Prologue:星型の栞
まぶたの裏で、星の光がぱちぱちと弾ける。
澪が目を開けると、部屋の天井がぼんやりと霞んで見えた。
夢の名残——星月の栞図書館の香りが、まだ鼻の奥に残っている気がした。
紙と夜風と、どこか懐かしい光の匂い。
「……また、あの夢だ」
つぶやいた声はかすれ、思考はまだ夢と現実の境目にいた。
時計を見ると、針はすでに登校準備を急かす位置にある。
澪は制服に着替えながら、鏡の前でそっと自分の目をのぞき込んだ。
黒い瞳の奥に、昨夜の星色がうっすらと残っているように見えた。
「気のせい……だよね」
けれど、胸のざわめきだけは誤魔化せない。
アステルの静かな声。
肖像画の青年の、泣きそうなまなざし。
封印された“月影室”。
思い出すたびに、目の奥がじんわり熱を帯びる。
階下へ降りると、母がトーストを焼く匂いが漂っていた。
いつもの朝。
なのに、澪だけが昨日とは違う世界に立っているような気分だった。
「澪、寝不足じゃない? 目の下ちょっと黒いよ」
「大丈夫だよ。ちょっと変な夢見ただけ」
笑って答えると、母はそれ以上深くは聞かなかった。
いつものことだと思っているのだ。
澪が夢の話をするとき、それが“普通の夢”ではないことに気づいていない。
登校路を歩くと、風が頬をかすめた。
ふいに視界の端で、光がきらりと瞬いた気がして足が止まる。
——星の欠片?
ふるふると首を振る。朝の光が反射しただけだ。
そう思い込もうとしたが、胸のざわめきは消えない。
昨夜、アステルが言った言葉が、耳の奥にこだまのように繰り返された。
「おまえはまた来るだろう。ここに“栞”を落としていったのは、おまえ自身だからね」
栞。
澪は思わずポケットに手を入れた。
そこには、入れた覚えのない薄い金色の紙片が触れた。
「……え?」
取り出すと、それは小さな星型の栞だった。
昨夜の夢で、アステルが本に挟んでいたものと同じ——。
澪は息をのんだ。
夢と現実。
その境界が、ゆっくりとほどけていく音がした。
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