追放された最弱職、実は規格外でした

東井タカヒロ

「追放された最弱職、実は規格外でした」



プロローグ


「お前、クビな」


冒険者ギルド【蒼の剣】のリーダー、レオンハルトは冷たくそう言い放った。


俺――カイトは、言葉を失った。


「は?」


「聞こえなかったのか? お前はもう、このパーティには必要ない」


周りの仲間たちが、気まずそうに視線を逸らす。

幼馴染のリナも、魔法使いのゼンも、誰も俺の目を見ようとしない。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺、何か悪いことしたか?」


「悪い? いや、何もしてないよ」


レオンハルトは鼻で笑った。


「それが問題なんだ。お前、【調査士】だろ? そんな職業、戦闘じゃ何の役にも立たない」


調査士。

俺が15歳の成人の儀で授かった職業だ。


この世界では、成人の儀で必ず何かしらの職業を授かる。

戦士、魔法使い、盗賊、僧侶――そういった戦闘向きの職業が花形だ。


でも、俺に与えられたのは【調査士】。

モンスターの情報を調べたり、ダンジョンの地図を作ったりする、地味な補助職。


「確かに、最初のうちは役に立ったよ。でもな、俺たちももうBランク冒険者だ。お前みたいな足手まといを連れて行く余裕はない」


「そんな...」


5年間、ずっと一緒に冒険してきた仲間だった。

いや、仲間だと思っていた。


「これ、今月分の報酬な。多めに入れといてやったから、文句は言うなよ」


ずしり、と革袋が投げつけられる。


「じゃあな、カイト。お前なりに頑張れよ」


扉が閉まる。


俺は、ギルドの本部から追い出された。


---


## 第1章:調査


翌日。


俺は一人、初心者向けの【忘却の森】に来ていた。


小銭は尽きかけている。

新しいパーティを探すにしても、【調査士】なんて誰も欲しがらない。

なら、一人で稼ぐしかない。


「ゴブリンでも狩るか...」


森に入ると、すぐにゴブリンの群れが見えた。


3匹。初心者なら苦戦する数だが、俺は5年間Bランクパーティで鍛えられている。

剣の腕だけなら、そこらのCランク冒険者には負けない自信がある。


「【調査】」


習慣で、スキルを発動する。


調査士の基本スキル。

対象の情報を読み取る能力だ。


---


```

【ゴブリン】

種族:ゴブリン

レベル:3

HP:45/45

弱点:光属性、頭部への打撃

```


---


いつもと同じ情報が頭に流れ込んでくる。


「やっぱり、大した情報じゃ...ん?」


視界の端に、何かが映った。


ゴブリンの情報の下に、今まで見たことのない表示が浮かんでいる。


---


```

【スキル吸収可能】

対象スキル:なし

吸収実行:YES / NO

```


---


「...は?」


スキル吸収?

そんな機能、今まで一度も出たことがない。


「ま、まさか...」


震える指で、【YES】を選択する。


次の瞬間。


ゴブリンから、淡い光の糸が俺の体に流れ込んできた。


---


```

【スキル吸収完了】

吸収スキル:なし

経験値取得:+15

レベルアップ! Lv.12 → Lv.13

```


---


「経験値...?」


殴ってもいない。

魔法も撃っていない。


ただ【調査】しただけで、経験値が入った。


「おい、マジか...」


心臓が早鐘を打つ。


これって、もしかして。


「【調査】!」


残りの2匹のゴブリンに、続けてスキルを発動する。


---


```

【スキル吸収完了】×2

経験値取得:+15 / +15

レベルアップ! Lv.13 → Lv.14

```


---


「うそだろ...」


戦わずに、レベルが上がった。


いや、待て。

これ、もしかして今まで使えなかったわけじゃなくて、【対象が弱すぎて表示されなかった】だけか?


