第2話 おとぎ話

 王都の住宅街の一角にあるおじいちゃんの家、ここが今住んでいる私の住処だ。

家に着いた私は荷物を置いて、早速おじいちゃんを問い詰めた。


「おじいちゃん、あの子、体中に傷があったよ! あの子、塔に住んでるんでしょ? 色白だし外にも出てないんでしょ? どうしてあんなに傷ができるの?」


 スーツの上着をハンガーにかけながら黙っているおじいちゃんに、さらにまくし立てた。


「そもそも変だよ、あんなに古臭い塔に住んでるなんて。あんなところに一人で住んでるのに、エメラルド集めが趣味って、お金があるんだかないんだかわかんないよ!」

「だから、訳ありの患者だと言っただろう」


 おじいちゃんはため息をついて、椅子に腰かけた。


「お前には秘密にしておくつもりだったが、仕方がない。この機会に話してもいいだろう」


 神妙な面持ちになるおじいちゃんに、私は興奮を抑えて、ダイニングチェアに座った。


「リーノ、これから話すことは絶対に誰にも話してはいけないよ」


 そんな言葉に私は緊張し、ごくりと唾を飲んだ。



「あの子は神の子だ。王国の抱える秘密なんだよ。このコズ王国が貧しい土地から商業で栄えたのは知っているな? 歴史は巧妙に隠しているが、その利益の大半はエメラルドを売った金だ。だが、宝石は鉱山で発掘されているんじゃない。あの少年が生み出しているんだよ。あの子の涙がエメラルドの粒になる。これまでこの国は、神の子、エメラルド族によって、国を大きくしてきたんだ」


 おじいちゃんの話は現実にしてはあまりにも壮大で、嘘みたいで、頭がついていかなかった。


「エメラルド族? 何それ? 涙が宝石になる? そんなの何かのおとぎ話でしょう?」

「おとぎ話か。そうなら良かったのにな」


おじいちゃんは大きく息を吸って、混乱する私をまっすぐと見つめた。


「リーノよ、あの子のことが気になるか?」

「気になるっていうか、心配だよ。医者の卵として、あんな傷だらけの子、放っておけない」


 私はぐちゃぐちゃの頭を整理しながら言った。

おとぎ話かどうかなんてどうでもいい。

傷だらけのあの子を、なんとかして救いたい。

だって私はまだ見習いだとしても、一人の医者なのだから。


「そうか。あの子にも話し相手が必要だ。リーノ、次の診察もついてきなさい」


 おじいちゃんはそれだけ言い残し、医療道具の整理を始めた。

私はしばらく椅子で今日会った少年のエメラルドの瞳を思い返して、ぼうっとしていた。

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