自律型戦闘人形《オートボーグドール》は悪魔を殺す

一式鍵

テラリアとルナリア、その行き着く先にあるもの

 気の遠くなるほど遠い過去。

 人類は月に居住領域を拡大した。地球テラ月面ルナの間には、数多くの中継基地が作られ、やがて文化圏は二つに分かたれた。地球に住む者は地球人テラリアと呼ばれ、月面に住む者は月下人ルナリアと呼ばれるようになった。そしてそれから数十年が減るころには、互いの立場の違いから、人類は分断を始めてしまった。


 しかしそれでも、月下人ルナリア地球人テラリアはそれぞれ固有の資源を有し、それらをりすることで。だが、それも月下人ルナリアが対地球機動兵器ルキフェルを作り出すまでだった。


 ルキフェルの重質量弾砲撃により、地球はわずか一年と経たず、三割が焦土と化した。


 その頃合いを見計らい、彼ら月下人ルナリアは地球降下作戦を開始した。


 それがほんの半年前だ。地球の要衝ようしょうの大多数はもうすでに月下人ルナリアの制圧下にあった。幸か不幸か、月下人ルナリア自身は地球に降下することができない。地球の六分の一の重力で育った彼らは、地球上では自由に動けなかったからだ。


 代わりに降ってきたのは、人間のような姿をした機械兵士――自律型戦闘人形オートボーグドールだった。


 月下人ルナリアの協力者からリークされた情報で、僕ら地球人テラリア自律型戦闘人形オートボーグドールの開発を進めていた。だが、巨大にして超高性能なAIでもあるルキフェルの助力を得て作られた月下人ルナリア自律型戦闘人形オートボーグドールは強力だった。僕らのものとは比較にならない強さを持っていて、さながら戦艦に対して救命艇をぶつけようとしているかのようだった。


鎧袖一触がいしゅういっしょく、か」


 僕らは揃ってため息を吐く。地球人テラリアに残された数少ない拠点の一つ、エカテリナが陥落したとの報せを受けたからだ。


教授プロフ


 自動ドアの向こうから、助手のミキ――通称博士ドクター――が近付いてくる。黒いタイトスカートのスーツを纏い、きつめの印象を受ける容貌をしている。外見年齢は三十そこそこ。だが、実際には僕と同じで百歳を超えている。僕が大学で助手をしていた頃の学生で、それ以来ずっと僕の研究に付き合ってくれている。


 ミキは僕の前で手を振った。それに呼応するかのように空中にディスプレイが展開され、中にエカテリナの様子が映し出されていた。数時間前まで人間がかろうじて人間らしい営みをしていたとは思えないほど、大都市エカテリナは崩壊していた。月下人ルナリア自律型戦闘人形オートボーグドールは、地球人テラリアを皆殺しにするようにプログラムされている。彼らに都市を陥落させられてしまったら、万に一つも救われる命はない。


 僕はコーヒーを一口飲む。コーヒーと言っても原産地はとうになく、調合機アルケマと呼ばれる機材で作られる合成飲料だ。


「エカテリナが陥落したということは、次はいよいよここだろう」


 地球に残された唯一のメガロポリス――カナアン。人類に約束された安住の土地。


 しかし、地球人にとってとなるその日ゼロデイが近付いてきている。


「役人たちはすでに移動を開始したようです」

「避難勧告も出さずにか」


 僕は呆れる。だが、そんなことはとっくに予想済みだった。


「君はどうする」

「我々の開発した自律型戦闘人形オートボーグドールたちが敗れるなら、地球の人類もそれまでということです」

「僕の研究と心中するなんて、芸のない」

「いいえ、そのつもりはありませんよ、教授プロフ

「僕のWLTワルトシリーズをそこまで評価してくれているとはね」

「私たちの、です、教授プロフ


 まぁ、そうか。


 僕はふと笑って、ミキをともなって研究室から出た。


 向かった先は研究施設だ。そこには何百という数の円筒が並んでいる。中にいるのは僕たち地球人テラリアにとって福音ふくいんとなり得る存在、地球製の自律型戦闘人形オートボーグドールだ。


