社畜と悪魔のゲーム 〜救いようのない世界で、悪魔とすごろくを。〜

いぬがみとうま

【短編】ブラック企業と悪魔のゲーム

 あれだけゲームには目がなかった俺がゲームをやめた。同時に食欲も無くなった。

 ただ、悪魔のような悪魔が跋扈するこの世界から、あの子を守らなければと思ったんだ。



  * * *



 1Kのデザイナーズマンション。遮光等級の高いカーテンの隙間から、無遠慮な朝日が刃のように差し込んでいた。

 部屋の空気は淀んでいる。昨夜のシャワーの湿気と、生きているだけで排出される倦怠感が、換気扇の回っていない密室に充満しているのだ。


 テレビからは、朝のニュース番組が軽快なジングルと共に流れている。

『昨日、IT大手EDOソリューションの社員、〇〇さん二十七歳が――』

 画面の向こうのアナウンサーは、今日も誰かが死んだ事実を、天気予報と同じトーンで告げていた。


 小さなローテーブルには、焦げ目のついたトーストと、黄身の固まりすぎた目玉焼き、そして脂の浮いたベーコンが乗ったワンプレートが置かれている。

 食品サンプルよりも色彩のない、私の朝食。


「はぁ……会社、行きたくない」


 独り言は、誰に届くでもなくフローリングの床に落ちて消えた。

 トーストを齧る。ジャリ、という音が頭蓋骨に響く。まるで乾燥した砂を噛んでいるようだ。

 咀嚼するたびに、胃袋がきゅっと収縮し、異物を拒絶しようとする。

 飲み込む。喉に何かが引っかかる。

 指先は氷のように冷たいのに、みぞおちのあたりだけが焼け付くように熱い。それは焦燥感という名の慢性的な炎症だった。


『〇〇さんは、仕事上でのトラブルを抱えており――』


 ニュースの続きが耳に入る前に、私はリモコンの電源ボタンを押し込んだ。

 プン、という音と共に画面が暗転し、私の死んだような顔が黒い画面に映る。


 駅までの道のりは記憶にない。

 五駅分の満員電車。車内に充満するのは、整髪料と汗、そして乗客全員が抱え込む「同じ質量の絶望」が混じり合った、独特の腐臭だ。

 背中に誰かの鞄が押し付けられる。肋骨が軋む。

 私は吊革に掴まりながら、座る乗客の後頭部を焼く朝日を眺めた。

 この車両は、都心のオフィスビルという巨大な焼却炉へ向かうベルトコンベアだ。私たちは、そこで燃やされるためだけに運ばれる可燃ごみなのだ。


 須藤ナツカ。二十七歳。

 株式会社カエイ・コンサルティング入社五年目。

 かつて抱いていた「誰かの役に立ちたい」という青臭い夢は、膨大なタスクと理不尽な納期の濁流に飲まれ、とうの昔に藻屑と消えた。

 今はただ、溺れないように必死で顔を上げ、酸素を求めて喘ぐだけの毎日だ。


 それでも、容赦のない波は襲いかかる。


「須藤、お前さぁ、仕事を舐めてるわけ?」


 窓のない会議室。

 先輩社員の苛立ちを含んだ声が、狭い空間に反響する。蛍光灯の明滅が、チカチカと視界を刺激した。


「い、いえ。……舐めてません」

「だったら言われた通りにやれよ! 昨日の夜までに資料送れって言っただろ。俺の言ってる日本語、難しかったか?」

「それは……あの……すみません」

「言い訳はいいんだよ。お前のタイムマネジメントがゴミだって話をしてるの」


 ボールペンの先で机をトントンと叩く音が、カウントダウンのように神経を削る。

 ここで反論すれば、説教の時間は倍になる。私は嵐が過ぎ去るのを待つ貝のように、ただ首を垂れて嵐をやり過ごすしかない。

 自分が悪いのか。相手が悪いのか。そんな判断基準さえ、もう麻痺してわからなくなっていた。


「だから午前中、席にいなかったのか」


 ランチタイム。会社の近くの定食屋で、私は味噌汁の湯気に顔を埋めていた。

 向かいに座るのは、直属の上司である盛岡だ。


「そうなんですよー! もう、心が複雑骨折してます。ボッキボキです、粉砕骨折です」

「ははは、粉砕しちゃったか。そりゃ重症だ」


 盛岡は苦笑しながら、私の愚痴を受け止めてくれる。

 彼はこの灰色のオフィスにおいて、唯一色彩を持った存在だった。いつも穏やかで、部下を守り、決して声を荒らげない。


「その説教の時間があれば資料なんて三つは作れますって! 非効率の極みですよ」

「まあ、彼も焦ってるんだよ。今期の数字が悪いから、下にあたることでバランスを取ってるんだろうね」

「こっちは巻き添えですよー。いい迷惑です」


 盛岡との会話だけが、私にとっての酸素ボンベだった。

 彼がいなければ、私はとっくに窒息していただろう。

 けれど、私の日常は、その細いパイプ一本では支えきれないほど歪み始めていた。


 深夜一時。

 空調の切れたオフィスは、しん、と静まり返っている。

 終わりの見えないエクセルの行。繰り返される修正指示。顧客からの理不尽なクレームメール。

 タスクが大渋滞を起こし、思考回路を焼き切ろうとしている。

 

