10年ぶりに見かけた幼馴染を助けたら、高校時代に戻ってました。(※ただし、女の子として)

アイズカノン

第1話 かつてのあの日をもう一度(※ただし女の子として)

 最後に覚えているのは雨にうたれて倒れ込んだ横断歩道の上。

朦朧とする意識の中、次第に意識が薄れてくる。


「―――――――――。」


 何か言って揺すってくるかつての幼馴染。

隣には夫らしき男性。

せっかくの再開もこれではなんだったのかよく分からなくなる。


 まあ、でもいいか。

彼女――藤澤ふじさわ深雪みゆきは高校時代はクラスの人気者だった。

かつて、サッカー部の先輩と付き合ってると噂されて、実際に付き合った。

ある意味、自慢の幼馴染。

その後もその先輩を支え続けて、ワールドカップの優勝して、ついにはテレビにも出ていた。

そんな自慢の幼馴染。

もうボクの隣にいないはるか遠くの幼馴染。


 最後にこうして会えて、守れて、良かった。

もし叶うのなら、深雪たちの人生がよりよくあつ続けることを……ボクは――――――――。


♡☆♡


 ピピピ――。ピピピ――。ピピピ――。

懐かしい時計のアラームで目を覚ました。

時刻は6:00ちょうど。

高校行ってた時はだいたいこれぐらいに起きて、往復2時間くらいの電車に乗って、通ってた。

なんだか懐かし――――ん????。

待てよ。待てよ。と身体を起こす。

少し身体のバランスがおかしく感じて、ベッドから出る。

次第に感じてた違和感は現実としてボクに認識させる。


「誰だ……。この子……」


 黒髪のショートヘアに青い瞳。

白いキャミソールに灰色のドルフィンパンツのパジャマを着た美少女が立っていた。


………………。


 いや待ておかしい。

そう思ってボクは近くにあった制服(女性仕様)から生徒手帳を取り出す。


「嘘だろ……」


 そこには、自分の名前と家の住所、生年月日と性別。

そして、ボクが『過去に見なかった』自室の鏡に写ってた美少女の顔写真があった。


綾瀬あやせ司沙つかさ 性別:女】


 少し女の子らしくなった自分の名前に若干驚きつつ、だんだん違和感が薄れていくのを感じる。

机に置いたカレンダーは、かつて幼馴染に告白して振られた日時が書かれていた。


 ボクの人生が決まったようなあの日。

その時間にどうやら戻ってきたみたい。

だたし、女の子として。


♡☆♡


 とはいえ、戻ってしまったことや、女の子になったとか今はそんな不可思議な現象に構ってる暇はなかった。

何しろ学校があるのだ。

いきなり親に「お母さん。ボク、女の子になったる」って言っても、(うちの子、何言ってるの?)としか思わないだろう。

だからここはあえて流されることにして、これからのことは後で考えることにした。


(とりあえず、着替えないと……。うん……)


 最初は躊躇したものの、身体が動き始めると、まるでオートモーションのごとく、パジャマを脱いで下着を、制服を着ていた。

この仕様は正直助かる。

勝手に慌てふためいて、親を困らせる心配がないから。


「よしっ……」


 着替えたボクはカバンを持って、1階のリビングに降りていく。

下に降りるとお母さんがいつもの朝食を作っていた。

量はこの生まれ通りの少なめのサイズ。

だけど前と変わらないいつもの食事。


「お母さん、いつもありがとう」

「…………っ」

「ん?」

「もう、どうしたの急に」

「なんか、お礼言いたくなって……」

「そう、それはお赤飯炊かないとね♡」

「ちょっと、それは大袈裟すぎない!?」

「それくらい嬉しいってこと」

「うん……。本当にありがとう」

「もう、さっさと食べちゃいなさい。遅れるわよ」

「あっ、そうだった」


 時間的余裕はあるけど、ボクは少し急いで朝食を食べた。

いつもの感覚で食べてたせいで、ちょっと喉に詰まらせてお母さんを心配させちゃったけど。

また食べられるのが、ボクは嬉しかった。


♡☆♡


 それから電車通学に学校の授業、昼食のお弁当に午後の授業。

2度目の学校生活はさして変わらなかった。

もちろん人間関係も。

ただ変わったことがあったといえばボクの立ち位置。

なんか聞こえる小言を聞いてると、かつて陰キャぼっちだったボクの立ち位置はどうやら、『クラスに2番目くらいに可愛い、陰のある美少女』らしい。

いや、どうしてそうなった?。

ちなみに、幼馴染は3番目らしい。

じゃあ、一番目は誰ですか!?。


「ん――――」


 思い出せそうで思い出せない引っかかりがあるが、今はそんなことよりも幼馴染だ。

ボクはかつて幼馴染に告白した場所に向かった。

まるでかつての思い出をなぞるように……。




 そして向かった場所には、それこそかつての写しのように、再上映のように幼馴染がいた。

黒髪のロングヘアに銀色の瞳。

でも雰囲気が違う。

そこには思春期の未熟さを感じない。

むしろ大人っぽいを通り越した悟り。

それこそ後悔を経験したような重たい雰囲気。


「藤澤さん……、もしかして君が?」


 かつての幼馴染、藤澤深雪は静かに頷いた。

それはさっき感じた直感を肯定するように……。

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