マッスル・ウォーズ! 〜筋肉・魔法・ゴーレムが全部バカみたいに頑張る街〜
eternalsnow
第1話
力こそがすべて。
それが心情の街、筋肉都市バルクード。
ありとあらゆる、力を試し、人々は争いを続けている。
……まあ、大体は力比べで、腕相撲ばかりですが。
「……なぜ人間は争うのでしょうか?」
「……互いに、譲れないモノがあるのさ」
頭や腕に管をつけられ、女性の顔を貼り付けられているような金属の塊。
人工筋肉という、ゴーレムコアからの指令で動くように調整されたゴーレムの一種。
彼女の名は、power.no1。通称パワコ。
パワコは、その言葉を聞きながら、透明なのに粘度だけ高い液体を飲み込む音を立てた。
味を感じないが、これはただのプロテインである。
「一番必要なのは、ここさ」
頭を指さしながら、肥大させた筋肉を見せつける男。
筋肉の繊維に繊細な強化魔術を施し、
筋肉密度を向上させ続けている。
彼の名は、ルディウス。
ルディウスもまた、謎の液体を煽る。
これも、プロテインである。
「ふんふんふん!!」
あるモノは、自らの基礎筋力を高めることこそ最強! として、
高たんぱくな食事を取り、ウエイトトレーニングを繰り返す。
彼の名は、マルセル。
「トレーニングの後はこれよ!」
もちろん、プロテインである。
彼らは間近に控えた、1年に一度の力の祭典のため、努力を重ねてきた。
力の祭典――別名、筋肉祭まで、あと三日。
街中が熱気に包まれ、あちこちから歓声と筋肉の悲鳴が聞こえていた。
その有力候補は、彼ら3人であるというのは共通認識のようだ。
――ただし、努力の方向性は、それぞれちょっとだけ間違っている。
“すべての力を統合した者”が一番強い。
3人はそれを理解しているため、いがみ合っているわけではない。
ただ、お互いの努力で生み出した“自分の力こそ最強”だと、どこかで信じているだけだ。
その分、努力の比重が偏ってはいるが、他のものとは密度が違った。
それだけの話だ。
「今回は、荒れるな」
領主様が頬杖をついて、意味深……のつもりらしい表情で語る。
彼女はただ、鍛えられた美しい筋肉を見たいだけの変態である。
その表情は緩み切っている。
……彼女の肉体は、最も強力で最も絞り込まれた芸術作品でもある。
筋肉を愛する彼女にとって、自らの筋肉は最高の作品でなくてはならないという自負もある。
「ん? セバスチャン。何か言いたいことでもあるのか?」
「いえ、なにも?」
彼女は鋭い。私はにべもなく答えた。
「自分の体を見ているだけでは、興奮しない」と言われた私の気持ちを彼女はどう考えているのだろうか?
後二日に迫った、筋肉祭。
街の広場で見せつけるように、お互いをにらみ合うように、
マルセルとルディウスは競っていた。
「Yes.マッソォオオ!!」
自分の3倍もある大岩を上腕を振るわせながら持ち上げるマルセル。
「はぁああ!!」
虹色に輝きながら、同じく3倍はある大岩を持ち上げ、汗を滝のようにながすルディウス。
……領主様は嬉々として二人を見入っている。妖艶な笑みが気色悪い。
それを、紙袋の中にあるプロテインを持ちながら、パワコは見ていた。
そして、足早に彼女は研究所に駆けて行った。
「やはり、私もやるべきなのでしょうか……」
漏れ聞こえた声に、いつもより流暢でかぼそかった。
「マスター……ご相談があります」
「珍しいな。どうした、パワコ」
パワコのメインボディであるゴーレムの肉体。
人工筋肉を培養し、緑色のプロテインの液体に漬け込まれた体はコポコポと歓喜の歌を奏でている。
ちなみに、今のパワコはサブボディ。外見は普通の10代前半の美少女である。
「マルセルさんとルディウスさんは……努力を続けています。
私は……その……人工筋肉、です。
培養液に使っているだけで、その……
――筋トレは、必要でしょうか?」
マスターは、ふむと声を漏らし、数秒思考の後。
「……いや、必要はないだろう」
首を横に振り、パワコに目を合わせて答えた。
「……では、魔法を習ったほうがいいでしょうか?」
「いや、それも必要ないよ」
肩をすくめるマスターの姿に、少しむっとした表情を浮かべたパワコ。
「ですが……皆さんは、強くなるために動き続けています。
私は……研究所でマスターに調整されているだけで……
これで、本当に“努力”と言えるのでしょうか?」
マスターは少し考え、パワコの胸のあたりを軽く叩いた。
「マスター、セクハラです」
「パワコ、人工筋肉にとって重要なのは、
適切な動きを繰り返し、維持することだ。
何もしてないなんてことは決してないよ。
まぁ、オリハルコンでもあれば、もっと飛躍的に強化することは可能かもしれないが、さすがに難しいだろう。
