第2話 雨宿りの夜に〜雨の降る会社帰り〜

 雨粒が街灯に淡く光りながら落ちていく。


 夜十時、帰宅する人波の中に、早瀬結衣は肩を落として歩いていた。


 手に握る紙袋の中には、仕事の資料。

 今日も会社を出るのが遅くなった。


(また、ミスを補うために残業……誰かに頼ればよかったのに……)

 頭では分かっていても、体は動かなかった。


 職場の後輩――三浦。

 彼のミスを庇ったのは、結衣自身だった。


「私が確認不足でした」と言った瞬間、上司の冷たい視線が突き刺さった。

(ほんとは違うのに……でも、あの子が責められるのを見るのが怖かった)

 以来、結衣はひとりで抱え込む時間が増えた。


 歩きながら、目元を手の甲でぬぐう。

(泣くのなんて……いつぶりだっけ)

 信号機の光が滲んで見えた。


 その時、突風に傘がひっくり返り、結衣は思わず駆けだした。

 雨を避ける場所を探して路地に入ると……


 そこに、見知らぬ古い建物が建っていた。

 木造の、やわらかい光が漏れる図書館。

 入口の提灯がゆらりと揺れ、

【星月の栞図書館】と古い文字が浮かぶ。


「……こんな場所、あったっけ?」

 そう思うより先に、雨と心の疲れから逃げるように扉を開けた。

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