エッセイ・雑記

ぽぽこぺぺ

名古屋の赤いライブハウス


 わずか1時間の滑るような超特急。

 降り立ったのは名古屋駅。

 

 さすが、東海の中枢というだけあって多くの人間でごった返していた。


 目的は「ライブに行く」ことだ。


 ライブハウスが好きなんだよね。

 それも小さければ小さい程よい。


 もう、ドームとかアリーナとか。正直きつい。

 収容人数1万人とか、人間が多すぎちゃってめまいがしちゃう。


 有名なライブハウスだと、キャパシティは1000人とか1500人とか。


 自分が好きなのは、それより更に小さい箱。

 学校の教室よりも更に狭い。そんな空間。


 200人も入ればいっぱいになってしまうような箱。


 今日向かったのは「名古屋ロックンロール」

 コンクリートに浮かぶ、英字の赤い「RocknRoll」の文字。

 滑らかにカーブしたガラスパネル。


 ライブハウスらしいのは、一面に貼られたバンドのチラシとステッカー。

 1mmの余白も許さぬように貼られたチラシ達は、どぎつい輝きを放っていて、あっという間に色彩に酔わせてくれる。


 そして重厚な防音扉を開くと、中には異世界が広がっていた。

 お洒落なバーカウンターにソファ。軽く鳴り響くロックのBGM。

 一段低くなったところにフロアとドラムがセットされたステージ。客とステージの境目は、黄色と青にペイントされたドラム缶。


 壁と天井はどぎつい赤に塗りたくられていた。


 正直、最高だよね。

 

 最高の箱で、最高の曲の、最高のパフォーマンスのバンドを、目の前で楽しむことができる。

——このためなら、超特急代金なんて安いものだ。


 

 やがて登場したのは男性3人組。

 ギター、ベース、ドラム。シンプルな3人構成。

 

 彼らの曲は、パンクではないだろう。

 メロコア、という類ではない。

 ロック。ポップスに近いロックかもしれない。

 

 陽気なSEと共に始まったパフォーマンス。

 大きく鳴り響く音。光輝くスポットライト。 


 ——音がさ、全身にぶつかってくるんだよ。

 タイトなスネアドラムも、うねるベースラインも、泣きを誘うようなギターソロも。こればっかりはね、イヤフォンなんかと比べ物にならないんだよ。


 もう結束してから10年以上の彼らの演奏は阿吽の呼吸そのもので、安定した演奏は当たり前、僅かなリズムのズレや歪みだって、それがこのバンドの持ち味だ!と叫ぶように収束させてくるんだ。


 やがてそのリズムにグルーブに、自分の全身が引きずるように巻き込まれて動き出す。


 これこそが至福の瞬間。


 歌だってもう、ほとんどの曲を空で歌える。

 歌詞なんかみなくても、1字1句が口からこぼれてくる。

 

 会場全体が、少しずつ1つの塊になって、溶けあっていく。

 こんなに気持ちいいのは、久しぶりに飲んだビールのせいではない。



 このバンドは結成してから10年以上が経った。

 もう、若手ではなくベテランに片足を突っ込んでいるだろう。


 今の彼らが奏でる音と歌詞には、初期の頃にはなかった分厚い「現実の手触り」が溢れている。


「想像してたよりも、暮らしは貧相です」

「想像してたよりも、偉い人は偉いです」


 飾り気のない言葉が刺さる。 華やかな成功や名声ではなく、悔しさや生活の重さを知っているからこその言葉。


 ロックという武器で、現実と戦い続けてきた彼らだからこそ、この言葉には嘘がない。

「手放した、明日が今は消えはしないけど」

「手放せない、今日がきっとグッドエンドじゃなくても」


 1つを選んだことで捨てたことなんて山のようにあったんだと思う。

 

 そして、せっかく選び取った今日ですらうまくいかなかった、やっぱり違う選択のほうがよかったな、という後悔もきっとあったのだろう。


 でも、彼らはめげているわけではない。


 現実の重さにぶつかっているからこそ

「歩け、歩け、Have a Nice day!」と歌っている。


 どんなに辛くたって

「冷めないものならば、僕にも1つだけある」と歌っている。


 少なくとも私にとっては、このライブの時間はかけがえのない、とっておきの時間だったし、何よりも「前を向いて生きていこう!」と強く思えるものだった。


 自分はロックの道は進んでいないけれども、無くしちゃいけない情熱は絶対大切にしていきたいと思う。自分だって、選んだ道がうまくいかなくたって、一歩ずつ歩いていこうと思う。


 本当に、音楽を、バンドを続けてくれて、感謝の気持ちしかない。

 また一緒に、ライブ会場で会えることを心から願って止まない。


<引用>

シンガロンパレード ルートA

シンガロンパレード Have a Nice day

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