……サブボディの丁寧な動きを、このメインボディで動かすことができれば、
万夫不当の豪傑だよ」
パワコは数秒沈黙し――小さくうなずく。
「……努力、とは……種族ごとに違うのですね」
「そういうことだ」
そしてパワコは、紙袋から謎の粘度高い液体を取り出す。
「……マスター」
「ん?」
「――プロテインは、必要ですか?」
「……まあ、それは飲んでもいいよ。
高たんぱく高品質なプロテインなら、人工筋肉も喜ぶだろう」
「了解しました」
パワコは嬉しそうに、また謎の液体の容器を抱えて飲み干した。
「あと、うやむやにはさせません。殴ります」
「え、ちょっと待って。うぼぁあ!!?」
筋肉祭まで、後二日。
マルセルは悩んでいた。
「ダメだ、伸び悩んでいる」
「……筋トレとは種まきだといつも言っていただろう?」
ぽつりとこぼれた言葉を、近くでストレッチしていたルディウスが拾う。
何をいまさらと少し呆れた表情を浮かべている。
「わかっている。だが、魔力に素養のない俺はこれしか知らん」
「……私も使えませんが?」
「逆にゴーレムに魔法素養があるなんて話は聞いたことがないが、
あのマスターならやりかねんか……」
悩みの底で、マルセルの思考はそれていく。
それを苦笑しながら、ルディウスは頷く。
「で? 今から魔法筋肉に置き換えるのかい?
それはキミの筋肉に失礼ではないかい?」
「何?」
腕を組んで虹色の輝きがなくなったルディウス。
「マルセル。
君は誤解している」
「誤解?」
頭に?を浮かべて、彼はオウム返しに応える。
同時に、パワコの上には?の雲が物理的に浮かんでいる。
「その筋トレは、“ただ”ではない。
――君にしかできない努力の結晶だ。
適切な運動に、適切な休憩、そして丁寧なプロテインの接種の果てにできた芸術だ。
僕にはその筋肉を真似する事も、否定することもできないよ。
羨ましいなんて、何度思ったことか分からない」
「俺だけ特別なことしてないんじゃないか……?」
自分の体の3倍以上の大岩を降ろしながら、彼はつぶやくようにか細い声を上げた。
それを持ち上げていること自体が、特別な事なのだが?
「では、マルセルさんも培養液に浸かりますか?」
「浸かんねえよ!!」
「いや、ありかもしれない」
「やめろ!? 何の実験台にする気だ!?」
案外、この3人は仲良しである。
筋肉祭、当日。
筋肉都市バルクードは熱気に包まれた。
暑苦しい、筋肉たちのパレードが行われ、金色の筋肉の銅像が筋肉たちによって町中を引き回される。
カオスである。
筋肉の賛歌に包まれ、3人と他の参加者たちが決勝戦に気を引き締める。
なお、予選は腕相撲で、何人かは回復魔術をもらう一幕もあった。
……腕が折れるのはある意味で日常風景である
「おお、さすがの顔ぶれ。
やはり、いい。筋肉は最高じゃのう」
「領主様」
領主さまの興奮も最高潮に達しようとしている。
参加者の前に、莫大な金属が運び込まれる。
「決勝戦は、その金属を破壊すること。
不壊の力を持つという、神々の金属、オリハルコン。
これをいかな手段を用いてもよい。
破壊せよ。これが決勝戦じゃ。
……このようにな!」
すっと領主様はオリハルコンのインゴットを握りつぶし、手形がしっかりと残った。
数秒後、みるみる内にオリハルコンは元に戻っていく。
「ぐぉおおおおおおおお!!!!!」
マルセルが力を込める。
筋肉からの悲鳴の後、ゴキっと鈍い音がした。
「がぁああああああ!!」
ルディウスも魔力を込める。
魔力の虹の輝きは、一気に放たれるが、指があらぬ方向へと曲がった。
「えっと……?」
パワコが力を込める。
だが、オリハルコンはびくともしなかった。
他の参加者も同様だった。
オリハルコン。
かの不壊属性を貫いたものは、領主様しかいなかった。
……「優勝者、領主様に決定!」
高らかに宣言し、隣の領主様の手を挙げた。
「おおおおおお!!?」
民衆は雄たけびを上げ、領主さまの名前を連呼し続ける。
「「「「ちがうだろぉおおおお!!!!!」」」」
マルセル、ルディウス、マスター、領主様の叫びが響き渡った。
……その影で、彼らに力を加えられたオリハルコンは、ピシっと音をたてていた。
その亀裂を見て、さらに歓声が強まった。
カオスである。
「これを取りこめば、私はもっと強くなれるかな?」
ニコニコと笑顔でオリハルコンにプロテインをかけて頬張るパワコだった。
マッスル・ウォーズ! 〜筋肉・魔法・ゴーレムが全部バカみたいに頑張る街〜 eternalsnow @523516
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