第1話 夜更けの迷い子〜孤独の迷宮〜

 気づくと、砂良は白い霧の中に立っていた。


(ここ……どこ?)

 足元には光るタイルが続き、迷路のように曲がりくねっている。

 澪が隣に立ち、静かに説明した。


「ここは“孤独の迷宮”。砂良ちゃんの心が作った世界だよ」

「……私の……?」

「うん。誰にも触れられたくない気持ちと、

 ほんとは触れてほしい気持ちが混ざって形になってるの」

 霧の向こうから声が聞こえた。


《どうせ嫌われてる》


《話しかけても迷惑》


《私なんか、いない方がいい》


 その声は全部、砂良自身の声だった。

 砂良の膝が震える。

「……やめて……聞きたくない……」

 澪が肩に触れようとすると、砂良は反射的に身を引いた。


「あ……ごめん、触らない方がよかったよね」

 澪のさりげない気遣いに、砂良は目だけで「違う」と伝えた。


(ほんとは……大丈夫だって言いたい……でも怖い)


 そんな砂良の気持ちを澪は理解していた。


「砂良ちゃん。あの声を止めるには、迷宮の中心にいる“影”に会わないといけない」

「影……?」

「砂良ちゃんの心が生んだ存在。

 孤独を強く感じるとき、その影はどんどん大きくなる」

 砂良は喉を鳴らした。


「……行かなきゃ、だめ?」

「うん。でも、ひとりじゃなくていい。

 私が一緒に行くよ。絶対に置いていかない」

 その言葉に、砂良の胸がじんわりと温まった。


 二人は光るタイルを踏みしめ、迷宮の奥へ歩き出した――。

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