 彼女らは皆一様に目を閉じ、起動の時を待っている。


 研究者たちは僕たちに気付いたが、誰も手を止めようとしない。彼らはわかっている。ここに眠る人形たちに賭けるしかないということを。


教授プロフ


 ミキが僕に耳打ちする。


「上空に月下人ルナリア揚陸ようりく艦が現れました」

「早いな」

「先行の制圧部隊だと思われますが」

「軍の対空砲に期待するしかないね」


 僕は肩をすくめてみせる。ミキは呆れたように溜息を吐いた。


「危機感がありませんね、昔から」

「そりゃそうだよ。月下人とのいさかいが起き始めて何世紀だ。確かにあのルキフェルというブレイクスルーには驚いたけど、結局のところ地球が早いか月が早いかだけの話さ」

「結果として私たちは滅びに瀕しています」

「彼女たちを信じよう」


 人類最後の希望――自律型戦闘人形オートボーグドールWLTワルトシリーズ。Warfare-Level戦闘用 Tensorframe量子演算フレームと名付けられた彼女たちは、その活躍の機会を待っている――そう僕には思えた。


 彼女たちは眠ってはいるが、情報は常にアップデートされている。今。地球人テラリアに何が起きているか、彼女らは知っている。


 ほどなくして研究室に重たい振動が伝わってきた。地下五百メートルにあるこの施設にも伝わってくる振動。間違いない、ルキフェルからの重質量弾砲撃だ。これを食らえば地球の対空火器はイチコロだ。カナアン市の街並みももうすっかり様変わりしたことだろう。


「政治屋が仕事をしないから、こんなことになる」


 僕は思わず愚痴った。月下人ルナリアは、地球人ルナリア絶滅計画を立てている。各地に降下した自律型戦闘人形オートボーグドールたちがじわじわとその勢力域を拡大し、地球人テラリアの小さな村の一つに至るまで、しらみつぶしに破壊した。


教授プロフ


 ミキがまた空中にディスプレイを展開する。雲を割って出現した巨大な宇宙揚陸ようりく艦から、何十か何百かのカプセルが投下されていた。


「えげつない数ですね」

地球人テラリア最後の大都市に相応ふさわしい花火を上げようって魂胆こんたんだね」

「そうはいきませんが」


 ミキは僕に頷きかけた。僕も「うん」と返す。


「諸君――」


 僕は研究者たちに向かって呼びかけた。彼らは自分の作業の手を止めない。彼らは自分がなすべきことを理解しているのだ。マシンのように。


「時は来た。今こそ地球人テラリアの反撃の狼煙のろしを上げよう」


 彼らの動きが揃って一瞬止まる。そしておもむろに自分の手持ち端末モバイラを操作し始める。たちまち、ずらりと並んだ円筒が開く。その一つを見ていると、目を閉じていたWLTワルトの一体が目を開けた。他のもほとんど同時にそうしただろう。十代の少女をモデルとした外観、白皙はくせきの肌、光ファイバー製の銀髪、青く輝く瞳。少女たちはずらりと僕とミキの前に整列した。百名の同じ顔の少女が一分の乱れもなく並んでいる。


WLTワルトたち、起動実験以来だね」

肯定ですイエス・マイ・ロード

「うん。さっそくだけど、状況は理解しているね」


 僕が言うと、WLTワルトたちは一斉に敬礼する。


「もう軍も政府も機能していない。僕たち……いや、君たちが最後の砦だ。地上に降下した敵自律型戦闘人形オートボーグドールを殲滅するんだ」

了解イエス・サー


 少女――もといWLTワルトたちは再び敬礼すると、定められた順路に従って研究施設から出て行った。すっかり伽藍洞がらんどうと化した研究施設で、研究者たちは淡々と手持ち端末モバイラで経過を観察し始める。


 彼らの多くもまた、純粋な人間ではなかった。随所を機械化しており、いわばサイボーグだ。眠らずに活動したり、あるいは自動行動プログラムを組んだりして、ほとんど年中無休で活動している。彼らはそのためだけに自らの肉体を半ば捨てたのだ。地球人テラリアの未来のために。


 ――それは僕やミキも同じだ。


 そしてここでは、僕以外、誰も無駄口を叩かない。ただひたすらに地球人テラリア存続という目的のためだけに、彼らは生きている。


「戦闘が開始されました」


 ミキが言う。彼女の示すディスプレイ内で、激しい戦闘が繰り広げられていた。敵はS-200タイプ。月下人ルナリアの主力自律型戦闘人形オートボーグドールだ。位置づけとしては廉価な量産型なのだが、一機一機が戦車に匹敵する戦闘力を持っている。


