ほらほら

 吾輩は猫である。

 名前は……まぁ、ない。

 しいて言うなら野良クロである。

 近所の人間は黒い野良猫と私を呼ぶので。


 しかし猫とは何なのか。

 食肉目ネコ科ネコ属を家畜化した存在を人はイエネコと呼ぶ。


 しかし、私は家がない。

 しいて言うなら橋の下の段ボールが私の家だ。


 近所のタマには家がある。

 ヒバの生垣の古い家だ。

 飯は美味くもないが不味くもないと言っていた。

 天気の良い日は縁側に座る老婆の膝上で媚を売っている。


 私の飯は、公園でもらえるカリカリと、たまに鳩や雀。

 カリカリは確かに美味くもないが、鳩や雀は己で捕らえた快感がある。

 天気の良い日は川原でうつらうつらと船をこぐ。


 それでも私はイエネコなのか?

 家がなくてもイエネコならば、一体野良とは何なのか。


 家畜化されていても野良なのか。

 家畜から脱したから野良なのか。


 そう言えば、橋の下にはもう一人住人がいる。人間の男だ。

 奴も橋の下の段ボールで寝泊まりして、街の空き缶を集めて日々の糧を得ている。

 あとは、川で魚を釣っていた。

 私も近所の誼でご相伴にあずかった。


 奴は他の人間からホームレスと呼ばれている。

 なぜ奴は野良と呼ばれないのか。


 私と奴と、一体何が違うのか。


 しいて言うなら、私は女子供にウケが良い。

 目の前でゴロンと寝転がれば、何やら甲高い声を上げて人が寄る。

 そして、スマホなる板をこちらに向ける。


 だが、奴が公園のベンチで寝ていると、女子供は遠巻きに小さな声で嘲け笑うのだ。

 そしてスマホなる板を奴に向ける。


 私と奴と、一体何が違うのだ。


 ある日突然、奴の段ボールが空になっていた。

 出ていったのか、帰って来なかったのか。


 まぁ、どちらでも良い。


 吾輩は猫である。

 人は私を、野良猫と呼ぶ。

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ほらほら @HORAHORA

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