第2話 春信の決意
「なにが違うんだろうねえ」
考えながら歩いているうちに春信はいつの間にか日本橋まで来ていた。ここも芝に劣らず
やはり役者絵が多い。演じる場面の切り取り方が面白い。役者も誇らしげに絵に収まり、買ってくれと手を伸ばしてくる。
売られている絵はどれもこれも輝いて見えた。それがまた悔しくもあり羨ましくもあり恨めしくもある。
ふと気づいて並んだ絵本のひとつを手に取った。
「やっぱり
春信が好きな絵師は京の
描くならこんな絵を描きたい。写して描いて少しは描けるようになって何年経っただろう。春信は初めて真似た拙い絵の楽しさと気恥ずかしさを思い出す。
「いらっしゃいませ、西川祐信がお好きなんですか」
思いに
「ええ、男も女も品のある表情がいいですよね。画題を和歌からとってるとこなんかも雅な雰囲気があって好きなんです。これは持ってるんですが新しいのは入ってますか」
「それが京からの
話している横から壮年の男の渋い声が割り込んできた。
「へえ、兄さんも
「いいですよね、絵の中に気持ちが入り込んでしまうっていうか」
「そうそう、そうなんだよ。こういう雰囲気は真似たくなるよなあ」
「俺も祐信の新しいのを探しに来たんだが、まだ入らねえんだな」
残念だと頷きあい苦笑いが出た。
「京なら摺ってすぐのものが出回るんですがねえ」
「そうか、京なら祐信が……そうだ!」
「お客様?」
「いや、ありがとうございます。また寄らせてもらいます」
呆気にとられた手代と客の男を残して春信は走り出した。たった今、歩いてきた道を駆け戻っていく。
「そうだそうだ、京へ行こう。本も早く手に入る。どうせなら
戻った
「江見屋さん、修業してきますんでちょいと待っててください」
「なんだい、藪から棒に。うちはお前さんみたいな駆け出しひとりを待ってるわけにはいかないよ。けどまあ、いいものを持ってきたら話は別だ」
「ありがとうございます。いってきます!」
それだけ言うと春信はまた飛び出した。
どこへ行くのかという江見屋の問いは、走る春信には届いていなかった。
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