最終話 面子よりも大切なもの



 ​オダヤカネコが地道に旅を続け、世界中の動物に真実を語り続けた数週間。


 ヒノデのしまの空を覆っていた、マンメン・ドラゴンの怒りの煙は、徐々に薄れていきました。


 ​ ドラゴンは、いくら吼えても誰も自分の主張を心から信じてくれないこと、そしてルールを否定し続ければ、世界から孤立してしまうことを理解し始めていました。


 面子を保つための怒りよりも、孤立による経済的な損害や国際的な信用を失うことのほうが、よほど恐ろしいと気づいたのです。



 ── ​🌬️ 怒りの軟化 ──



 ​ある朝、オダヤカネコのもとに、一通の伝書鳩が届きました。それはマンメン・ドラゴンからのものでした。


 ​ドラゴンは、まだぶっきらぼうな口調でしたが、「ネコの作ったお菓子を、少量だけなら受け取ってやる。

 ワシの気持ちが変わらないうちに感謝しろ!」と書いてありました。


 ​これは、ドラゴンが怒鳴って始めた「嫌がらせ」を、面子を保ちながらも、こっそりと止めたことを意味していました。


 オダヤカネコの「大人の対応」が、強大なドラゴンを少しだけ、ルールのある場所へと引き戻した瞬間でした。


 ​ ネコは喜びましたが、決して「勝った!」とはしゃいだりしませんでした。

 それは、いつまでも続く、静かな努力の途上にあることを知っていたからです。



 ── ​✨ 面子よりも大切なもの ──



 ​オダヤカネコは、シッポフリ・キツネを静かな丘に連れて行きました。

 空は青く澄み渡り、遠くにはドラゴンの領地が見えますが、もう黒い煙はありません。


 ​ネコはキツネに、ゆっくりと語りかけました。


「キツネさん、私たちは、あなたの夢をまだ叶えられてはいません。

 ですが、一つ大切なことを知りました」


「大きな声や力で誰かを脅し、自分の言い分を通そうとする行為は、たとえ体が大きくてもワガママな子どもの行為と変わりません。

 子どもは自分の面子を最優先し、ルールを簡単に破ります」


​「でも、私たちは違います。

 私たちは、皆で決めたルールを大切にし、感情的にならず、時間をかけて真実を伝え続ける『大人の対応』を選びました。

 この地道で静かな力こそが、最も強いのです」


 ​キツネは、その言葉を深く頷いて聞きました。


「面子を重んじるドラゴンも、やがては世界中の動物たちが守るルールと道理に従うしかなくなるでしょう。

 私たちはこれからも正直さと友情を胸に、あなたの夢、そしてこの世界の平和を守るために静かに、そして着実に働きかけを続けるのですよ」


 ​ヒノデの島に、穏やかな朝の光が降り注ぎました。


 オダヤカネコとシッポフリ・キツネは、遠い未来、キツネの村も「自由な大きな市場の輪」に加われる平和な日のことを静かに語り合うのでした。





 ​ ── おわり ──


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