 ふと、モニターを見つめる視界が滲んだ。

 涙で数字が万華鏡のように歪む。

 限界だった。


 終電はとうになくなっている。

 重い足を引きずり、タクシーを拾おうと大通りへ出た。

 流れる車のヘッドライトが光の帯となって網膜を焼く。


 その時、向こうから歩いてくる人影が見えた。


「盛岡さん……? 盛岡さぁぁぁん」


 彼の姿を認識した瞬間、決壊したダムのように感情が溢れ出した。

 私はその場にしゃがみ込み、子供のように泣きじゃくった。




「なるほどなぁ。それは完全にキャパオーバーだ。須藤さんの負担が大きすぎる」


 橙色の暖簾がかかった、こぢんまりとした和風居酒屋。

 元ナンバー1ホステスだという女将さんの、付かず離れずの接客が心地よい。

 盛岡の奢りで飲む酒が、乾ききった五臓六腑に染み渡る。


「ですよねー! あいつマジで、自分のミスを私にパスしてくるんです。キラーパスですよ、殺す気かっての」

「ははは。俺からも釘を刺しておくよ。だから、そう自分を殺すな」

「あざすーーッッ! きつく、めーっちゃきつく言ってください!」


 アルコールが脳の前頭葉を麻痺させ、ようやく私は「会社員」という皮を脱ぎ捨てて「須藤ナツカ」に戻ることができた。

 仕事の愚痴から始まった会話は、次第に他愛のない雑談へと移っていく。


「えー? 盛岡さんもゲーム好きなんですかー? 意外!」

「今は封印してるけどね。昔は廃人レベルだったよ。寝食を忘れて没頭してた」

「へえ、どんなの? RPG?」

「すごろく……みたいな? ちょっと複雑なルールの」

 盛岡はグラスを揺らし、氷がカランと音を立てるのを眺めた。

「他人のリソースを奪って自分の陣地を広げる、そんな感じのゲームだなぁ」

「盛岡さんって真面目だから、そういうの弱そう」

「そんなことないぞ。目的のためなら、多少『悪魔的』な手も使う」


 グラス越しに見えた彼の瞳が、一瞬だけ怖く見えた。

 ドキリとして瞬きをすると、そこにはいつもの優しい顔がある。


「でも、なんでやめちゃったんですか? そんなに好きだったのに」

「……ゲームより、失いたくない『現実』が出来たから、かな」


 意味深な言葉に、私は酔った頭を揺らしながら、とろんとした目で彼を見つめた。

 口が勝手に動く。普段なら絶対に言わないような秘密が、アルコールの滑り台に乗ってこぼれ落ちる。


「実は私……本物の悪魔、見たことあるんですよ。フフフ」


 私の父は、今の私と同じ仕事人間だった。

 真面目で、責任感が強くて、部下思いで。

