて、一歩後退あとずさった。


 これほどまでに頼もしい人がいるだろうか。

 洋介が親友で本当に良かった。


 洋介と小春。俺には二人も俺のことを助けてくれる人がいる。綾香に何を言われようが、関係ない。

 周りの人間がどれだけ綾香の味方をしようが関係ない。


 俺に味方をしてくれる人もちゃんといるのだから。


「そんなつもりはな――」

「はーい、みんな席につけ~」


 綾香が反論しようとした瞬間、担任の先生が教室に入ってきたので、綾香は不満そうにしながらもゆっくりと自分の席に戻っていった。


「ありがとな、洋介」

「おう、任せろ」


 洋介にも感謝を伝えておいた。

 今日はまだ何度か助けを借りることになりそうだからね。


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