こっくりさんは怖い【短編】

神崎ばおすけ

こっくりさんは怖い


 放課後の教室。

 夕日が赤く照らす教室の中には、四人の男女の生徒がいた。


 「こっくりさん、こっくりさん、おいでください」


 生徒の中の一人、眼鏡を掛けたショートカットの女子生徒が声を上げる。

 生徒たちが囲む机の上には一枚の紙。

 鳥居、五十音、はい・いいえと書かれたその紙の上で、生徒たちは各々の人差し指を一枚の十円玉の上に乗せている。


 「えーと、これもう来てるのかな? まあいいや、私からね。こっくりさん、こっくりさん、私の無くしたイヤリングはどこにありますか?」


 長い黒髪を背中の中ほどまで伸ばしたもう一人の女子生徒が問いかける。

 ……が、十円玉はピクリとも動かない。


 「……おい、誰か動かせよ。こういうのってホントに動くわけじゃねえんだから誰かしら動かさねえと成立しねえだろ」


 「まあまあ、そんな夢の無いこと言わないで。もしかしたらまだ降りてきてないのかもよ?」


 女子生徒の対面に座る男子生徒が口を開く。


 「え~? じゃあもっかい最初からやるね? ん~と、こっくりさん、こっくりさん――」


 その時、四人の傍に一人の女がどこからともなく現れる。

 夕日に照らされているにも関わらず、非常識に青白い肌をしたトレンチコートのその女は、ぼさぼさの髪の隙間から生徒たちを覗き、ゆっくりとした動きでその人差し指を十円玉の上に置いた。

 生徒たちはその女が見えているのかいないのか、誰も気付いた素振りはみせない。


 「じゃあ、こっくりさん、こっくりさん。三浦さんは僕のことが好きですか?」


 生徒たちの間で少しのどよめきが起こり、質問をした男子生徒は紅潮したその顔を夕日の赤さで誤魔化している。

 その時、教室の天井から狐面を付けた男とも女とも取れない狩衣のような服装の人物がゆっくりと降りてくる。

 その狐面は、青白い顔をした女を見ると、一瞬ぎょっとして、恐る恐る十円玉の上に人差し指を置く。


 「お、動いた! えーと? “き、ら、い、で、は、な、い”。ん~、脈無しじゃね?」


 質問をした男子生徒はがっくりと項垂れる。


 「今動かしたの誰だ~? 言っとくけど俺じゃないからな?」


 もう一人の男子生徒がニヤニヤしながら女子生徒を見渡す。

 それと同時に、青白い顔の女が口を開く。


 「ワ、タシヲ。コロ、シタオトコ、ハ、ドコニ、イル?」


 女は狐面を正面に睨みつけながら質問をする。


 「お? おい、何も質問してないのに動き出したぞ? “し、せ、い、ざ、ん、の、ふ、も、と”。……なんだこりゃ?」


 女子生徒二人は既に恐怖していた。

 言うまでもなく、目の前で起きている怪奇現象に。

 そして狐面も恐怖していた。

 その証拠に、狐面の隙間からは汗が流れ落ち、指を乗せた十円玉は小刻みに震えていた。


 「ソノオトコ、ノ、オン、ナ、モ、ソコニ、イルカ?」


 再び女が質問をし、十円玉が動き出す。


 「“はい”……。おい、誰が動かしてんだよ。適当に動かしても意味ねえだろ」


 その回答を聞き遂げると、女はスッと消えていなくなった。


 「あっ! ダメだって、まだ指放しちゃ! 終わらせる儀式しないと!」


 「バカバカしい、やってられっか。帰るわ」


 男子生徒の一人がそのまま鞄を担ぎ、教室を出ていく。

 狐面はそれを気にも留めず、そのまま顔を上げ大きく深呼吸をして、現れた時と同じように教室の天井へと消えていく。

 教室には夕日に照らされ呆然とした三人の生徒が残された。

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