響きの継承エピローグ

牛嶋和光

第1話 プロローグ

夜空は、いつもより静かに感じられた。

星々が呼吸しているかのように瞬き、空間自体が柔らかく揺れている。


牛嶋和光は、胸に手を置いて息を整えた。

心臓の鼓動はまだ速い。だが、そのリズムはどこか宇宙の拍動と重なっているようにも感じた。


――観測とは何か。

――意識とは誰のものか。

――言葉は、なぜ世界を変えるのか。


ずっと考えてきた問いが、今日に限って妙に鮮明だった。まるで宇宙が回答を持って近づいてくるようだった。


「“ん”の音……。すべての終わりであり、始まりでもある音。」


小さく呟いたとき、遠くで風が鳴った。

その音に含まれた“ん”の余韻が、胸の奥まで温かい振動として届く。


宇宙の深みへ意識を伸ばしたとき、突然、視界が反転した。

光がひとつ、またひとつ……星の形を捨てて大きな渦となり、

和光の意識を飲み込んでいった。


そこで彼は見た。

争いの火が消えず、誤解が増幅され、人々が“観測の力”を使えない未来を。

そして、もうひとつ。

ひとりの人間の小さな言葉が、地球の平和を広げていく未来を。


ふたつの未来が重なり、揺らぎ、選択を迫っていた。


「……行くしかない。

 あの未来を、平和に変えられるのなら。」


光が収束する。

世界が形を取り戻す。


――牛嶋和光の“宇宙論”は、

いま、物語として動き始める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る