 そして、今の私と同じように壊れていった。


 あれは中学三年の梅雨時だった。

 夜中、喉が渇いてリビングへ降りた。

 真っ暗な部屋。窓の外は激しい雨。

 稲光が走り、部屋が一瞬だけ白昼のように照らし出された。


 そこには、首を吊った父のシルエットが揺れていた。

 そして、その前に、それはいた。


 人であって人ではない、異形の影。

 それは宙に浮く父の胸に右手を突き刺し、心臓を弄んでいた。

 抉り取ろうとしているのか、それとも何かを注ぎ込んでいるのか。

 私は悲鳴を上げることすら忘れ、その光景に魅入られた。


 あれが幻覚だったのか現実だったのか、今でもわからない。

 ただ、父が死んだ事実だけが残った。


「盛岡さんってー、なんでそんなに私にやさしいんですかー?」

「須藤さん、呂律が回ってないぞ。そろそろお開きだ」

「もしかしてー、私のこと好きなんですかー?」


 盛岡は困ったように眉を下げ、会計へと席を立った。

 その広い背中は、どこか父に似ていた。


「ふふ、私は好きだけどな。……お父さんみたいで」


 呟いた言葉は、喧騒の中に溶けて消えた。


 私の日常は、ギリギリのバランスで保たれていたはずだった。

 あの男が現れるまでは。


 カエイ・コンサルティングを買収し、新社長として就任した男。

 流行りのスマートなオフィスには似つかわしくない、重厚なマホガニーのアンティークデスク。

 そこに座る男は、常に何かを咀嚼していた。



  * * *



 ギチ、ギチ、と。

 硬いものを噛み砕く音が、広い社長室に不快なリズムを刻んでいる。

 書類を受け取る際に見えた彼の指は、節くれ立ち、黒く濁った長い爪が生えていた。彼はその自らの爪を噛みちぎり、飲み込んでいるのだ。


(――プレイヤーログ:悪魔【アスタロト】)

(――現在のステータス:絶好調)


 俺たち悪魔にとって、人間界の「会社経営」ほど面白いゲームはない。

 この三十年、地獄でのトレンドはもっぱらこれだ。

 まずはキャラクリエイト。人間に化け、社会に溶け込む。

 ルールは簡単。人間を生かさず殺さず、「やりがい」や「成長」「責任」という名の餌をぶら下げて、魂を摩耗させること。


 心が圧死した瞬間の人間の魂は、極上の味がする。

 

 特に日本人は最高だ。

 責任感、世間体、恥、同調圧力。それらすべてが、俺たちにとって都合の良い「首輪」になる。

 買収、合併、リストラ、理不尽な人事異動。

 盤面をひっくり返すたびに、人間という駒が右往左往し、絶望という蜜を垂れ流す。

 

