第2話(1) 女性兵士は自由恋愛?


 佐官室のドアがノックされた。

「ジトコ少佐、アデルマンであります」

「入れ、大尉」


 長身痩躯のアデルマン大尉が部屋に入ってきた。彼女たちはウラジオストックの空軍基地にいた。アデルマンはいつも薄い唇を真一文字に引き結んでいる。部下からは氷の彫像と言われて恐れられていた。


「サドガシマ作戦の我々の人員配置表をお持ちいたしました」と少佐の机に書類を置く。


 少佐は読んでいた書類をアデルマンに渡した。「読んでみて、大尉。作戦詳細解説書よ。地図が有るでしょ?おかしな配置だわ」

「スカッドとS-400の配置図でありますね?」


「スカッドを配置するのは、佐渡の藝術学院と県立佐渡高校、相川火力発電所、二見漁港の敷地内四ヶ所。この四ヶ所には日本人捕虜は収容しない。日本人を収容するのは、佐渡市立両津小学校、佐渡市立両津中学校、佐渡市立加茂小学校、新潟県立佐渡中等教育学校、佐渡市立河崎小学校の計五校。それで、敷地外にスカッドのハリボテを配置してあるわ」

「例のジュネーブ条約違反回避策でありますな?」

「人間の盾、などと非難されては迷惑なのよ。欧州ロシアの間抜け共がウクライナで犯しているような戦時違反を我が東部軍管区がしてはならないの」

「ハ!」


「それで、自衛隊、在日米軍がSM-3、PAC-3で、高高度、高度迎撃をするのを阻止するために、我が方はS-400部隊を配置する」

「射程400キロ、六ヶ所目標同時処理でありますな」

「そう。S-400で、自衛隊、在日米軍の航空戦力、並びに迎撃ミサイルSM-3、PAC-3に対処する。S-400は、本部を設置する藝術学院に5P85S自走式発射機、多機能レーダー車輌、指揮通信車輌、整備車輌、補給車輌の防空システムを2セット、県立佐渡高校、相川火力発電所、二見漁港に1セットずつ、それから、航空自衛隊佐渡分屯基地に1セット、妙見山アクティブレーダーサイトに2セットを配備する」

「南北海岸線の防備が手薄ですな?」

「海兵部隊を配置するが、参謀本部が何か考えるでしょうね」


「ハ!我々の部隊は?」

「私の本意ではありませんが、私の部隊は本来の通信任務ではなく、日本人を収容する五校を任されました。学校の敷地内は女性兵士のみの編成、千名。日本人捕虜は二千名。五校に捕虜は約四百名ずつ、我が兵士は約ニ百名ずつ配置。捕虜にはロシア軍の軍服を着用させる。捕虜にする航空自衛隊佐渡分屯基地の自衛隊員八十名も五校に分散して配置。彼らはロシア軍の肩章付制服で民間人と区別して管理する。本作戦の総指揮官、ウラジミール中佐にはS-400の配備も頭に入れておけ、ワシは歩兵出身だからエレーナの方が適任だと言われた。だから、戦闘時にはそっちも任されるんでしょうね」



「少佐、あの……この女性兵士の任務の意図がよくわからないのでありますが?」

「私もわからない。ジトコ大将に、パパに聞いたけど、女性兵士は丸腰、日本人との交流は非番の時は自由。関係を持ってもかまわん。結婚も許す、軍規違反にも問われない。結婚する場合、除隊するも自由。各自、日本国の婚姻届に必要な書類を用意させよ。軍で日本語訳を作成する、と言われたの。わけがわからないわ」


「それは……その、フリーセックスということでありますか?」

「そうよ。相手は二千人の日本人男性、我が方は千人の女性。数が合わないわよ。だから、ミーシャの言うようにフリーセックスになっちゃうわよ。参謀本部の選別で、ミーシャ、写真見たでしょ?容貌のいい女性ばかり。少なくても英語は話せる。日本語を話せる女性も大勢いる。何の意味があるのかしら?東部軍管区は戦時に戦争花嫁でも日本に差し出すつもりかしら?ミーシャには、我が方女性兵士の統制もお願いするわ。日本人よりもロシア人女性の方が心配だから。彼女たち、ケダモノですもの」


