幻奏戦隊キョウメイジャー【期間限定投稿】

イトウマサフミ

蘇る邪亜魔城

 東京都内の工事現場。


 硬い土壌を掘っていたショベルカーが、何かに当たる。


 次の瞬間、大規模な爆発が起きた。




 噴火口のようなくぼみ。一帯に燃え立つ炎。そして、謎の怪物。


 または、怪人とも言えるだろう。赤黒い蜘蛛の形であった。




 両腕を掲げ、身を震わせ、唸り声を上げる。

「復活!ツチグモジャーマ!」




 太い鎖に巻かれた丸い台座。


 ツチグモジャーマがエネルギーを送る。


 鎖が砕かれ、台座の扉が開く。漆黒の光が空に昇った。




 たちまち暗雲が広がり、雷鳴が轟き、巨大な物体が飛んできた。


 後光を背負う観音像のような外観。


 悪しき魔人の一族、邪亜魔じゃあま百族の要塞であり、本拠地である。


 それは邪亜魔城と呼ばれ、異空間も飛行できる。まさに難攻不落の城だった。




 城内の中心部。邪亜魔百族を束ねる支配者が、仏像のように鎮座している。


 逆立った白い髪、般若の顔、鋭い牙、筋肉質な細い体、背に伸びた無数の触手。


 鬼神大帝ゾマーゲである。




 その前には、四大幹部が控えていた。




 マンモスの頭骨をかたどった兜を被り、口元に白いひげを伸ばし、槍にもなる長い杖を持ち、黒いマントで身を隠した老人。


 闇博士、ネイラーである。




 黒髪のロングヘアに、シャドウメイクを利かせた目元、長大なむちを備え、蛇革のレザースーツを着た妖女。


 闇刺客、ローミンである。




 血のように赤い面具、さやに納めた巨大な刀、筋骨隆々な体を甲冑で固め、鎧武者の風貌をした豪傑。


 闇武者、ズンバである。




 気色の悪い笑顔、でかい福耳、青い肌、でっぷりした肥満体にはタトゥーが入れられ、角笛を持った洒落者。


 闇商人、ドッコイである。




 ゾマーゲが重く低い声で述べる。

「ついに我が邪亜魔百族は大復活を果たした。今度こそ、地上の人間どもを根絶やしにし、一万年の恨みを晴らすのだ」


 ネイラーが厳かに言う。

「すでに邪亜魔獣が取りかかっております」


 ローミンは異見する。

「ツチグモジャーマだけで大丈夫かしら」


 ズンバは刀を抜く。

「拙者の魔道剣が騒いでおる・・・一刻も早く人間を斬りたいと・・・・・・」


 ドッコイは小躍りした。

「軍資金なら十分貯まってまっせ。ぶちかましてやりましょ」


 そんな折、ゾマーゲが独り言を口にする。

「人類を滅ぼし、地上を制圧し、我が理想郷としよう。さすれば、は永遠の命を得るのだ」


 邪亜魔百族は激しい憎悪を募らせ、逆襲を狙っていた。




 都内のビル群を、人々が行き交う街の通りを、電車やバスの中を、小さな光が飛んでいく。


 すると、少女の声が響く。

 ――大変です!邪亜魔百族の封印が解けてしまいました!あの者たちが蘇ったのです!


 しかし、誰ひとり気づかない。


 それでも呼びかける。

 ――邪亜魔百族は人間を滅ぼし、世界を支配しようとしているのです!


 だがやはり、誰の耳にも入らなかった。




 都内にある杉並学園高校。


 放課後の部室に曲が流れる。


 そこは軽音楽部。


 五人の生徒が練習に励んでいた。


 ブレザーの制服を着たまま、それぞれが担当する役割をこなし、力を注ぐ。




 マイクを手に熱唱する青年。ボーカルの堂上翔平どうがみしょうへいだ。


 子どもの頃から歌うのが大好きで、楽器はできないけれど、とにかく歌ってみたい。そんな軽い気持ちから入部した。お調子者で楽観的な面もあるが、正義感は人一倍強い。




 エレキギターを軽やかに弾く青年。ギターの冷泉憲一れいぜいけんいちだ。


 音楽家の家系に生まれ、曲や楽器などの知識は豊富であるが、やや自己中心的な面もあり、プライドも高い。しかし、メンバーの一長一短をしっかり捉えている。




 ベースギターを盛んにかき鳴らす青年。ベースの宮嶋優太みやじまゆうただ。


 伝説のベーシスト、ポール・マッカートニーに憧れ、入部してから初めてベースギターに触れた。今は勉強よりも音楽に熱中している。格闘技の経験もあり、基本は体育会系だ。




 ドラムを巧みなテクニックで打ち鳴らす少女。ドラムの浮網志保ふあみしほだ。


 バンドマンである父親の影響で、小学生の頃からドラムを叩いていた。そのため、プロ並みの腕前を持つ。とても明るい性格ではあるが、お金の話になるとうるさい。




 キーボードのピアノを朗らかに奏でる少女。キーボードの相馬麗子そうまれいこだ。


 幼少時からピアノを習っており、将来の夢はピアニスト。バンドでの演奏は初めてだったが、仲間同士の一体感に楽しさを覚えている。普段は優しい性格だが、キレると怖い。




 この五人が部員であり、共に三年生であり、同じクラスの生徒である。




 やがて、演奏が終わる。


 それからすぐ、憲一がひとりひとりを指差していく。


 まずは翔平だった。

「翔平、肝心なところで声が上ずってる。もっと腹式呼吸を練習しろ」


 次は優太を指す。

「優太、リズムがキープできてない。力任せに弾くな」


 今度は志保だ。

「志保、ペースが速すぎる。俺たちバンドなんだぞ。みんなに合わせろ」


 最後は麗子である。

「麗子、テンポが不安定だ。ピアノとは違うんだからな。ちゃんと意識しろ」


 すると、志保がぼやく。

「部長だからって偉そうに・・・・・・」

「ん?何か言ったか?」

「憲一だってさあ、弦がビビッてバズってんのよ。チューニングしてないでしょ」

「してるよ」

「嘘つけ」

「ほんとだよ。俺を誰だと思ってんだ」

「独りよがりのナルシスト」


 優太が噴き出す。

「確かに。的を射た表現」


 憲一は腹を立てる。

「お前らこそ完璧じゃなかっただろ!俺に文句言える立場か!」


 麗子が間を取り持つ。

「喧嘩はやめてよ。学園祭でも同じことするつもり?」


 翔平も仲裁に入る。

「そうだよ。後輩に笑われるぞ」


 志保が返す。

「翔平は黙ってて。部費ケチったんだから」


 優太も繰り返す。

「スマホ欲しいからって、普通やるかなあ」


 だが、翔平は黙らなかった。

「千円だけだろ」


 志保が手のひらを差し出す。

「今払え」

「今!?」

「たかが千円、されど千円」


 翔平は苦笑いになる。

「いや・・・ちょっと手持ちが・・・・・・」

「千円もないの?」

「三百円だったら」

「なら三百円でいい。払え」


 そんなやり取りに、憲一がツッコむ。

「おい!俺をほっとくな!」


 あれやこれやと言い合う四人。


 他愛もない口論だった。すると、シンバルの音が大きく鳴り響く。


 一瞬で静まり返った部室。


 鳴らしたのは麗子であった。とても怖い顔をしている。怒っているようだ。


 言葉使いが荒くなる。

「てめえらグダグダうっせえんだよ!おとなしく練習しろ!」


 四人は「はい」と素直に応じた。


 そのとき、翔平の耳に少女の声が伝わってくる。

 ――誰か、助けてください!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る