俺は5年間、Bランクパーティでずっと高レベルのモンスター相手に【調査】してた。

そのせいで、この機能に気づかなかった。


「じゃあ、もしかして――」


俺は森の奥に駆け出した。


---


## 第2章:覚醒


30分後。


---


```

【ステータス】

名前:カイト

職業:調査士

レベル:23(Lv.12 → Lv.23)

HP:340

MP:280

攻撃力:156

防御力:98

スキル:【調査Lv.4】【剣術Lv.2】【危機感知Lv.1】

```


---


「レベル、11も上がった...」


息を切らしながら、俺はステータス画面を見つめた。


ゴブリン、スライム、オーク。

森にいる初心者向けモンスターを片っ端から【調査】しまくった結果がこれだ。


「しかも、これ...」


スキル欄を見る。


【危機感知Lv.1】。


これ、さっき倒した――いや、調査したオークから吸収したスキルだ。


---


```

【危機感知Lv.1】

効果:敵意を向けられた際、自動的に察知する

```


---


「スキルも、吸収できる...?」


震える声で、そう呟いた。


つまり、俺の【調査】は。


戦わずに経験値を得て、相手のスキルまで奪い取れる。


「これ、もしかして...」


最弱職だと思われていた【調査士】。


でも、実際は――


「規格外、じゃないか?」


その瞬間、森の奥から地響きが聞こえた。


ずしん。ずしん。


木々が倒れる音。

明らかに、大型のモンスターだ。


普通なら逃げるべきだ。

でも、今の俺は違う。


「【調査】!」


姿が見える前に、スキルを発動する。


すると。


---


```

【フォレストタイラント】

種族:上位オーク

レベル:45

HP:3,200/3,200

弱点:火属性

保有スキル:【怪力Lv.3】【再生Lv.1】【戦闘狂化Lv.2】


【スキル吸収可能】

対象スキル:【怪力Lv.3】【再生Lv.1】【戦闘狂化Lv.2】

※警告:レベル差が大きいため、吸収時に反動ダメージの可能性

吸収実行:YES / NO

```


---


「レベル45...」


Bランクの中堅モンスターだ。

今の俺じゃ、まともに戦ったら確実に死ぬ。


でも。


「吸収、できる」


指が、震えた。


怖い。

反動ダメージって何だ。死ぬのか?


でも。


【怪力】【再生】【戦闘狂化】。

どれも強力なスキルだ。


「...やるしかない」


俺は、【YES】を選んだ。


次の瞬間。


全身に、激痛が走った。


「がっ...!」


体中の血管が焼けるように熱い。

骨が軋む。

視界が歪む。


でも、同時に。


力が、溢れてくる。


---


```

【スキル吸収完了】

吸収スキル:【怪力Lv.3】【再生Lv.1】

※【戦闘狂化Lv.2】は適性不一致のため吸収失敗

経験値取得:+850

レベルアップ! Lv.23 → Lv.31

HP:340 → 680

攻撃力:156 → 412


反動ダメージ:-120 HP

現在HP:220/680

```


---


「はぁ...はぁ...」


痛みが引いていく。


代わりに、体が軽い。


さっきまでとは、明らかに違う。


「これが...【怪力】...」


拳を握ると、空気が震えた。


目の前に、巨大なオークが姿を現す。


3メートルはある巨体。

凶暴な目。

手には、丸太のような棍棒。


「ガアアアアッ!」


咆哮と共に、棍棒が振り下ろされる。


今までの俺なら、避けるだけで精一杯だった。


でも。


「遅い」


俺は、棍棒を――素手で受け止めた。


ゴキィッ。


オークの目が、驚愕に見開かれる。


「俺、多分」


拳を引き絞る。


「もう、お前らより強いわ」


渾身の一撃。


オークの巨体が、5メートル吹き飛んだ。


---


## 第3章:気づき


その夜。


俺は安宿で、ベッドに寝転がっていた。


---


```

【ステータス】

名前:カイト

職業:調査士

レベル:31

HP:680

MP:420

攻撃力:412

防御力:198

スキル:【調査Lv.5】【剣術Lv.2】【危機感知Lv.1】【怪力Lv.3】【再生Lv.1】

