サンタさん、ぼくは犬がほしいです
🌸春渡夏歩🐾
ペットショップに行く前に
もうすぐクリスマスがやって来ます。
お母さんはダイニングで座って、考えていました。
手にしているのは……?
手紙でしょうか。
『サンタさん、ボクは犬がほしいです。
よろしくおねがいします。 こうた』
ああ、サンタさんへプレゼントをお願いする手紙ですね。
「ただいまぁ。今日は冷えるね」
お父さんが帰ってきました。
「お帰りなさい。お疲れ様。寒かったでしょう。今日はおでんにしたのよ」
「お、嬉しいね。幸太は? もう、寝たのかな」
「うん。さっきまで起きてたんだけどね」
「最近、アイツが起きてるうちに帰れてないなぁ」
年末に向けて、お父さんは仕事が忙しいようです。
◇
「ねぇ、これ。どう思う?」
お母さんは、手紙をお父さんに見せました。
「ん? クリスマスプレゼントに、犬……かぁ。次の休みにでも、ペットショップに見に行ってみる?」
お母さんはその言葉に、驚いた様子です。
「えっ? 待って。ペットショップに行って『このコを下さい』って、買ってくるの?」
「幸太の気に入った仔犬がいたら、それでいいんじゃない?」
「犬と暮らすって、そんなに簡単な事じゃないのよ」
犬を飼ったことのないお父さんは、何がいけないのか、わからないようです。
「ああ、君の実家では前に犬を飼ってたよね」
「ええ。ね、よく考えて。誰が犬のお世話をするの?」
「そりゃあ、家族みんなで、だろう」
「ウチはふたりとも働いているから、昼間は留守でしょ。毎日のお散歩は、幸太ひとりではまだ無理よ。
今はいいけど、これからあの子だって習い事や塾や部活で忙しくなるかもしれないし。犬を飼ったら、15年くらい一緒に暮らすことになるんだから」
「そうだなぁ……。でも、僕も犬と暮らすのは夢だよ。みんなで一緒にキャンプに行けたら、楽しいよね」
アウトドアが好きなお父さんです。
「私だって、犬は好きよ。幸太には、生命を大切にできる人になって欲しいと思う。犬を欲しいと思った気持ちを聞いてみるね」
◇
幸太くんのお友達の家には、かわいらしいトイプードルがいました。お手、おいで、待て、お座り、伏せ……とてもお利口です。
話を聞いてみると、お友達のお母さんは専業主婦で、大きなお兄さんやお姉さんもいます。
「ねぇ、幸ちゃん。ウチは昼間は誰もいないでしょう。ワンちゃんはずっとひとりでお留守番して、寂しかったり、つまらないと思ったりしないかな?」
「う〜ん。でも、僕は自分の犬が僕のあとを走ってついてきて、いつも一緒に遊べたらいいなって思ったんだ」
ひとりっ子の幸太くんは、犬と一緒に遊んで、とても楽しかったのです。
犬を迎えるには
最近では少ないですが、犬を拾ったり、もらったり、
ペットショップだけでなく、特定の犬種を育てているブリーダーから、
そのほか保護犬の里親になるという選択もあります。
お母さんは、家族みんなで「動物愛護センター」を訪問してみようと考えました。
◇
動物愛護センターには、飼い主のいない保護された犬達がたくさんいます。
迷子になったまま、お迎えが来ない犬達。
飼い主が高齢になって、お世話できなくなった犬達。
多頭飼育で増え過ぎて、劣悪な飼育環境から、レスキューされた犬達。
野犬として過酷な環境で暮らしてきた犬達。
飽きたから、言うことをきかないから、犬が歳をとって病気になったから、引越しするから、結婚するから、アレルギーの家族がいるから……。
さまざまな理由で、もう要らないと捨てられた犬達がいます。
動物愛護センターには、仔犬もいます。かわいい仔犬が欲しいという人は多いのですが、成犬の譲渡はなかなか進みません。
大人の犬は
「犬を飼おうと思う皆さんへ」という初心者向けの講座があり、参加することにしました。
***
犬は生き物です。
ウンチもオシッコもします。ゲーすることもあります。
部屋が汚れたり、物を壊されたりもします。
毎日、お散歩が必要です。
休みの日でも朝寝坊したり、出かけても夜遅く家に帰ることはできなくなります。
犬は病気になったり、怪我することもあります。
毎年、病院に行って、予防接種などが必要です。シャンプーや定期的なトリミング必須の犬種もあります。
お金がかかります。
猛暑の夏は犬達のために冷房が必要です。
犬をお世話する時間と手間をとられます。
一緒に遊んで、声をかけて、撫でて、可愛いがって……大好きになった大切な犬達は、どんなに頑張っても、人間より早く歳をとってしまいます。
別れがきて、見送らなくてはいけないのです。
私達にできるのは、
最後まで、生命に責任を持つこと。
クリスマスプレゼントに犬を選ぶ前に、
どうか今一度、立ち止まってよく考えてみてください。
犬と暮らすのは、素敵なことです。
犬と暮らさないと決めるのも、大事なことです。
あなたが生命を大切にできる人でありますように。
***
さて、幸太くんは、どうしたでしょうか。
「僕ねぇ、サンタさんへのお願いを変えようと思うんだけど、まだ間に合うかなぁ」
「きっと、大丈夫よ」
幸太くんは、もっと大きくなってお世話ができるようになるまで、犬を飼うのは待つことにしたそうです。
代わりに、今年のプレゼントには、ペットロボットをお願いすることにしました。モフモフしたシッポが動き、抱くと温かい……最近のペットロボットは進化していますね。
幸太くんが、いつか犬と暮らす日が来たら素敵です。
メリークリスマス!
全ての生命あるものが幸せでありますように。
サンタさん、ぼくは犬がほしいです 🌸春渡夏歩🐾 @harutonaho
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