第3話


 結局、あれから原宿で放課後デートしたよ。おかしいな――さすがにそろそろ私を呼び出した用事の一つぐらい言うと思ったのに、全然言わないんだよ。


 途中から私たちを付けていた人たちもラブラブな私たちを見て、配慮してくれていなくなったっていうのに、本当にデートだけで終わっちゃうよ。


 待って、もしかして自分からだと言いづらいことなのかもしれない。もしそうなら――そうだよ、私から声を掛けてあげよう。


 恋愛リアリティーショーなかだけの『ウソ』の恋人だとしても、私たちはもう共に竹下通りを歩んできた仲なんだし、あの甘いクレープも吐きそうになりながら食べた私なんだ、今ならどんな状況でも飲み込めるよ。

 キャットストリートを歩いてる最中に私は朱南しゅなの手を引いて、人通りの少ない横道に連れていった。



黄央きおちゃんどうしたの? 行きたいお店でもあった?」

「ここなら人も大丈夫そうかな」私は彼女と対面して、不安にならないように手を握ってあげた「朱南さん、今日は大切な……じゃないか。私に伝えたいことがあるんだよね?」

「……大切な? 伝えたい……こと……」

「心配しないで、私がしっかり受け止めてあげる。ちゃんと任せてよ、準備はできてるよ」



 ここで私が弱気になったら、朱南も言いたいことを言いづらくなっちゃうだろうし、不安にならないように堂々としないと。

 私の言葉に朱南はキョロキョロと周りを見て、目を細めて考えるそぶりを見せ「そうだったんだ……」と朱南は小さく呟いたあと、細めていた目も今まで通りに丸くして私を見た。



「じゃあ、言うね」



 どんな話であっても、彼女の期待に応えよう――恋愛リアリティーショーはもう終わり。これからは『ウソ』のない関係を築こう、私たちはふたりで演技しあった仲だから通じ合えるよ。

 朱南は緩く口を結んで、それからその口を解いた。



「朱南も同じ気持ちだよ。恋愛リアリティーショーのウソだけじゃなくて、黄央ちゃんのこと本当に好き。ありがとうね、本当の気持ち伝える場所まで用意してくれて」



 うん、ちょっと何言ってるかわからなかったよ。『朱南も同じ気持ち……?』、まるで私が朱南のこと好きみたいな言い方を……。


 この時、思っちゃったよ――もしかして朱南は本当に私のことが好きなんじゃないかってことに。


 今まで連絡がなくて今日呼んだのも、番組の結果が世間に出るまでの我慢で。

 撮影中ぎこちなくて、今日は生き生きとしてたのも、私に対しての本当の好きを『ウソ』にしてしまったある種の罪悪感で。

 そして私はいままさに、朱南が演技をしてると思い込んでて、それに呼応した形で彼女に甘々恋人ムーブをしてしまい、現実で恋愛リアリティーショーをやっちゃったってこと!?


 朱南は少し上向いた顔で私を見てる。さっきまでの行動が『ウソ』の演技だよ、なんて言えないよ。

 いまが映像の中じゃないにしても、ヒーローは期待を裏切っちゃダメだと思う。私は役者で、私はいま朱南のヒーローでもある。


 だから、私は『ウソ』をつくよ。意図のない世界で、台本のない役者をやるよ。私は間を置いて――朱南に語り掛けた。



「よかった、朱南さんも私と同じ気持ちで。好きだよ、本当に」私は一息おいて聞いた「キスしていい?」

「――いいよ、キスして」



 私は朱南に顔を近づけていって静かにキスをした。終わったと思っていたあの恋愛リアリティーショーは――今もまだ続いてる。



   ◇



 ――中土黄央なかつちきおと別れたあと、火雀朱南ほじゃくしゅなは部屋でスマホをいじっていた。



「番組がウケたから、フォロワー増やすチャンスだと思って黄央ちゃん誘って、わざわざ女同士で付き合ってますよアピールしてたのに……」


 スマホの画面を消し、胸に置いた。


「朱南のこと本当に好きだなんて……バカじゃないの。しかもあんなに朱南に対して求愛行動なんてして……黄央ちゃんのためにウソつくしかないじゃん。インフルエンサーとして、人を楽しませないなんてありえないんだから」


 それから彼女はふと自分の唇を触った。


「それに甘すぎ。あのクレープより甘い」ゆっくりと指で唇をなぞる「キスまでしてきて……どんだけ朱南のこと好きなの……ほんとにもうっ!」


 火雀朱南はぎゅっと胸の上にあるスマホを握りしめた。


「黄央ちゃんのキス。朱南には……甘すぎるよ……」

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女×女の恋愛リアリティーショーは今日も終わらない 鴻山みね @koukou-22

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