”キス友”の幼馴染に激しいちゅーしちゃったら、あれ。なんか様子がおかしくない!?
白雪依
初めて。
「――はぁ……ちゅ……」
誰もいない教室で私たちの吐息と、ちゅーの水音が響く。
そして、彼女は私、神坂日向のことを押し倒すかのように机に押し付け、上に乗るような体勢になる。
まあ、決してえっちな感じじゃないんですけど。だけど、状況だけみればえっちなことだ。
「ん……那優……」
ちゅーのせいで上手く名前が呼べない。そして、名前を呼んだとたん、那優の様子が一変した。
那優は私の手を取り、指を絡め合う。
「え……ちょ、ん、ちゅ……」
「……静かに」
そう呟いてすぐに口づけを再開する。息を吸わせることなど、那優の頭にはないようだ。
まずい、頭が真っ白になってきた。それに息が――。
「……ぷは、はぁ……」
息が止まりそうなところで、ようやくお互いの唇が離れた。
何十秒ちゅーしてたんだろ。それにしても可愛い顔つきだ。
目の前にいるのは赤坂那優、私のクラスメイトであり幼馴染であり”キス友”だ。
「ん、はぁ……充電できた?」
「ああ、うん。ありがと……」
お互いの息がようやく落ち着いてきたタイミングで話し始めた。
すると那優はすぐに鞄を持ち始め、帰る準備をしている。それを見て私も慌てて帰る準備を始めた。
私たちはいわゆる、というか一般的ではないんだけど、キス友という関係をしている。
友、とついているから分かるかもしれないけど、お互いにそういう変な感情はないし、えっちな関係でも……多分ない。
あれはつい数週間前のことだったっけな。
*
あれはいつも通り、私たちが家で集まって遊んでいるとき。
那優はベッドに寝転がり、私は床に座ってゲームをしていた。
画面の中で私のキャラが派手に倒され、私はため息をつく。
「……はぁ、もうだめ。今日ツイてなさすぎ」
「珍しいね、日向がそんなこと言うの」
「だってさ、今日ほんとーに調子悪いんだよ! テストもミスったし、先生にも怒られるし……」
私はコントローラーを置いて、那優のベッドにばふっ、と倒れ込むと、白い天井だけが目に映る。
「なーんか、元気が出る魔法とかないかな……」
「魔法?」
「うん。なんかこう、気持ちがぱーって軽くなるやつ」
「そんな都合よくあればみんなやってるよ」
そう那優が苦笑したときだった。
ベッドに仰向けていた那優が、少しだけ身を起こし、真剣な目で私を見つめてきた。
「……ねえ。キスってさ、元気出るって聞いたことない?」
「……へ?」
思わず間抜けな声が出てしまった。そんな私を置いていくように、那優は話を続ける。
「恋人同士だと、キスすると落ち着くとか安心するとか……よく言うじゃん。私たち恋人じゃないけど……試してみたら効くかなって」
「いやいや、それ効くかどうかの問題じゃなくて……!」
「しないの?」
天井を見上げている私の視界に、那優が黒髪を揺らしながら逆さまになって現れた。
うぐ、そういうのはよくない。
私は顔が熱くなっていくのを感じ、目線を逸らす。
「別に、いいんだけどさ……」
「じゃあ、してあげよっか」
那優が小悪魔のような顔で私を見て、私の周りをぐるりと回って逆さまからしっかりとした向きで見えるようになった。
ほんと、学校のときとは全然違うな。
那優はツンデレ、というか二面性というのか。学校の時は静か系のおしとやかな雰囲気だ。
頭脳明晰、ピアノなどもできる多才さ。そんな評判からか、いつの間にか雲の上の存在なんて呼ばれるようになっていた。
まあ、中学の時は学校でも明るかったんだけど……、高校に入ってからいつの間にか静か系へと変身していた。
でも、私と一緒にいるときはこんな感じで普通に遊んでくれるしノリも良かったりする。
「どうするの?」
でもやっぱり少し距離があるというか、中学と比べてかなり暗くなってしまった。
その那優が私と。ち、ちゅーをしたいって、自ら言うなんて……信じられない。
「――おーい」
「ああ、ごめん。なに?」
「もー、結局キスするの?」
「えー……」
那優は私の顔のすぐ上に顔を持ってきている。この感じ、ガチだな。
那優がこんなに言ってくれてるんだし、一回くらい、してみてもいいかもな……。
「……わかったよ、一回だけお試ししてみよ……」
「……え、わ、わかった……」
「へ?」と那優は目を丸くさせた。この感じ、もしかして本当にやる流れだとは想像していなかった感じだ。
一瞬慌てたが那優が深呼吸をすると、ゆっくりと私の唇めがけて顔を近づかせてくる。
やばい、ほんとにするんだ。ちょっと待って心の準備が――。
「ちゅ……」
一瞬だった。
唇と唇が離れた瞬間、ちゅーの音が小さく聞こえた。
そして、顔を上げた那優がすぐにぷいっと顔を背ける。でもよく見たら耳が真っ赤になっている。
だけど、私はそんなことを指摘している余裕すら出ていなかった。というか出てこない。
数十秒の沈黙を破ったのは、那優だった。
「…………どう、だったのさ。元気になった?」
「へ!? ああ、うん。なんか初めてすぎてちょっと、あれだったけど。ちょっと気持ち軽くなったかも……」
そして、また沈黙。
お互い恥ずかしかったのだろう。そりゃあそうだ。
お互い異性と付き合ったことすら一度もないし、異性の友達すらいらないと誓いを交わしているほどの関係だ。
手つなぎなんて小学生のころにやったフォークダンスくらいしかない。
私たちも中学の頃はくっついていたけど、那優が静かになって私も距離を置くようになっていた。
「じゃあ、さ……」
「あ、うん……」
「那優たちこれからもキス……しない……?」
「え……ええええええええええーーーー!?」
私の声が部屋に響いた瞬間、那優はビクッと肩を震わせた。
私が叫んだすぐあと、那優はゆっくりと顔を背けた。いつもとは違って耳が赤い。
なのに、なぜか声はひどく落ち着いていた。
「別に、日向がしたいならだけど……」
「え、あ。え?」
私が状況を飲み込めずにあたふたとしてしまう。
待って、なんで那優がちゅーを誘ってきてるの!?
「むー、状況飲み込むの遅すぎ……」
「だって仕方ないじゃん! そんな、急にちゅーなんてしたら。そりゃあ思考止まっちゃうよ!?」
まともじゃないようでまともすぎる反論をしたところで、那優は小さく笑った。
「たしかにね。でも元気になれたんならしたほうがよくない?」
「まぁ、そうだけど…………んー! 逆に那優はいいの?」
「いいよ」
「即答!?」
私はその返答の速さに思わずツッコミを入れるほどだった。
そんな即答することでもないでしょ! と言おうとしたその時――。
「……べつに、日向とだから、いいだけ。内緒にしてくれるなら、いいよ……」
「わかった。内緒にします」
「今度は日向が即答!?」
いやだって! 高校に入ってからちょっと冷たかった那優が、私にこんなにデレてくれるなんて、そんな機会を逃すわけないでしょーーー!!
*
と、このような感じでキス友は始まり、今に至るわけです。
だけどこの時は知らなかった。このあと悲惨な出来事が起きることを。
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「カクヨムコンテスト11【短編】」応募作品です!
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今後とも私の百合小説をよろしくお願いします!
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