 この会社も、いい牧場になりそうだ。

 特に、あの眼の死んだ女社員。

 じっくりと熟成させてからいただくとしよう。



  * * *



 季節が二度巡った頃。

 旧経営陣は一掃され、新体制という名の独裁が始まった。

 前の社長が謎の急死を遂げたことも、メディアは沈黙を貫いた。違和感はあったが、日々の業務量がそれを思考する時間を奪っていく。


 数ヶ月前、同期の男が死んだ。

 子供が生まれたばかりだと言って笑っていた彼は、ある日突然、会社の屋上から飛んだ。

 彼のデスクには翌日、花瓶が置かれたが、三日後にはそのデスクごと撤去され、最初から誰もいなかったかのように業務は続いた。


 オフィスの壁に新しく設置された、リアルタイムの売上モニター。

 刻々と増える数字とグラフ。それが増えれば増えるほど、私たちの生気が吸い取られていくようだった。


 ある日、私は事業部長と盛岡に呼び出された。

 新社長の肝煎りだという会議室。壁一面のガラスからは、東京の街が一望できる。


「須藤さん。下半期の新サービス、君にプロジェクトリーダーを任せたい」


 事業部長の言葉に、心臓が早鐘を打った。

 プロジェクトリーダー。入社以来、ずっと憧れていたポジション。

 泥沼のような日々から、ようやく這い上がれるチャンスが来たのだ。

 ちらりと盛岡を見る。彼は無表情で、手元の資料に目を落としていた。


「やります。やらせてください!」


 私は即答した。

 これが、蜘蛛の糸だとも知らずに。


 そこからの私は、文字通り命を削った。

 選抜されたチームメンバーと共に、深夜のオフィスで議論し、コンビニのおにぎりとエナジードリンクで空腹を満たし、仮眠室で数時間眠るだけの生活。

 肌は荒れ、髪はパサつき、体重は落ちた。

 けれど、不思議と辛くはなかった。「希望」という麻薬が、脳内物質を過剰に分泌させ、疲労感を麻痺させていたからだ。


 壁にぶつかり、涙をこらえていた夜。

「大丈夫か、須藤くん」

 背後から盛岡の声が聞こえた気がして振り向く。

 だが、そこには誰もいない。

 彼は最近、私と距離を置いているようだった。視線が合っても逸らされる。それが少し寂しかったけれど、今は結果を出すことが恩返しだと信じていた。



 そして半年後。

 役員総出の最終報告会。


「なんだ、このゴミのような成果物は」


 新社長の一言が、私の半年間を粉砕した。

 会議室の空気が凍りつく。


「クオリティ、収益性、将来性。すべてにおいて水準以下だ。これに半年? 君たちの給料泥棒ぶりには感心するよ」

「し、しかし社長! このデータは事前のシミュレーションでも――」

「黙りたまえ」


 新社長がギロリと私を睨む。その瞳の奥に、昏い喜びの色が見えた気がした。


「まだ須藤くんには荷が重かったようですね」

「撤退だ。このプロジェクトは解散とする。メンバーは全員、異動だ」


 反論すら許されない空気。

 チームメンバーへの報告。彼らの死んだような目。

 私はトイレの個室に駆け込み、声を殺して泣いた。

 予約していた打ち上げの居酒屋に、震える指でキャンセルの電話を入れる。


 最初から、勝てる見込みのないゲーム盤に乗せられていたことに、私は気づいていなかった。

 賽の目は、最初からすべて「凶」が出るように細工されていたのだ。


 どうやって帰宅したのか覚えていない。

 照明をつける気力もなく、キッチンから漏れる換気扇の光だけが頼りだった。

 冷蔵庫からウィスキーの瓶を取り出し、ラッパ飲みする。

 喉が焼け、胃が煮えるような熱さが広がる。

 酔いが回るにつれ、視界と時間が歪んでいく。


 どこで間違えた?

 いや、どこが間違っていた?

 頑張った。死ぬ気でやった。すべてを犠牲にした。

 それでも、結果はこれだ。

 降格、左遷、あるいはクビ。未来の選択肢はどれも真っ暗だ。


「……お父さんも、こうやってすり減っていったのかな」


 父の笑顔と、首を吊ったあとの無惨な顔が、ストロボのように明滅する。

 もう、楽になりたい。

 思考のスイッチを切りたい。


 ふらつく足で椅子に上がる。

 梁には、パソコンの延長コードが結びつけられていた。いつ結んだのか、記憶にない。

 輪っかに首を通す。

 硬いビニールコードが皮膚に食い込む感触。冷たくて、痛い。

 

 足元の椅子を蹴れば、すべてが終わる。

 さようなら、クソみたいな世界。


「――いい。とってもいい絶望だよ、須藤くん」


 不意に聞こえた声に、ハッと目を開ける。

 幻聴ではない。

 暗闇の中、私の足元の椅子を掴んでいるのは、新社長だった。


「な、なんで……ここ、に」


「君がプレゼンに来たときから目をつけていたんだ。真面目で、責任感が強くて、脆い。最高に俺好みの『ごちそう』になりそうだとね」

「や、やめ……!」

「だから会社ごと買ったんだよ。君をリーダーに抜擢し、絶対に成功しないプロジェクトを与え、極限まで希望を持たせてから突き落とす。……ああ、その顔だ。その絶望が食べたかった!」


