空を泳ぐ
さくら
第1章 風の魔法使い
今日の授業は魔法実技の訓練だった。
他の生徒には人気の授業だが、僕にとっては少し憂鬱な時間だ。
その様子を察したのか、親友のレオンが声をかけてきた。
「誰にだって苦手なことはあるさ」
レオンは僕を励ますように言った。
「俺はこっちは得意だけど、お前と違って座学のほうはサッパリだしな」
そう言うと、彼は手のひらから炎を出してみせた。――彼が得意とする炎魔法だ。
僕は魔術の教本に書かれていた内容を思い出しながら、集中力を高めた。
僕が扱うのは風魔法だ。
まず魔力で小さな風の渦を作り出し――
そこにさらに魔力を込め、竜巻のように大きく育てていく。
そして標的に向かって放つ――それが風の魔法の基本。
けれど僕の作った小さな竜巻は、力を増す前に形を失い、霧のように消えてしまった。
「……またか」
僕は小さく息を吐いた。
レオンも黙って肩をすくめるだけだった。
かつて「神々の息吹」と呼ばれた風の力は、いまでは火・水・土・風――四大元素を基盤とする理論で説明されている。
この理論を築いた天才たちによって、魔法は一気に進化を遂げたと言われている。
僕はそんな先人たちに憧れて、この魔法学院に進学した。
だが、世界の理を学べば学ぶほど、自分に魔法の才能がないことを痛感するようになった。
それでも僕は、魔法という理(ことわり)を少しでも深く理解したかった。
才能がなくても、理解することだけは誰にも負けたくなかった。
◇
授業が休みの日、僕は実験に使う道具を買い足すため、一人で少し離れた街に出かけた。
山を越える道の途中で、ふと気づいた。
持っていた保存食の袋が、いつの間にかパンパンに膨らんでいた。
少し前までは手に馴染むような柔らかさだったのに。
それは初めてのことではない。
子どものころから、何度も経験している。
幼い頃、父に尋ねたときは、
「山に住む妖精のいたずらさ」
と笑って教えてもらったものだ。
中身が増えたわけでもないのに、袋だけが膨らむ――。
この世界では、たいていの不思議は魔法で説明がつく。
けれど、この現象を説明する魔法は、僕の知識にはなかった。
この世界には、まだ知られていない魔法がある。
そう考えると、胸の奥がわずかに熱くなった。
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