「ハ!了解であります」

「それから、あなたは、この人ね」と履歴書をミーシャに渡す。「これが大尉のお相手。小野一尉、つまり、あなたと同じ大尉よ。ミーシャはフリーセックス禁止。一夫一婦制だということ。参謀本部の指示。なんなんでしょうね?これ?」


「ハ?小官は、この、この大尉と付き合うんでありますか?」

「そうよ。あなただけじゃない、見てよ、これ」ともうひとつ履歴書を渡す。「私の相手も指定済み。鈴木三佐、つまり、少佐が相手だそうよ。同じく、フリーセックス禁止。一夫一婦制。パパは娘を国際結婚させるおつもりかしらね?まったく、ママが日本人だからって!選択の自由は私とあなたはないのよ」


「しょ、少佐、お忘れでしょうか?小官は……未経験であります!」

「あ、そうだったわね。よく忘れちゃうのよ。あなたくらいの美貌ならティーンの頃から経験豊富と思っちゃうから」

「小官は、人付き合いは苦手でありまして……」

「コミュ障だったわね。まあ、いいんじゃない?この大尉に処女をあげても」


「小官の初体験が外国人でありますか?」

「私だって、初体験は日本人よ。いいわよ、日本人。ロシア人よりも優しくって、丁寧なのよ」

「め、命令とあらば」

「いいえ、ミーシャの自由よ。ただ相手指定だってことで、別にお付き合いを強要しないわよ」

「ハァ、できるだけ頑張ります!」

「あんなもの、頑張らなくてもいいんだけどなぁ。ミーシャは固いから。力を抜いていれば、相手が勝手にやってくれるわよ」


「ハァ、そんなもんなのでありますか?」

「そぉよぉ。力を抜いていれば、ブスッと刺されて、処女卒業ってことだわ」

「わ、わかりました。研究してみます」

「……固いわね、頭。っと、それよりも、この妙見山アクティブレーダーサイト、県立佐渡高校、航空自衛隊佐渡分屯基地の防空システム車輌の詳細図がおかしいのよ」とエレーナはA1図面を広げた。


「これのどこがおかしいのでありますか?」

「よく方位を見て」

「こっちが北ですので……北西への備えですね」

「だから?」

「小官にはわかりませんが……え?」

「頭固いなあ。ミーシャの悪いところ。応用が利かないものねえ。自衛隊、在日米軍や彼らのイージス艦からのSM-3、PAC-3の発射はどの方位よ?」

「南、南東、東ですね……」

「だから、妙見山アクティブレーダーサイト、県立佐渡高校、航空自衛隊佐渡分屯基地のS-400の方位がおかしいじゃない?」

「確かに、そうであります!」

「北西にあるのは?」

「……北朝鮮、それと、人民解放軍北部戦区でありますか?」

「そういうこと。まるで、北と中国への備えみたいじゃない?」

「どういうことなんでしょうね?」

「私もそれを聞きたいわよ」


「……ところで少佐、アナスタシア少尉も我々と同じ両津中学校に配置されましたが?」

「ああ、アニーね。だってぇ、ミーシャと言えばアニーでしょぉ?」

「何を言われます。小官は彼女と合いません」

「あらあら、実は仲がいいのに」

「少佐、仲などよくありません!」

「まあまあ、彼女がいると何かと便利でしょう?有能なんだから」

「アカデミーからの腐れ縁であります」

「ミーシャの下に配属ね、ハイ、決定!」

「……ご命令とあらば……」

「そうだ、男性とのこと、アニーに教えてもらえばいいのよ。同室でしょ?ロシア軍一番の肉食女子に教えてもらえば?」

「ご勘弁下さい!」

「あら?『ご命令とあらば』って言わないのね?ま、許してあげる。ロシア軍一番の氷の女を泣かしちゃダメだもの。私の大事な大事な副官なんですから、ミーシャは。じゃ、下がってよろしい!」

「し、失礼いたします!」

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