第2話 転任してきた先生②
<<付き合ってください!>>
進路指導室。
とんでもない問題発言を叫んだのは先生。沈黙してるのは私。
「……えーっと、退職届?」
先に口を開いたのは私だった。
先生はふと頭を上げた。爆弾発言をしたくせに、すっげぇ普通の顔してる。おい。
「生徒に告白などしようものなら、退職相当だからな」
メガネをクイッと持ち上げながら、どこか得意げに微笑む。
……詰んでるのに何そのドヤ顔? やばくない? 逆に怖い。
「……たしかに、冗談でもアウトな発言ですね」
軽く呆れて返すと、先生は小さくうなずいた。
「そうだな。まぁ、冗談ではないんだが」
「……は?」
「すまん、
「俺は何がどうなったのか自分でも意味が分からないんだが、君に惚れてしまった」
……あ。名前、フルネームで覚えてくれてる。
って、違う違う違う、今そこじゃない!!
「何?夏休みどっかで会ってたとか?前世の恋人だったとか? 夢に出てきた?」
「どれも違うな。強いて言えば、初日のお前の返事を聞いた瞬間だ」
「……返事?」
「出席で名前を呼んだときの……『はい』だ」
自分の胸に手を当て余韻に浸る先生に、思わず天を仰ぎたくなった。
どのタイミングで惚れてんだよ。
私の「はい」に恋心を抱くとか、意味が分からない。いや、わかりたくもない。
その男は、真顔のまま静かに続けた。えっ、まだ続くの??
「……髪色は、茶色だけど明るすぎなくて、たぶん地毛か自然なトーンで。前髪は流してて、背中までのロングヘアーを時々かき上げるクセがある。制服はシャツをちょっと出してて、ネクタイは緩め。でもだらしないってより、なんか……馴染んでる感じがして」
「睫毛が長くて、目の奥がいつもちょっと笑ってるようで、でも目つきは真っ直ぐ。返事の声も……なんというか、強くて、柔らかくて」
先生は、少しだけ息を吐いた。
「……全部が、今は愛おしいんだ」
こっちは何もしてないのに、勝手に分析されて、勝手に惚れられて、勝手に愛おしがられている。
いや、怖いって。これが恐怖というものなのか……?
「……先生、それ本気で言ってるなら、わりと詰んでますよ?」
ため息まじりに言えば、先生は神妙な顔で頷いた。
「ああ、自覚はある。あまりにも一目惚れが過ぎた。反省してる」
「でも惚れてると」
「そう。抑える努力はしている。だが、結果がこれだ」
ドヤ顔で爆弾発言を繰り返してる時点で、努力の方向が完全に間違ってる。
「じゃあ、もう一回確認しますけど。先生、さっきのは……本気の告白ってことでいいんですよね?」
「ああ。一生に一度、人生で一番の本気の告白だ」
「なるほど。……じゃあ、流します」
「えっ」
「スルーします。全部。聞かなかったことにしてあげます。お互いのために」
「……そうか。助かる。だが……忘れられたくはない」
「知りませんよそんなの!」
どっと疲れた。
なんなのこの人。教師のくせに、一番ダメな生徒よりダメじゃん。
「……一応聞きますけど、これって、誰にも言っちゃダメなやつですよね?」
「ああ、それはもちろん。俺の首がかかってる。全ては
いや、重いわ。
「という訳で。私も特別扱いとか求めませんし、進路相談もしっかり聞いてください。仕事は仕事で」
「……ありがたい」
「でも、生徒の『はい』に惚れるとか、ちょっと気持ち悪いので、そのへんは自覚持ってください」
「もちろん理解している。今後は気をつけるよう、善処する」
真顔で言われると、なんか……こっちが悪いみたいになるからやめて。あー、面倒くさいなぁ、もう。
でも。
でもちょっとだけ――
この人、嫌いじゃないかも。とか思ってしまっている自分が、いちばん面倒くさい。
次の更新予定
2025年12月10日 06:06 3日ごと 06:06
先生と禁断の恋、始めません。 五月雨恋 @samidareren
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