第3話 小春の隠したかった秘密
「ただいま~」
「「おかえり~」」
食器を洗い終え、小春と一緒にリビングでテレビを見ながらくつろいでいると、母さんが帰宅してきた。
母さんは俺たちの姿を見て、目を丸くして驚いているようだった。
そういう反応になるのも無理はない、か。
「二人ともいつの間にそんなに仲良くなったの?!」
今まで仲の悪い兄妹として約一年を過ごしてきた。
そんな俺と小春が突然仲良さげに二人でテレビを見ていたら、そりゃ驚くよな。特に母さんと父さんにはかなり迷惑をかけてしまっていただろうし。
母さんは微笑み、一筋の涙を流した。
嬉し涙のようだ。
「もう仲良しになったの!」
小春は満面の笑みでピースサインを母さんに向けて言った。
母さんは「本当に良かった……」と安堵の表情を浮かべている。約一年もの間、俺たちが仲悪くて大変だっただろうな。
本当に申し訳ないと思っている。
まあ、俺はずっと仲良くしたいと思っていたのだけど。
「悠太にちゃんと謝ったの?」
「うん!」
「悠太に彼女が出来て、自分だけの悠太じゃなくなるからムカついて酷いことを言ってたってことも伝えた?」
「ちょ、お母さんっ!?」
え……?
今、俺はとんでもない真実を聞いてしまったのかもしれない。
俺が綾香と付き合ったから小春は俺に強く当たっていたってこと?
たしかに、よく思い返してみると小春が俺に強く当たり始めたのは俺が綾香と付き合い始めてからの様な気がする。
俺が綾香と付き合う少し前から俺たちは家族になったのだけど、綾香と付き合い始めるまでの期間は今のように小春は優しかった気がする。
そういうことだったのか。
もしかして、小春はブラコンってことですか?
兄妹になってから一年と少ししか経ってはいないけど、今の俺たちが兄妹という事実に変わりないし、ブラコンで間違いないか。
こんなに可愛らしい妹から好かれているのか。
普通に嬉しいな。
だけど、待って。
俺は今後、誰かと付き合うことを許可されない可能性があったりする?
うーん、今は考えるのを止めよう。
「……お兄ちゃん」
小春が顔を真っ赤にしながら、俺のほうを向いた。
「なんだ?」
「今、聞いたことは忘れて。お願い」
「善処するよ」
「絶対に! 忘れて! じゃないと、お兄ちゃんの記憶が消えるまで殴り続けることになる」
「わ、分かった! あー、もう忘れた!」
「…………信じるよ?」
「おうっ」
危ない危ない。
返答を間違えていれば、俺の頭がボコボコに殴られるところだった。
そんな俺たちを見ている母さんはまだ微笑ましそうに笑っている。
いやいや、少しは止めてよ!
「それじゃ、夕飯の支度するわね」
「あれ? 父さんは?」
「パパは今日会社の人と飲み会があるらしくって、帰るの遅くなるって」
「そっか」
母さんは父さんのことを「パパ」と呼んでいる。
俺が初めて母さんと会ったときから、そうだった。家族になる前から家族になることを想定していたんだろうな。
母さんが俺のことも本当の息子として接してくれるから、俺も本当の母親だと思うことが出来ている。
俺と小春の仲も良くなったし、ここからが本当の家族としてのスタートみたいなものかもしれないな。
♢
「美味しかった~」
「ふふっ、それは良かったわ。簡単なものしか作れなくてごめんね。他の食材を買いに行く時間がなくてね」
「俺にとってはカレーも難しいから、全然簡単なものじゃないよ」
今日の夕飯は、カレーライスだった。
母さんは簡単なもの、と言うが店で出てきてもおかしくないくらいの美味しい味。俺の好みの味と言うべきかな。
「それじゃ、今度一緒に作ってみる?」
「いいの?」
「うん、もちろん」
「ありがとう、母さん」
「いいのよ。私は悠太の『母親』なんだから。なんでも教えるわ」
「そ、そうだね」
なんだか照れてしまう。
この一年ちょっとの間に俺は今まで受けられなかった母親からの愛情をたくさんもらっている気がする。母さんには感謝してもしきれないな。
そんなことを考えていると、俺と母さんの間にムスッとした表情をした小春が無理やり入ってきた。
「私の存在を忘れないでくれるかなぁ!」
「忘れてないよ」
「本当かなぁ。まあ、今回は許す。でも! 私もそのカレー作りには同席させてもらいますっ!」
「お、おう?」
「いくらお母さんとはいえ、二人きりにはさせないっ!」
何故か小春は母さんに対しても敵意をむき出しにしている。
まあ、綾香に対しての感情とは違い、半分冗談のような感じではあるが。
「あらあら、悠太を取られると思ってるのね。そんなことしないわよ」
「いーやっ、この世の中、何が起きるか分からないから!」
「ふふっ」
「何を余裕そうな表情を浮かべているの! 私は負けないんだから!」
「頑張ってね」
「~~~~~~っ!!!」
なんかこの光景、微笑ましいな。
こういう言い合いをしている光景は、『家族』って感じがしてとてもほっこりした気分になる。
俺もそのうち母さんとこんな風に言い合うことがあったりするのかな。
そんなことを思いながら、二人の言い合いの鑑賞を続けた。
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