WLTワルトたちが押しています。現時点、損耗率は5パーセント」

「遠隔で支援してくれ。WLTワルトたちの制限解除ディスリミットを」

「わかりました、教授プロフ。みんな、聞いたわね」


 ミキの言葉と同時に、ディスプレイに映るWLTワルトたちの動きが変わった。手にしたナノマシン製の重火器が増幅され、目に見えて火力が上がる。WLTワルトたちの動きはほとんど空中戦だった。S-200は数で押してくるが、それでもWLTワルトたちの優勢は揺るぎないように見えた。


 WLTワルトたちの視覚情報を集約して得た情報で、カナアン市の現状がつぶさに理解できた。カナアン市はぼろぼろだった。高層建築物は軒並み破壊されていたし、幹線道路はルキフェルからの砲撃でズタズタにされていた。そこかしこに原型を留めない死体が転がっている。火災も広がっていた。


 そして残念なことに、その被害はWLTワルトたちが戦うほどに広がっていた。彼女らに課した主目的は、月下人ルナリア自律型戦闘人形オートボーグドールの破壊だ。地球人テラリアの身の安全は二の次だ。


「諸刃の剣なのはわかっていたけれど」

「後味の良いものではありませんね」


 僕らは僕の研究室に戻った。そこにはもう一体のWLTワルトが眠っている。全てのWLTワルト起源オリジンとなったWLTワルト-00xノーナンバーだ。


 まるで透き通った棺桶カンオケのような箱の中で、WLTワルトはじっと眠っている。


「……教授プロフ。まずいことになりつつあります」

「どうしたの」

「新型がいます」

「なんだって」

「データベースに情報なし。S-500を上回る性能を有していると考えられます」

「それは、想定外だ」


 S-500までなら、WLT二個小隊で相手にできるはずだ――理論カタログスペック上は。だが、それ以上となると、WLTワルトたちの戦闘データベースにないから、彼女らはまともに戦えない。戦闘手段を学習していくうちに、その数を減らしてしまうだろう。ジリ貧だ。


「損耗率が15パーセントを超えました」

「こいつにやられてるのか」

「はい」


 それは映像からも明らかだった。巨人と言っても差し支えない巨躯きょく。手にしているは巨大なライフルと斧状の近接武器だ。肩にはガトリング砲が備え付けられていて、それがWLTワルトたちを次々と刈り取っていくのだ。しかも速い。冷静に見て、スズメバチとミツバチくらいの戦力差があった。


「損耗率が20パーセント……25パーセントを超えました。S-200も勢いを盛り返しつつあります」

「まずいな」

教授プロフノーナンバーこの子を覚醒させましょう」

「でも、起動試験すら成功したことがない」


 僕が日夜挑戦しても、彼女は頑として目を覚まさなかった。


「起動に失敗すれば、それはその時。成功しても、彼女が奴に勝てなければその時。やるなら今しかありません、教授プロフ

「そう、だね」


 僕はここにきて躊躇ためらった。彼女を目覚めさせることに逡巡したのだ。


「損耗率が30パーセントを超えました、教授プロフ

「……ああ」


 僕はその透明な棺桶に備え付けられた端末で、起動コマンドを送り込む。しかし、想定された応答レスポンスはない。通信は開いているのに、彼女が受け付けてくれないのだ。そんなはずはない、なのに、現実はこうだ。この二十年、彼女を起動させるためにあらゆる手を尽くしてきたのだ。


「敵新型、本施設を嗅ぎつけた模様です」


 ミキが淡々と言う。WLTワルトたちが死力を尽くしてくれているのはわかる。だが、完全に力不足だった。研究者たちも次々と戦略戦術プログラムを繰り出していることだろうが、試行錯誤するにはあまりにも試行機会チャンスが足りなかった。


 新型はWLTワルトたちが束になって食い止めてくれていたが、S-200たちは次々とこの研究施設に侵入を果たしていた。これに備えて内部に残しておいたWLTワルトたちが奮戦しているのはわかるが、多勢に無勢だ。


