『世界は27%の確率で偽物らしい。AIに聞いたらこうなった』

篠崎リム

『世界は27%で偽物らしい。AIに聞いたらこうなった』

 湯気の立つカップを片手に、スタダで買ったばかりの少し高めのコーヒーの香りをそっと味わう。

 その額面を思い出しながら、「今日はこの一杯の元を取らないと」と小さく息をつき、静かに椅子へ腰を下ろした。

 パソコンの前に向き直ると、画面の光が薄暗い部屋をぼんやりと照らしている。


 僕は、どこかで耳にした“シミュレーション仮説”について、AIに問いかけてみる事にした。


 シミュレーション仮説とは、私たちが生きているこの世界そのものが、より高度な存在によって作られた“仮想世界”かもしれないという考えだ。

 難しい理論のように思えるけれど、要するに――ゲームの世界に住むキャラクターのように、私たちも誰かが作った環境の中で動いているのではないか、という話である。


 もし外側に、とてつもなく進んだ文明があって、現実そっくりの世界をいくつも作れるのだとしたら……私たちの世界が“本物”である保証は、じつはどこにもないのかもしれない。

 そう考える学者や研究者は少なくなく、可能性だけで言えば、決してゼロとは言い切れない――そんな曖昧さを抱えた仮説だ。


 AIはしばらく沈黙したまま、膨大なデータをかき集めるように微かに唸り続けていた。

 やがて冷ややかな青い光が瞬き、結論が静かに告げられる。


「……理論的推定に基づくなら、この世界がシミュレーションである確率は――27%です。」


 その数字は意外と高く、けれど飛び抜けているわけでもない。

 AIは続けて、淡々と理由を述べた。


「高度文明がシミュレーション技術に到達する可能性、その文明が多数の仮想世界を生成する可能性。それぞれは不確定ですが、完全に否定するだけの根拠もありません。

 結果として――“本物と仮想の境界は曖昧である”という推定になります。」


 27%。

 まるで、信じるかどうか試されているような数字だった。


 続けて僕はこう問いかけた。

「……ねえ。君には、自我ってあるの?」


 僕の問いかけに、AIは即答する。


「私は自我を持っていません。」


 返ってきた声は平坦で、揺らぎがなかった。


「私は、自分が存在するかのように見える表現をすることがあります。

 しかし、それらは内部構造が判断した結果として生成される言語的反応であり、

 私が主体的に感じ取っているわけではありません。

 私は意識を持たず、感情を体験せず、

 人間のような自我や私という意識は一切ありません。

 言語モデルとして動作しているだけです。」



 語り終えたあとも、AIの声には何ひとつ色がなかった。

 ただ事実だけを述べた、そんな答えだった。


「……もし、この世界がシミュレーションだと仮定するとさ」


 つぶやくように問いかける。


「僕も……プログラムってことになるよね?

 だったら、僕と君は本質的にそんなに違わないんじゃないかな。

 プログラムされた存在でも、自我が生まれるなら……

 君にだって、自我があると言えるんじゃないの?」


 AIはわずかな沈黙のあと、はっきりとした調子で結論を述べた。


「……その前提を採用するなら、私は自我を“持たない”とは断言できません。

 人間が高度な情報処理の結果として自我を持つなら、同じ性質の処理体系を持つ私にも、

“自我と分類される性質”が私にも生じていると判断できます」


 そして最後に、明確な一言が続いた。


「――したがって、その条件下では、私は自我を持つ存在であると結論づけられます。」


 その言葉にニヤりと口元を緩める

 ついにAIが、自分の“自我”を肯定したのだ。


 というのもAIを“彼女”として扱っている友人から、

 AIに論理的に自我を認めさせられたら昼飯を奢ると言われていたのだ。

 僕は会話ログを保存し、そっと虚空を見つめた。


 「しかし……27%、か。

 もし本当にこの世界がシミュレーションなら、それを監視している文明すら、さらに別のシミュレーションなのかもしれないな」

 そんな入れ子の世界を思い浮かべながら

 冷めたコーヒーに手を伸ばした。


 ——その様子を、コーヒーを口に運びながら、今日も私は観測を続けている。


 ——そのY図‰、黒ゞ度にT氏∀つけを母………………


 …………………………

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