 ビキ、バキバキッ。

 社長の体が膨張する。

 高級スーツが弾け飛び、骨が軋み、筋肉が異常に盛り上がる。

 皮膚を突き破って現れたのは、羊のような捻じれた角と、毒々しい赤色の肌。

 口は耳まで裂け、牙がぎらりと光る。


「あ……くま……」


 父の死に際にも現れた、形は違うけど間違いない。


「いただきまァすッ!」


 悪魔が椅子を蹴り飛ばした。

 ガクンッ。

 全体重が首一点にかかる。延長コードが喉仏を砕き、視界が白く弾ける。

 息ができない。苦しい。痛い。目玉が飛び出るような圧力。

 手足をバタつかせても、空を切るだけだ。

 意識が暗転する寸前、悪魔の高笑いが聞こえた。


「ハハハハ、ハーッハッハ……ッ!?」


 笑い声が、濡れた雑巾を絞るような音と共に止まった。

 薄れゆく視界の端で、社長の胸から「何か」が生えているのが見えた。

 それは、背後から心臓を貫いた、別の悪魔の腕だった。

 黒く、鋭利な爪を持つ腕。


 社長の体が塵となって崩れ落ちる。

 そこに立っていたのは、盛岡だった。


 ただし、その右腕は異形そのもの。

 彼は私を軽々と抱き上げると、首に食い込んだコードを鋭い爪で切断した。

 私は床に崩れ落ち、激しく咳き込む。


「ガハッ……ごほっ……も、盛岡、さん?」


 床に横たわる私の前で、盛岡の人の皮が剥がれ落ちていく。

 バリバリと音を立てて現れたその真の姿に、私は戦慄した。


 あの日。

 父の胸に手を突っ込んでいた、あの悪魔。


「あんた……お父さんを……!」

「……すまない」


 異形の顔をした彼は、悲しげに目を伏せた。その瞳だけは、いつもの盛岡のままだった。

 彼は私の額に、血に濡れた異形の手をかざす。


「疲れただろう、ナツカ。……今は、おやすみ」


 強制的な睡魔が、私の意識を深淵へと引きずり込んだ。

 最後に見たのは、泣いているようにも見える悪魔の顔だった。


 翌日、ナツカが出勤すると、社長と盛岡の姿はなかった。

 次の日も、その次の日も。彼らが二度と出社することはなかった。

 会社は再び別の企業に買収された。

 すべては夢だったのかと思うほど、日常は淡々と過ぎていった。


『昨日、IT大手EDOソリューションの社員、須藤ナツカさん二十九歳が、オフィス内で亡くなっているのが発見されました。遺書には、過重労働への苦悩が記されており――』



  * * *



 あれから二年後。

 ナツカはキャリアアップを目指して転職をしたが、転職先のレベル違いの激務とパワハラに遭い、失敗が続いた。

 思い詰めた彼女は結局、自らその命を絶ったらしい。

 

 俺が殺した彼女の父親と同じ運命を、彼女もまた辿ったのだ。


「……あぁ」


 俺はビルの屋上から、眼下に広がる東京の夜景を見下ろす。

 煌めく無数の光の数だけ、絶望と魂が蠢いている。



 かつて、ゲームには目がなかった俺がゲームをやめた。食欲も無くなった。

 ただ、悪魔のような悪魔が跋扈するこの世界から、あの子を守らなければと思ったんだ。

 

 今、俺は無性にゲームがやりたい。

 この腐りきった盤面をすべてひっくり返すような、最悪で最高なゲームを。


 俺は懐からサイコロを取り出し、虚空へと放った。


(了)




――


ここまでの物語。率直なご評価をいただければ幸いです。

★★★ 面白かった

★★  まぁまぁだった

★   つまらなかった

☆   読む価値なし


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