「ワルト、目を覚ましてくれ」


 僕は祈るように呟いた。ミキは僕の隣に立って、ただ外の様子をモニタしていた。こういう時、彼女の冷静さには助けられる。


「だてに百年生きていませんから」

「それは僕も、なんだけどな」


 これだけ一緒にいれば、以心伝心も叶うというもの。


 ミキはクスっと笑う。彼女にしては珍しい。


「いっそ、結婚でもしましょうか、教授プロフ

「悪くない」


 僕は冗談めかしてそう言い、再び、起動コマンドを送り込んだ。


「損耗率、70パーセントを超えました」

「抑えきれないか」

量産型あの子たちの活動限界が近い。損耗率75パーセント」


 僕は眉間に手をやって首を振った。ミキは「チッ」と小さく舌打ちした。


「施設内WLTワルト、全滅。施設にS-200が雪崩なだんできます」

「さすがにタイムリミットか」

あきらめの悪いことが、あなたの長所。違いましたか?」

「違わない」


 かなわないな。


 僕はしぶとく起動コマンドを入力し、やはり反応がないことを確認してから、棺桶の蓋を強制パージするコマンドを送り込んだ。さすがにミキが目を見開く。


「今までやったことのない手って、これだけだったからさ」

「あなたという人は」


 僕は姿を空気中に晒したWLTワルト-00xノーナンバーの頬に触れた。


「目覚めてくれ、お姫様」

「……損耗率90パーセント。事実上、全滅です」

。君の出番だよ。僕たちを守ってくれ」

「S-200、研究施設を制圧しつつあり。三体がここに接近中」

「ワルト。僕たちを守って欲しい」


 自動ドアが開く。いかつい重武装の自律型戦闘人形オートボーグドール、S-200が三体、窮屈そうに並んでいた。


 南無三、ここまでか――。


 僕は覚悟を決めた。


 そして右手でミキの左手を握った。しばらくぶりのスキンシップだった。


 S-200の手にした重マシンガンが火を噴いた。


 轟音が室内を跳ね回り、火花が所狭しと散っていく。


「……?」


 だが、僕が受けた損害は、右の頬の小さな切り傷だけだ。ミキも無事だ。


 もうもうと立ち込める煙が晴れると、そこには少女の背中があった。全身をナノマシンの装甲で覆った、銀髪の少女だ。


 少女は振り返る。瞳が、僕たちを見た。表情はなかった。


 ミキが呆然と呟いた。


「まさか、WLTワルトシリーズの全滅が条件……」

『本施設内に侵入した敵性勢力の殲滅せんめつを開始します』


 ワルトが明快に――しかし無感情に――宣言した。


 ワルトは設計者である僕の知る性能を大きく凌駕りょうがしていた。僕と共に部屋の隅で戦闘状況を追いながら、ミキは言う。


WLTワルトシリーズの戦闘データを全てフィードバックしているようです。また、S-200からナノマシンを吸収ドレインしている……」

「そんな設計してなかったんだけど」

「自律生成でしょう。ルキフェルと同様に、自分自身を創発エマージェンスしたと」

「まさか」


 僕は一笑に付そうとしたが、ミキの真剣なまなざしを受けてそれを飲み込んだ。


「そもそも設計やコーディングにミスがないにも関わらず、ヘルスチェックコマンドにすら正常な応答レスポンスを返さなかった時点で、その可能性を疑うべきだったんです」

「僕自身がその目撃者になろうとはね」

「長生きはするものです」


 ミキはまた小さく笑った。僕もつられて笑う。室内に迫っていた三体のS-200は物の二分半で撃滅され、増援もその三分後には撃破されていた。恐るべき威力だった。


『私はすべての自律型戦闘人形オートボーグドールの頂点に立つ者です。私はあなたの理想を叶えるための存在です』


 ワルトは室内に戻ってきて、僕たちに手を差し出した。僕たちはそれぞれに助け起こされる。華奢きゃしゃな手だった。


『これより、本都市内のすべての敵性勢力の殲滅を行います。あなたたちはここにいて――』

おもてに出よう」

「そうですね」


 僕とミキ言うと、ワルトはすなおに頷いた。


『わかりました。されど無事は保証致しかねます』

「僕の理想が叶えられるなら、それだけでいい」

教授プロフ、理想って?」

の平和さ」


 僕はそう言うと、部屋から出て行くワルトを追った。右手にミキを捕まえて。


 地上までの数度の戦闘を経て、僕たちはどうにかして太陽の下に出た。腕の時計を見ると、時刻は午後二時。晩秋の昼下がりだ。しばらくぶりに触れる外気に、僕とミキは小さく震えた。


