愚竜の人間観察記
わかっちゃいたけど、俺って本当どうしようもないバカやろうだ。
人間の前に出てみたけど、普通にあっさり攻撃された。文字読んでもらう暇すらなかった。
そりゃそうだ、今の俺は側から見たらドラゴンなんだもの。誰だってそうする。俺もそうする。
せめてもうちょい作戦立ててから行くべきだった。
「グ……」
……いや、ちょっと焦ってたんだ。と、思う。正気じゃなかった。
こんなわけのわからないことになってしまって、そこまで暗くないとはいえ、森で一人ぼっち。冷静さを失うには、あまりにも充分すぎる。
一人で森を走ってる時も、いつ動物に襲われるか気が気じゃなかった。
よし、反省会と言い訳終わり。逃したチャンスは戻ってこないけど、成果がないわけでもない。
「っかしなんだったのかねぇ、さっきの魔物は」
さっきの人間たち。一名頭に獣耳が生えてて人間か怪しかったけど、とにかく集団。四人組。尾行することに成功してやったのだ!
よくも攻撃してくれたな……! あとでちょっとこう、靴の中に小石とか入れてやるんだからな……!
「さぁ、いきなり前に出てきたと思ったらいきなり逃げて……小型犬サイズだったし、まだ子供だったのかニャ?」
「それは……なんだか、可哀想なことをしてしまいましたね」
で、今は彼らも休憩。また姿を現して攻撃されてもたまらないから、健気に情報収集だ。この世界、犬もいるんだ。
「子供……警戒しなければな。子を持った魔物が一番恐ろしいのだから」
「うっわサイテー! 最低ニャこいつ! もっとこう、優しさ!? 感傷!? 申し訳なさ!? 的なもん、ないのかニャ!?」
「あるか、そんなもの。魔物は魔物だろう」
なんというか、喧嘩しているけれど仲が良さそうで何より。
しかし、魔物ね……魔の物判定されちゃった。ドラゴンとかの総称かな。じゃあ、ドラゴン以外もいるのかな?
「ま、まあまあ、擬態型の魔物もいますから、それでこちらがやられては……あら? ミーニャさん、それは?」
「ニャ? 綺麗でしょー。さっきのモンスターが持ってたやつニャ。なんか文字みたいなのが書いてあるの」
そんな感じで、情報収集を続けているんだけど。多分、一番の収穫はこれだ。
「あら、本当……えぇと、「俺」……でしょうか?」
この世界の言葉が、理解できる。
日本語に自動翻訳されてるとか、そういうのじゃない。俺の頭の中に当たり前みたいに、この世界の言語が知識としてある。
「ねぇねぇ、これなんかお宝だったりしなーい? あの子が後生大事に持ってたニャだよ?」
「まだ生きてるし、剣をみた瞬間放り出して逃げたけどな……どれ、見せてみな」
おっとそこの四十代か五十代、今人を剣見ただけでビビって逃げたと言ったな。日本なら立派な傷害未遂事件だぞ。斬られても傷一つつかなかったとはいえ。
よろしい、お前の靴の中に入れる石は少し尖ったやつにしてやる。
「グゥ……」
なんて、冗談を言っても不安は拭えない。
なんでこの世界の言葉がわかるんだ……気持ち悪い。脳みそでも改造されちゃったのかな。
「んんー……だめだこりゃ。ただの卵のかけらだぜ。ミーニャの嬢ちゃんが欲しがるようなもんじゃねぇよ」
けれどおかげでこうして、情報収集ができる。だったら今はそれを利用するしかない。もらえるものはなんでももらっておこう。
……それに、強がってはいるけど……これ以上、不安になりたくないし。
「うにゃ……ただのゴミだニャ……相変わらず、シケたダンジョン。やっぱ魔道具くらいしかめぼしいものは無さそうだニャー」
「そもそも、ダンジョンなんてそれ以外の目的で行くもんじゃねぇさ」
「あら、そんなことを言ってはいけませんよ。魔物を間引く事も、探索者の大事な役割です」
ダンジョン。魔道具。探索者。聞こえてくるのは、ファンタジーな言葉ばかり。
えぇと、つまり。彼らは探索者で、魔道具? が欲しくて、ダンジョンに来た。そして俺は間引かれる、と。
「グァっ……!」
ついでじゃねぇか! そんなんで殺されかけてたまるか! と、叫んでやりたいけど……この喉じゃなぁ。
「火が消えたら攻略を再開する。準備をしておけ」
「おいおいいきなり会話ぶった斬んなニャ、スレたナイフくん。仲間の輪を保つのもリーダーの役割じゃニャいのー?」
「まぁたそうやってすぐ……」
彼らはダンジョンの攻略を再開するつもりだ、と。
……様子見をしたいけど、つまりは彼らの来た方向を辿れば森から抜ける……よな?
