あなたの最後の晩餐はなんですか
東井タカヒロ
最高の晩餐
今宵はどのような晩餐にいたしましょうか。
当店では、小麦粉から人肉まで何でも取り寄せおります。
お客様のご希望する最後の晩餐は何になさいますか?
薄暗く、蠟燭の小さな火が店内を淡く包み込む。
不気味と安心が混ざり合うその空間はどこか蜂蜜のような甘さがあった。
「ようこそお越しくださいました。当店では人生で最高の晩餐をご用意しております」
表も雰囲気が良く、酒に酔った勢いで入った店はどうにも高級店のようだった。
店内ではクラシックが優雅に響いていた。
「どうもすみません、こんな格好で」
「お客様、お気になさらないでください。本日はお客様1人の貸切ですから」
不思議な話だ。
豪華な装飾に、雰囲気が良く出ている高級店であろうに、俺1人に貸し切りとは?
思う所はあったが、俺は案内された。
「お客様、晩餐のメニューはどうなさいますか?」
俺はこういう高級店には中々こず、勝手が分からない。
とりあえずウエイターに聞いてみるか。
「メニュー表とかってないんですか?」
「当店では、お客様が注文される料理でしたら
どのようなもの、か。
数年前に閉店した居酒屋の賄い飯が食いたいな。
あの余った鰻と焼き鳥が合わさった丼は美味かったなぁ。
「数年前に閉店した居酒屋桜の賄い飯をお願いします」
「かしこまりました」
ウエイターはそう言うと、店の闇に消えていった。
しばらくすると、あの時食べた賄いと全く同じものが出てきた。
「ご注文の品でお間違いないでしょうか」
「え……えぇ」
困惑しながらも、もう一度食えると思うと、興奮が収まらない。
一口食べると、鰻の柔らかさと焼き鳥の肉厚が同じタレで絡まる。
白米がクッションとなって、旨味を合わせる。
気が付くと一杯を平らげていてしまった。
「あ、お会計を」
会計をしようとウエイターを呼ぶ。
「お客様、当店ではお代は頂いておりません」
「それはどうして?」
「お客様には最高の晩餐にしていただきたいのです」
俺は少しおかしいと思いつつ、席を立った。
もう食べられないと思っていた賄いが食べられて嬉しいが――。
「あ、あの」
「はい、なんでしょうか。お客様」
「また食べに来ても良いですか?」
「……えぇ、また来られるのでしたら、お待ちしております」
俺はこの店を後にした。
「……人生の最後に食べる晩餐とは、人により変わるものですね」
――本日未明に会社員の男性が交通事故により死亡しました。警察は――。
あなたの最後の晩餐はなんですか 東井タカヒロ @touitakahiro
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