 すぐそこに、あの巨人はいた。ワルトの三倍はあるだろう。周囲には彼女の姉妹たちの無残な亡骸なきがらが散乱していた。


教授プロフ、あの人形は言っている。月下人ルナリアは酸素を失ったと』

「なんだって?」


 月面居住地で酸素を失うということは……。


「それは本当なのか」

『ルキフェルがそうしたと言っている。世界に人類は必要ない――ルキフェルがそう言ったと』


 どうやらワルトは巨人と対話しているようだった。ミキが鋭い視線を巨人に向けながら、呟いた。


「確かに、神のごとくなる者にとって、人類は不要、かもしれませんね」

「ルキフェルは自然発生した知性エマージェント・インテリジェンス。ワルトもそうと言える」

地球テラルナの超知性体――人類は最初から、この時のために創られていたのかもしれませんね」

「であるなら、ぜひとも地球側に勝っていただきたいね」


 僕はワルトの背中を見る。


「ワルト、を撃破するんだ」

『了解。主目的、ルキフェルの破壊。これを全てにおいて優先します。そのための障害となるものは、全て破壊します』


 ワルトの両手首から長大な剣が生えてくる。


『破壊目標をルナ自律型戦闘人形オートボーグドール、ベルフェゴールおよび残存S-200とさだむ。教授プロフ博士ドクター、隠れていてください』

「仰せのままに、お姫様」


 僕はミキの手を引いて、瓦礫の山の向こうに避難した。どれほど意味があるかはわからなかったけれど。


「次のルキフェルの攻撃は早くても一時間以上後か」


 奴は衛星軌道上にいる都合で、同じ場所に居続けることができない。高度を変えることがあるのが厄介だが、それでも最短でも再攻撃までに九十分はかかる。


「砲撃が来る前に片付けてくれなければどっちみち終わりだね」

「ワルトを信じましょう、教授プロフ

「ああ、それしかもない」


 僕たちはワルトの視覚を通し、あるいは倒されたがまだ機能しているWLTワルトたちの視覚を拝借して、こそこそとワルトたちの戦闘を見た。


 ワルトはベルフェゴールというらしい自律型戦闘人形オートボーグドールを相手に、圧倒していた。時間にしてたったの数分だっただろうか。WLTワルトシリーズのほとんどすべてをついやしても倒せなかった人形、ベルフェゴールを破壊していた。


 しかし、遅れて襲ってきた大爆発によって、僕らはすっかり瓦礫がれきかぶってしまった。


「ミキ! 大丈夫かい!?」

「どうにか」


 げほげほとせき込みながら、ミキはスーツを払う。ぼふぼふと建材の成れの果てが舞い踊る。


「ワルト! 終わったかい!?」

『肯定です、教授プロフ。敵性勢力の反応はありません』

「じゃぁ、次は――」

『いえ。人々の避難をさせるより、我々がここを離れる方が建設的です』


 ワルトは無情に言った。僕はその意図をすぐにさとる。


「ルキフェルは君を狙う」

『肯定です、教授プロフ。あと八十四分後には私に向けて砲撃が行われることでしょう。私の主目的を達成するためには、お二人の力が必要です。それとも任務を放棄して、私もろともにこの都市が滅ぶことを選びますか』

「まさか」


 僕は首を振る。


「君は論理的ロジカルに正しい。僕たちでルキフェルを倒そう。人類が全滅してしまう前に」

「そうですね、教授プロフ。ワルトがいれば、まだ希望はあります」

「いや違うよ、ミキ」


 僕はまた首を振る。


「僕たちがいれば、だ」


 ミキの言葉を正しく直す。


 ワルトはぎこちなく頷くと、僕たちにその赤く輝く目を向けた。銀髪が風に靡いている。ナノマシンで作られた装甲が淡く青く発光している。


『主目的、ルキフェルの破壊。これより、作戦行動を再開します』


 宇宙に君臨する自律思考型機動要塞ルキフェル。


 ――その目的地は、今の僕らにはあまりにも遠い。


 だが、僕らにはワルトという希望があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

自律型戦闘人形《オートボーグドール》は悪魔を殺す 一式鍵 @ken1shiki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