```


---


「たった1日で、レベル19上がった...」


信じられない。


普通の冒険者が、レベル12から31まで上げるのに、半年はかかる。


それを、俺は1日でやってのけた。


「【調査士】って、こういう職業だったのか...」


今まで、誰も気づかなかった。


いや、もしかしたら気づいていた人もいたかもしれない。

でも、公表しなかった。


こんな規格外のスキル、知られたら間違いなく狙われる。


「レオンたち、見返してやる」


俺を追放した、【蒼の剣】。


今のレオンハルトのレベルは確か52。

パーティ全体でも、平均レベル48くらいだったはずだ。


「1ヶ月もあれば、追いつける」


いや、追い越せる。


【調査】さえあれば、俺はどこまでも強くなれる。


「...待ってろよ」


復讐とまでは言わない。


でも、見返したい。


「俺が、最弱なんかじゃないって証明してやる」


その時。


コンコン、とドアがノックされた。


「はい?」


「あの、カイトさんですか?」


聞き覚えのない、女性の声。


ドアを開けると、そこには――


フードを深く被った、小柄な人影が立っていた。


「私、あなたを探していました」


フードの奥から、金色の瞳が光る。


「【調査士】として、ではなく」


彼女はフードを下ろした。


長い銀髪。

整った顔立ち。

そして、額には――小さな、角。


「【魔族】として、です」


俺の心臓が、止まりそうになった。


魔族。


人間の敵。

千年前の大戦以来、人間と魔族は不可侵条約を結んでいるが、いつ破られてもおかしくない緊張関係が続いている。


「な、なんで魔族が...」


「落ち着いてください」


彼女は両手を上げて、敵意がないことを示した。


「私はあなたに、提案があって来たんです」


「提案...?」


「ええ」


彼女は、妖しく微笑んだ。


「あなたの【調査】、まだ本当の力を使いこなせていませんよね?」


「...!」


「私が、教えてあげます」


「なんで、お前が俺の力を...」


「なぜなら」


彼女の金色の瞳が、真っ直ぐに俺を見つめる。


「あなたはこれから、【世界を変える存在】になるからです」


「世界を、変える...?」


「ええ。あなたの力は、人間と魔族の関係すら変えうる」


そんな大げさな。


俺はただ、見返したいだけなのに。


「考える時間をあげます。でも――」


彼女は、部屋の窓を開けた。


「明日の夜、この街の北門で待っています。来るか来ないかは、あなた次第」


そう言い残して、彼女は窓から飛び降りた。


3階なのに。


「おい、待て...!」


窓から身を乗り出すが、彼女の姿はもうどこにもなかった。


「なんなんだよ、一体...」


部屋に戻ると、テーブルの上に何か置いてあった。


小さな、黒い石。


---


```

【魔石の欠片】

効果:不明

※【調査Lv.5】では詳細を読み取れません

```


---


「調査しても、わからない...?」


初めてだ。

【調査】で情報が得られなかったのは。


「この石、一体...」


そして、俺は気づいた。


この石を調査した時、新しい表示が出ていたことに。


---


```

【スキル成長条件検出】

現在スキルレベル:5

次レベル到達条件:未知の魔力に触れる(0/10)

```


---


「スキルにも、成長条件がある...?」


まだ、【調査】には隠された力がある。


「明日の夜、か...」


俺は、黒い石を握りしめた。


行くべきか。

行かざるべきか。


でも――心のどこかで、もう決めていた。


「もっと、強くなりたい」


追放されて。

見下されて。

最弱だと笑われて。


それでも、俺は――


「てっぺん、獲ってやる」


窓の外、満月が煌々と輝いていた。


---


## 次回予告


魔族の少女との出会い。

【調査】に隠された真の力。

そして、カイトを狙う影――


第2話「最弱職が最強である理由」


レベルアップは、まだ始まったばかり。


---


**【カイトのステータス】**

- レベル:31(12→31)

- 取得スキル数:5

- 倒した敵:0(すべて調査のみ)

- 所持金:銀貨82枚

- 謎の魔族少女:1人(目的不明)

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