「グゥ……」
空腹がすごいから、飯が食いたい。有効な手段は、彼らのおこぼれに預かること……だと、思う。ちょっと食料を拝借するんでもいい。
「リーダーもミーニャの嬢ちゃんも、もう少し仲良くしてくれないもんかねぇ」
「あはは……」
もう少し、彼らのことをつけてみるか。
◇
と、思ってた時期が、俺にもありました。
「そっち行ったよ!! やれニャ!!」
「あいよ、嬢ちゃんの頼みとあらば!」
「……俺では、ダメなのか?」
「ちげっ、リーダー!! 言葉のあやだろ!! その鵜呑みにする感じやめれるか!?」
「ちょ、おじ様!? 集中!! 集中してください!!」
そう、彼らの実力を見るまでは。何あれすっごい。
「はいはい、わーってる……よッ!!」
やいのやいのと言い合ってはいるけど、でっかいクマみたいなやつをあっさり倒してしまった。魔物、ってやつなのかな。
ただのクマじゃない。両腕が異様に発達してて、体毛には妙な光沢がある。リーダーらしき男が剣で切った時の音は、明らかに硬いもの同士が打ち合う音だった。
「……」
それに、猫耳の女の子が途中使っていた、見えない斬撃。それと、擦り傷を直してた白い服の女の子。
……ファンタジーチックなこの世界のことだし。魔法、ってやつなのかな。
「グゥ……」
正直あれを見てしまうと、見つかったあとのことが怖いな、と。彼らの残した魔物の残骸を見ながら、そう思った。
一度目の邂逅は、きっと本当に運が良かったんだ。あの剣がクリーンヒットしてたら、今頃俺の胴体は綺麗に二等分。
「ヒッ……!」
考えたくない、考えたくない、考えるな。押しつぶされるぞ。
とにかく、彼らをつけるのはもう少し距離をとって、慎重にやるとして。
……一応、飯が手に入った。
「グルル」
本当に一応だけど、クマの肉が。クマかなこれ。クマって認めたくないなこれ。
というか、食ってもいいもんなのかこれは。血抜きとか、焼いたりとかしなきゃいけないんじゃ。
理性では、そうわかっているのに。
「……アァ」
腹が減った。もうそう思ってから、どのくらい食べてないんだろう。でも、食ったら死ぬかもしれない。
「……」
……どうせ全部食うことはできないんだ。比較的食っても平気そうな、あと名前的に柔らかそうなモモ肉あたりをもらっていくか。どっちも根拠はないけど。
それで、本当に腹が減って死にそうな時に食おう。焼いて食う。
「フン、フフン、フン」
彼らの向かった方向は見てるけど、少し急い、で?
「ウォルルルルル……」
ズシン。と、地響きのような足音。ふと、後ろを振り向くと。
「ギャギャギャッ!?」
さっきのクマのような魔物が、さらにもう一体。そこに、立っていた。
そう、立っているのだ。まるで、「今からお前を殴る」と言わんばかりに。
「フーッ……! フーッ……!」
それも、やけに興奮した顔つきで。
えぇと、これはあれかな。ひょっとしてひょっとすると、敵討ち。的な? やったの、俺じゃないんだけど。
「ガァアアアアアアッ!!」
「グァアアアアアッ!?」
あの四人!! あの四人!! ふざけんなあいつら!!
ぜってぇ嫌がらせしてやる!! ちょっと嫌な気持ちにさせてやるんだからな!!
「グゥっ……!」
だから、そのためにもまず……! 全力で逃げるッ!
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TS従魔のダンジョン攻略記! おにっく @onick_029
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