第4話 外からの視線
「今日は色々なことがあったな」
小春と母さんの言い合いを鑑賞し終えた俺は、自室に戻り窓の外を眺めていた。
今日は雲一つない天気のようで、星や月がよく見える。
「月が綺麗だなぁ」
「もしかして私に告白してる?」
「うわっ、いつの間に……。っていうか告白じゃないし」
「ふふっ、冗談だよ♪」
俺が独り言を呟いていると、いつの間にか小春が俺の背後に立っていた。
足音も立てずに部屋に入ってくるなんて、忍者かよ。
部屋に入ってくるにしてもノックくらいはしてほしいものだ。
危うく星と月を眺めながらポエムを呟くところだった。流石にそんな恥ずかしい姿を見られたら黒歴史確定だ。
「部屋に入るならノックくらいしてくれ」
「ごめんごめんっ♪ 兄妹なんだしいいじゃんっ」
「それはそうだけど」
「もしかして、エッチな本を読むところだった?」
「そ、そんなんじゃないし! てか、そんなの持ってないから!」
「本当にぃ~?」
「本当だって」
小春は目を細めながら、俺のことを怪しんでいる。
が、実際にそんな本は持っていない。興味がないと言えば嘘になってしまうけど。
男子高校生なんだ。それくらいは許してくれ。
恐らく小春は俺のことをからかうのが好きなのだろう。
今まで不仲な兄妹として過ごしてきた分、これからは今までできなかった仲の良い兄妹としての関係を築いていくのかもしれない。
からかわれるのは少し恥ずかしい気持ちになったりするけど、小春が楽しそうだからいいか。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「ん、どうした?」
俺のことをからかいながら笑っていた小春だったが、突然窓の外を見て笑みが消えた。
僅かに眉間にしわを寄せ、怒っている雰囲気を醸し出している。
「……こっちを見てる」
「え……?」
窓の外に視線を向けると、そこには綾香の姿があった。
少し離れたところに立っているが、確実に俺を見ている。
そりゃ、小春も不機嫌になるか。
俺からのメッセージに気づいたけど、連絡先を消されていて返信できないから直接家まで来たって感じかな。
家に入りたいけど、母さんもいるから入れないのだろう。なんで来たのか事情を説明しようとすれば、母さんにも浮気をしていたこともバレるかもしれないしな。
言い訳しようとしても、俺が真実を言ってしまう可能性もあると考えているのかもしれない。ま、実際は俺じゃなくて小春が言いそうだけど。
「お兄ちゃん、気にしちゃダメだよ」
「ああ、分かってる」
チラッと外を見ると、「こっちに来て」とでも言いたそうなジェスチャーをしている。こっちが気づいていることもバレてるか。
♢
約三十分が経った。
綾香はまだこちらを見ている。
俺が出てくるまでずっと帰らないつもりか?
「まだいるんだけど……」
「本当にしつこいね、あの女」
「ちょっと口が悪くなってるぞ」
「あ、ごめんっ。でも、口も悪くなるよ。だって、お兄ちゃんを傷つけた張本人でしょ?」
「まあ、そうだな」
「そのお陰でお兄ちゃんと仲良くなれたんだけどね。そこだけはあの人にも感謝してる」
このままずっと俺の部屋を外から見つめられても迷惑だな。
やはり、一度話した方が良いのかな。
「…………どうする?」
「こうすればいいんだよ」
小春は窓のカーテンを完全に閉めきって、外が何も見えないようにした。
たしかに一番最適な手段ではあるけど、なんか少し申し訳ない気持ちにも陥りそうになる。
いくら相手が綾香とはいえ、三十分も外で待っていたのに結局無駄足になってしまっているのは少し可哀想だ。
まあ、今日話さなくてもどうせ学校で会うし、そのうち必ず話すことになる。
出来る限り塩対応をしろと言われてはいるけどね。
「明日なんか言われそうで不安だ」
「その時は私を呼んでくれればいいよ」
「でも、小春は学年違うじゃん」
「授業を抜け出してでも、お兄ちゃんを助けに行くよっ」
なんと頼りになる妹だろうか。
実際は授業を受けだして他学年の教室に行くなんて難しいだろうけど。
でも、小春なら本当にやりそうな気もするから、ちょっと怖いな。不安だけど出来るだけ俺自身で色々と解決できるようにしよう。
小春を呼ぶとしても、本当にヤバい緊急事態のときだけだな。
それまでは俺自身で何とかするか、友達に助けてもらうかだな。綾香の言葉よりも俺の言葉を信じてくれる友達も少数ではあるがいるはずだし。
「本当にヤバかったら助けてな。それまでは何とかするよ。自信ないけど」
「うんっ、任せて!」
とりあえず、今考えても仕方ない。
綾香のことは明日の俺が何とかしてくれるさ。頑張ってくれ、明日の俺。
明日の為に今日はもう風呂入って寝るか。
「よし、風呂入って寝るかな」
「一緒に入る~♪」
「ダメに決まってるでしょ」
「お兄ちゃんのケチ~」
「はいはい。俺はケチですよー」
「むぅ……」
小春は一緒に風呂までついて来ようとしていたが、さすがに断った。
いくら兄妹とはいえ、高校生の男女が一緒に入っていいわけがない。
それに俺の理性が保てなくなってしまう可能性が高いからな。
残念だが、兄として断らせてもらった。
小春は不満そうに頬を膨らませていたが、こればかりは許せ。
「今度甘いものたくさん買ってあげるから」
「……分かった。絶対だからね」
「もちろんだよ」
甘いものを買ってあげるという条件でなんとか逃げ切れた。
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