晴れの日でもいいよ

西野 夏葉

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 帰りのホームルーム前から降り出した雨は、掃除が終わっても降り続く。周りの同級生たちはみな忌々しげに空を眺めていたが、あたしは内心で確かに雨模様を喜んでいた。

 雨の音が「落ち着く音」としてYouTubeにアップされる世界。いちいちスマホを開かなければ落ち着けない世界って、一体どういうことなのだろう。そう思いこそすれ、窓の外から間断なく聞こえてくる雨音に耳を傾けてみると、少しだけ救われたような心地がするから不思議だった。


 椅子から少し腰を浮かせて、窓の外を覗いてみる。あたしがいる図書室の真下には生徒玄関があるから、そこで傘がふわりと咲いて、雨の下へふらふら漂ってゆくのがよく見えた。一人で傘に護られている生徒もいれば、仲よさげに相合い傘をする男女まで様々だ。時々女の子同士でひとつの傘におさまる様子も見えるが、男子はいっそ開き直って、バカ笑いをしながら全員で雨に打たれながらダッシュするほうが多数派らしい。


 あたしはまだ直接的に雨に降られたわけでもないのに、髪や制服に指を這わせると、どこか湿ったような感触があった。何もかもどうでもよくなったらいっそ全身濡れそぼってみてもいいのかもしれないが、まだ今のあたしにそこまで振り切れる自信はない。大半のことはどうでもよくなっているけれど、最後に小指の先ほど残った理性が、あたしが全てを手放さないように、諦めさせないようにと邪魔をしてくる。



 どうせずぶ濡れになって帰ったところで、誰もあたしの心配なんかしないのに。

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