出戻りマーメイド
未羊
第1話 私、マーメイドプリンセス
ここは異世界のどこかの海の中。
岩場に囲まれたそこに、私たちマーメイド族たちの住む場所がある。
護りの魔法に囲まれたその場所は、マーメイド族の楽園。そこで私も暮らしている。
異世界に転生していることに気が付いたのは、五歳の時だったかな。
調子に乗って泳いでいる時に、思い切り岩にぶつかったらしい。大きなこぶができたくらいで無傷だったっていうから、私はとても頑丈みたい。
今の私はマーメイド族のプリンセスで、名前はマイ。前世での名前が
前世の最期はよく覚えている。
海岸を歩いている時に、突風と高波にさらわれてそのままという、実に呆気ないものだった。
えっ、なんで海岸を歩いていたかって?
だって、そこ、私の通学路なんだもん。海岸線に沿って道路があるし、その時に私が歩いていたのは海岸線側。しょうがない話だと思う。
はあ、華の高校二年生だったのに、青春真っ盛りで死んじゃうとは思わなかったな。
でも、今世はマーメイド族のプリンセスだもん。これなら生活はきっと安泰だと思う。
マーメイド族のプリンセスに転生した私は、今は十二歳。
今はお城の中でのんびりと過ごしている。両親が過保護気味なのか、ちょっと退屈で仕方がない。
「姫様、本日はいかがなさいますか?」
「う~ん、どうしようかな」
メイドたちがやって来て、私に質問してくる。
普段はお勉強ばかりなので、ずっとお城の中。私は出かけたい気持ちが溜まっていたので、ここぞとばかりに答える。
「私、ちょっとお散歩に行きたい!」
まだ十二歳だからわがまま言ってもいいよね。
城の中だけじゃつまらないからと、思い切って外に出ていきたいと訴える。
だけど、メイドたちはものすごく困った顔をしている。どうするかって聞いてきたから答えたのに、こういう態度を取られるとさすがにイライラしてくるというもの。
なので、まだ子どもということを利用して、私は思い切りだだをこねてみる。
「いーやーだっ! お外に行きたい行きたい、いーきーたーいーっ!」
食らえっ、子どもの特権を!
ただ、マーメイド族ゆえに下半身はお魚。なので、腕をバタバタさせるだけの実に可愛い行動になっちゃっている。なんとも決まらない感じだった。
だけど、メイドたちはとても困ったような顔をして私の方を見ている。
「しょうがないですね。姫様がそこまで仰られるのでしたら、護衛をつけた上で近くまでお出かけすることとしましょう」
メイドたちは私の駄々こね作戦に屈したようだった。やったね。
すぐさま私は出かけるための準備を整え、お城から外へと出ていく。
マーメイドっていう言葉の響きからすると不思議かも知れないけれど、当然ながら男性だって存在している。そうじゃないと一族が存在しないもの。
護衛には、男女のマーメイドがかなりの人数ついてきている。さすがにお姫様の護衛ともなればけた違いだった。小さい頃に調子に乗って岩に激突したことがあるからね。それだけ心配ということなんだと思う。
でも、今回も防壁内の移動だから、危険はないと思うだけどね。
そうやってやって来たのは、防壁内のちょっと高くなっているところ。マーメイド族の泳ぎなら、高低差があってもまったく問題はない。
海面から差し込んでくる光に当たっているそこは、懐中には珍しい花の咲く場所になっている。地上に咲くような花が咲いているので、ある意味奇跡の丘だと思う。
ところが、ここに来たことがどうやら間違いだったらしい。
私が花を見ながら遊んでいると、何かに気が付いた護衛やメイドたちが叫び始める。
「姫様、すぐにこちらに来て下さい!」
「えっ?」
メイドたちの声に、私はくるりと振り向く。その振り向いた先で、私は信じられないものを見てしまう。
「えっ、なにこれっ!?」
目の前にはものすごい勢いの水流が近付いてきていた。
ここはマーメイド族の防壁の中なのに、なんでこんなことが起きているのだろうか。信じられない光景に、私はまったく動けなくなってしまっていた。
「姫様! 今、お助けに参ります!」
護衛の一人が私を助けるために近付こうとする。
ところが、私に迫る水流から一筋の何かが飛び出す。
「かはっ!」
その何かに弾かれて、私を助けようとした護衛は吹き飛ばされてしまう。
「ひ、姫さ、ま……」
口から血を流して、私の方をじっと見ている。
他の護衛も続けとばかりに出てくるものの、同じようにみんな弾かれていってしまう。
私も逃げなきゃと思うも、じわじわと水流の方へと引き寄せられ始めていた。
「えっ、なにこれ。何が一体、どうなってるのよ!」
私はじわじわ水流へと引き込まれていってしまう。
「きゃああっ!!」
どうに踏ん張っていたものの、私はついに水流へと飲み込まれてしまう。
(く、苦しい……)
私は水流の中でもがくものの、あまりの強さに段々と息が苦しくなっていく。私、また死んでしまうのかしら。
絶望に飲まれながら、私はそのまま意識を失ってしまったのだった。
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